【スタゼノ】お砂糖をちょうだい

バレンタインデーなのに紛争地にいるスタンリーが、ゼノとビデオ通話をしながらオープン・ウェン・レターを開ける話。

 今日、世間は賑やかなバレンタイン・デーだっていうのに、俺はいつも通り紛争地に派兵されて、今も任務のために基地で待機中だった。全く嫌になる、そりゃあさ、自分が望んでの仕事だってことは分かってたけどさ。
 とはいえ、俺が今回送り込まれたのは幸いにもまだ安定していた場所だったから(といっても、この後俺には地獄の行軍が待っているわけだが)、ネットワークがブラックアウトすることはあまりなく、ゼノと毎日のように喋ってはいた。それに今日この日に海外にいるってことは前々から分かっていたから、俺とゼノは頭を使って、ちょっとしたデートをすることにしていた。そう、アメリカの軍人が恋人とよく備品のパソコンでするビデオ通話だ。それも特別な仮想デート。同じワイン、同じ食事を用意して、カメラ越しに愛を囁き合う、そんなデート。
……どうよ、恋人が海の向こうにいる最中に浮気はした?」
 俺は深夜、外で砂埃が舞う中、比較的安全な部屋の椅子に座ってワインを開けながら、そんなふうにゼノをからかった。別に疑っているわけじゃない。彼が俺を愛していることは分かっていたし、全然奔放じゃないのも分かっていたけれど、それでも画面越しにしか触れないんだ、恋人の言葉で否定して欲しかったのだ。ゼノに愛していると言われたかった。だから次の台詞がイヤホンに届いた時、俺はちょっとばかし感動した。
「まさか、僕には君だけだよ」っていう、軽いけど重い言葉に、俺はいつもじゃ酔わない量のアルコールに頭をやられちまった。
……あんたの声、こんな時間に聞くとやべぇね。身体が勝手に熱くなって来ちまうよ」
 俺は空になったグラスに口付け、画面越しにゼノを見やる。特殊部隊の隊長に与えられる部屋には俺しかおらず、狭くはあったものの俺はゼノと二人きりだった。夜の闇のような瞳と見つめあっているうちに、銀の月のような髪を画面越しに撫でているうちに、ごく近くにいるような気すらした。俺はこれまでのデートを思い出し、今日のそれも悪くはないじゃん、と思った。俺とゼノは遠く離れてはいるが繋がっている。キスもファックも出来ないけど、もっと深く繋がっている。
「ふふ、君のそういうところは昔から変わらないね。……僕も同じだよ。君の息遣いをイヤホン越しに聞くだけで、もう駄目になってしまいそうだよ」
 ゼノはそう言ってどこかいやらしく笑って、まだワインが残るグラスの縁を舐めた。まるで、俺にそうするみたいに、まるで、俺を挑発しているみたいに。
「あんたの声を聞いてると、エロい気分になるんよ。なぁ、責任とって……
 俺は画面に映るゼノの唇をなぞり、そんなふうに言う。すると彼は笑って、俺の背後にある棚を指差し、「オープン・ウェン・レターを開けてみてくれたまえ」って言った。「我慢強い君のことなんだ、あれはまだ開けてないだろう?」とも。
 俺はそれに苦笑する。整頓された棚には、神経質な文字だがでかでかと『あなたのお砂糖ちゃんから』と書かれたボックスがあった。そこにはゼノからの手紙、こんな時に開けてって書かれた封筒(例えば、寂しくなった時にこの封筒を開けて、っていうよく恋人たちがお遊びでやるやつだ)が何通も入っていて、まぁ、そこには俺が検分したところによると、確かにエロい気分になった時に開けてって封筒もあった。そして今、ゼノは多分、それを指している。
「あんたの前で開けんのはオナニーしてるみたいでやなんだけど……。で、何入ってんの?」
「おや、僕の前でマスターベーションをするのは嫌いかい?」
 俺の質問に、ゼノはそんなふうに直接的に笑いながらはぐらかす。まぁ、そんなのはいつものことだったので、俺は言われた通りにボックスからお目当ての封筒を取り出し、それを開けて一枚のカードととある写真を見つけた。見つけたのだが、それがあまりにもいやらしかったので、俺はちょっと絶句してしまった。あんた、こんなのを自分の前で開けさせようとしたん? そんなに俺の驚く顔とか、オナニーが見たかった? どっちも嫌じゃないけどさ、でもやっぱり、直接触れられないのは嫌だな。あんたと距離が離れてるのは嫌だって強く思うな。
「どうだい? 満足出来そうかい?」
 カードと写真を見て黙り込んでしまった俺を見やって、ゼノは愉快そうにワインを空ける。確かに満足出来そうだ。『君のディックが世界で一番好き』ってメッセージと、ベッドの上で裸になって、口を開けてフェラチオをする時、ペニスを掴む指のジェスチャーの写真。お砂糖ちゃんにこんなことされてさ、興奮しない男なんていんの?
「あんたって本当にサイコーだって思ってるよ。いつの間にこんなにエロくなったん? お砂糖ちゃん」
 俺がそう言ってゼノの写真に軽くキスをすると、彼は微笑みながら「君ほどじゃないけど僕も出来る男なんでね」と言った。この時の俺は多分、よっぽど物欲しそうな顔をしていたんだろう。自分でも分かっちゃいたけれど、彼の満足具合にはちょっとムカついた。それくらい、俺はゼノにやられていたから。今すぐにでも任務を放りだしてあんたに会いに行きたいって思ってしまうくらいには、俺はやられていたから。 
「あんたに今すぐぶち込みてぇ。あんたにしゃぶらせてぇ。んで、あんたが泣くまでやりまくりてぇよ」
 俺はイヤホンにそう囁き、画面のゼノを撫でる。するとゼノはワインで赤らんだ頬を盛り上げて、こんなふうに言った。
「じゃあ、そのボックスに入ってるI.O.U.クーポンを使ってくれなきゃ。帰ったらメッセージ通りハグ十回と、それ以上のことをしてあげるよ。……帰還後七十二時間は僕を誰にも明け渡さないで欲しい」
 I.O.U.クーポン――恋人同士の間でやり取りされる約束券みたいなそれまで作っていたなんて、んで、そんなに熱烈なメッセージまで添えてくれていたなんて、あんた、よっぽど俺に甘いんだね。いや、分かっちゃいたけどさ、さっきの写真といい、あんたは俺を甘やかすのが好きみたいだね。俺もあんたを愛してるけどさ、あんたってたまに科学屋だと思えないくらロマンチックになんね。俺だって大概だけどさ。
 ――あぁ、あんたに愛してるって言いたい。俺は黙り込み、何回もカードや写真にキスをする。遠く離れているゼノにキス出来ないのがすっげぇつらくて、それをあんたに分かって欲しくて。そして散々紙にキスをした俺は、抱えたボックスから『理由もなく愛しているって伝えたい時』って封筒を取り出す。そんで開ける。するとそこには『愛しているよ、世界中の誰より』と短く、だが熱烈に書かれた手紙が入っていた。ちゃんと署名もしてある。宣誓するみたいにそれは添えられている。俺はそれに黙りこくる。あんた、本当に――
「どうしたんだい? 声が聞こえないよ、スタン。接続不良かな……
 画面越しに、ラップトップをいじっているんだろうゼノの不安げな表情が映る。俺はそれ慌ててこう取り繕う。いや、本音を言う。
「今、愛してるって言いた時にってカードを開けたとこ。あんたの字、震えてんね。徹夜で書いたんだろ? 俺が海の向こうに行っちまうって分かって、そんですぐにこのボックス作ってくれたん?」
……まぁね。いや、でも時期的にバレンタインが近かったから、何かしたいとは思っていたけれどね」
 ゼノは恥ずかしそうに笑い、そして俺達は画面越しに額をくっつける。早くあんたにキスしたい。んであんたにさっきの写真とおんなじようにフェラチオをしてもらって、んで散々ファックして、愛してるって言いまくりたい。やりまくって、愛し合って、そんで最後に残った気持ちをぶつけ合いたい。
……早く帰りてぇな。ゼノ、あんたんこと愛してんよ」
「待ってるよ。気持ちはお揃いなようだから」
 ゼノが甘く、ざらついた声で囁く。俺はゼノのカードに何度もキスをして、パソコンの画面をさすって、そして今も不眠気味なのだろう、彼の目元をいじる。そして愛しているって繰り返す。それを続けているうちに、画面は固いはずなのに、彼の柔らかさや熱まで伝わった気がした。それくらい、俺達は近くにいた。遠い所で離れ離れの恋人達を演じているっていうのに、ごく近くにいる気がした。
 ねぇ、あんたを愛させて、俺の側にいつもみたいに寄ってきて、膝の上に乗って、そしたら、あんたのつらさとか、悲しみとか、そんなものごと抱いてやっからさ。
 そう思うのに、それは声にならなかった。代わりに出たのは、いつものジョーク、甘いからかいだけだった。
「お砂糖ちゃん、あんたのブロウジョブが終わったら、この口ん中に入って来いよ。全部舐め尽くしてやっからさ」
 俺は口を大きく開けて、直接的に愛を囁く。するとゼノは君って馬鹿かい、と笑って、唇をさすった。
「全く、本当に甘いのは君の方だよ。僕を溶かすのは君の方だよ」
 そして、俺達は笑い合って画面越しにキスをする。離れ離れのバレンタインを祝いながら、そしていつか再会する日を待ち望みながら、直接抱き合える日を望みながら、恋人達の日を、祝い合うのだ。


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