たかせ
2026-02-03 17:29:42
4670文字
Public ロウリン小話
 

デートする話(ED後お付き合いロウリン)


以前別所にあげていたものの再掲載&微修正版。
前半:ロウとアルシオ夫妻のとある日の会話
後半:ロウリン
※ロウリンお付き合い後設定です。

たまには素直なロウリンもいいかな……という話。
おしゃれはよくわからないので世界観の中の服装で、いつもとちょっと違う、っていうイメージです。
シオちゃんは二人のことかわいくてしょうがないんじゃないかと思ってます。





ことり。
ローテーブルに3人分のお茶を出して、アルフェンはなるべく静かにソファに腰かけた。
隣にはシオン。向かいにはロウ。
ローテーブルの脇には、土産としてロウが持参した山盛りの肉が積まれている。


「それで、改まってどうしたの?」
夫の入れた紅茶を一口飲んでほう、とひとつ息をついたシオンは、ゆるりと視線を上げて向かい側に座る少年を眺めた。
対するロウはごくりとつばを飲み込んで姿勢を正し、正面のシオンを見つめ返す。
それから、勢いよく口火を切った。
「頼みがあるんだ」
「何かしら」
「俺に”おしゃれ”ってやつを教えてください!!」
がばり、と音がしそうな程勢いよく下げられたロウの頭は、勢い余ってそのままローテーブルにぶつかった。がん、という痛そうな音にアルフェンがひっと顔を引きつらせる。
そんなアルフェンの横で、シオンは優雅な所作でティーカップをソーサーに戻した。
……一応、理由をきいておくわ」
シオンの声にロウは神妙な面持ちで顔を上げた。だがその視線は上がることなく、膝上に置かれた拳に注がれたまま。しばらく沈黙が落ちる。
ややあって、がしがしと頭の後ろをかいたロウはようやくシオンに視線を向けた。
「あー……だから、その……リンウェルと、デートする、から」
つっかえつっかえ述べられた理由と共に、ロウの頬がほんのりと赤く染まる。その様子に黒髪の少女の顔を思い浮かべながら、本当に恋人になったんだなあとアルフェンはここまでの長い道のりに思いをはせた。


ただ単に恥ずかしい、というよりはばつが悪そうな微妙な表情を浮かべるロウ。シオンは彼の申し出に頷きつつも、素直に疑問を口にした。
「理由は分かったわ。……けど、どうしてまた急に?この前のデートはその格好ままで行ったのでしょう?」
言いながら、ちらりと少年の格好に視線を向ける。肩に乗せられた一際目を引く狼を含め、旅の頃から見慣れた彼の一張羅だ。
「げ。何で知ってんだよ」
「リンウェルから聞いたのよ」
……し、仕方なかったんだよ。直前まで護衛の仕事があって」
「そうみたいね。別にリンウェルだって怒っていなかったわよ」
……そうなんだよなあ」
リンウェルとの会話を思い出しながら続けるシオンに、ロウははあ、とため息をついてがくりと頭を垂れた。その様子にアルフェンは首を傾げる。
「どうしてロウはそんなに落ち込んでるんだ?」
確かに”デート”という場に最適な格好ではなかったのかもしれないが、理由があってリンウェルも理解を示してくれているのなら、何を落ち込む必要があるのだろうか。
「リンウェルはそのままで構わないって言ってくれたんだろう?」
「そりゃそうだけど……
そう答えつつ、ロウの表情は沈んだままだ。
……何つーか、その、悪かったなって」
「? 悪かった?」
「あいつ、めちゃくちゃかわいかったんだよ……
はあ、と大きなため息とともにそう言ってロウは両手で顔を覆った。何を思い出したのか、耳の先がちょっと赤い。
だがロウが口にした言葉にもいまいち状況が把握できなかったのだろう、アルフェンは不思議そうに目を瞬かせている。その様子を目にしたシオンは内心ちょっとときめきつつ、それとなくアルフェンに伝わるように説明を挟みながら続けた。
「それはそうでしょうね。私もキサラも一緒に買い物に行ったからよく知ってるわ。初めてのデートだから、って服も靴もすごく一生懸命選んでたもの」
「ですよね……
「ちゃんと褒めたのはえらかったわよ」
「そりゃあな……って、どこまで筒抜けなんだよ!?」
シオンの一言に思わず突っ込みながら顔を上げるロウ。その顔は先程とは比べものにならないほど真っ赤だ。
なるほどな、とおおよその事情を理解したアルフェンは、紅茶に口をつけながら内心一人で頷いた。


――それで、あなたはどうしたいと思ったの?」
シオンは少しだけ身を乗り出して、弟分と視線を合わせる。
尋ねられたロウはぱちりと一度まばたきをして、その蒼い瞳を正面から見返した。
……あいつが考えてくれた分くらいは、返したい」
普段より幾分落ち着いた声でしっかりとそう応えたロウに、シオンはきらりと目を輝かせた。
「任せなさい」




*****





「じゃあ、フルルも気を付けてね」
「フル!」

窓枠にちょこんと飛び乗ったフルルに笑顔とともに小さく手を振る。フルルは元気よく一声鳴いたかと思うと、ばさりと翼を広げて窓から飛び立っていった。青空に吸い込まれるようにして遠ざかっていく背中は、まだまだ小さいけれど旅の頃よりもずっとたくましくなったように思う。
遊びに行くフルルの後ろ姿を見えなくなるまで見送ったリンウェルは、よし、とひとつ気合いを入れてくるりと踵を返した。
鏡の前で最後のチェックをするためだ。

掛け布をめくりあげて鏡の中の自分を見る。
膝上丈のチュニックに、ショートパンツとブーツ。腰には特注で作ってもらった魔術書を止める金具付きのベルト。その場で右に左にと体をひねって再確認をする。袖繰りと裾に施されている刺繍がかわいくて思わず顔が緩んだ。うん、おかしなところは無さそうかな。
この前は少し気合を入れすぎて動きやすさまで考えずに行ってしまったので、今回はその辺まで考えたつもりだ。
最後に魔術書をベルトにしっかり固定して、準備は完了。
武器を持っていくなんて、と思わないでもないけれど、もしも何かあった時、何もできないのは嫌だと思ったら持っていかない選択肢はなかった。それに何かあったなら、どうせあいつもじっとしているなんてできそうにないし。おいて行かれるのはごめんだ。
関係性が変わったとしても、肩を並べていたい仲間なのは変わらないのだから。

身だしなみや戸締りを一通り確認すると、リンウェルは再び開いたままの窓辺へと向かった。
窓枠に手をかけてそこから通りを覗き込めば、ふわりと花の香りが鼻先を掠める。今日はどことなく甘い香りだ。
大通りから少し脇に入った小さな通り。そこに連なるアパートの一室が今のリンウェルの家だった。
ロウと待ち合わせをするときは、いつからかここで待つのが習慣になっていた。木々の隙間から通りを歩いてくるロウを見つけるのがひそかな楽しみなのだ。
ある時は慌てて走りながら、ある時は大きな荷物を抱えて、ある時はあくびを噛み殺しながら――そうして何度も訪れてくれたロウとの関係が変わったのは、ほんの2か月ほど前のことだった。


眼下を行きかう人々をぼんやりと眺めながら、今日はどうしようかな、と考える。
甘いものを食べに行くのもいいし、天気がいいから牧場まで行くのもいいかもしれない。ロウの仕事次第だけど、ちょっと遠くまで足を延ばしてもいい。
うーん、と楽しく頭を悩ませていたリンウェルは、ふと扉をたたく音が聞こえて慌てて振り返った。
「おーい、リンウェル」
「え?ロウ?」
聞き間違うはずのない彼の声。
まさか見逃した?
確かにぼんやりはしていたけれど――慌てて窓を閉め、しっかりと鍵をかける。戸締りをおろそかにすると存外ロウがうるさいのだ。


ぱたぱたと入り口まで駆け寄って鍵を開け、そのまま扉を押し開く。
「珍しいな。最近いつもお前の方からドア開けるのに」
「べ、別にいつもってわけじゃ……
いつもは歩いてくる姿を見ているからだ、とは言えなくてどう返したものかと思いながら視線を上げたリンウェルは、ぱっと視界に広がった見慣れない色彩に思わずぽかんとその場に立ち尽くした。

これまで彼が身に着けているところなど見たことのなかった襟付きの白いシャツ。その下にはこれまた珍しい細身のパンツとブーツ。雰囲気だけで言えば彼の父親を彷彿とさせるような、見たことのない格好をしたロウがそこにいた。
普段のひらひらだぼだぼの服のイメージが強いせいか、絶妙に体のラインを拾うその格好はまるで別人のようで。リンウェルはしばし無言のまま、まじまじとロウを観察してしまう。


……リンウェル?」
……
「おーい、リンウェルさーん?」
「はっ!」
はじかれたように顔を上げたリンウェルとようやく視線がきちんと合って、ロウは小さく息をついた。原因は何となくわかっていたので、首の後ろをかきつつぼそりと呟く。
「あー……そんな変か?これ」
視線を落とすロウに、リンウェルは慌てて首を横に振った。
「ち、違う!そんなことないよ!」
確かに見慣れなくて、びっくりしたけれど。
(かっこいい、よ)
そう思うのに、相変わらず素直に言葉がでてこない。
そうしている間にもじわりと頬が熱を帯びていくのがわかって、リンウェルはさらに焦った。
「そうじゃなくて、ただ、その――
咄嗟に口を開きかけて――ふと思い出す。
この前のデートの時のことを。

(あの時、ロウは何て言ってくれた?)

ロウは――そう。素直に褒めてくれたんだ。
『かわいい』って。

まさか真正面から褒められるなんて思っていなかったから、あの時とても驚いたのをよく覚えている。
真っ赤になったロウが、それでも真面目な顔をして言うものだから、思わずこっちまで緊張してしまって。心臓が口から飛び出してしまうんじゃないかっていうくらいドキドキして。
――すごく、すごく嬉しかった。
思わずシオンとキサラに報告してしまうくらいには、嬉しかったのだ。
かわいいと思ってもらえたことも、自分が努力したことに気づいてもらえたことも。


……リンウェル?」
顔を覗き込まれて、名前を呼ばれる。少し心配そうに眉根を寄せた顔。
ああ、よく見れば髪型もいつもと少し違う。上げた髪を横に流してて――悔しいけどちょっと大人っぽい。
きっと今日だけの、特別なロウだ。

……よ」
「え?」
「かっこいいよ」
「!」

気付いたら思わず口から素直な言葉がこぼれていた。
はっとして顔を上げれば、視線の先で見る見るうちに真っ赤になっていくロウの顔。つられるようにしてリンウェルも耳まで真っ赤に染まる。
「へ……あ、え……っと」
途端にしどろもどろになって狼狽えるロウに、リンウェルは思わず小さく笑った。
格好いいのにそういうところはいつもと変わらないんだから。
――でも、それがいいのかな)
うん。きっと、それがいい。

いつも通りのロウにほっとして、今度は顔よりじんわりと胸の奥が温かくなる。リンウェルは笑顔のままロウを見上げた。
「たぶんだけど、それ、シオンに見立ててもらったんでしょ?」
「お、おう……
「ってことは、ロウが、その、今日のために、頑張ってくれた、ってことだよね……?」
思わず目を見張ったロウに、リンウェルはより一層嬉しくなって思わずその手をとった。
それから真っ直ぐその顔を見つめて、ふわりと笑う。
「それが、すごく嬉しい」
「!」
「ありがとね、ロウ」
真正面からそれを受け止めたロウはますます赤くなって「……お前もかわいいよ」とぼそりと返すのがやっとだった。




扉にしっかりと鍵をかけて、ベルトに着けた小さなポーチに鍵をしまう。それから軽やかな足取りでリンウェルはロウの隣に並んだ。
今日は二人の2回目のデート。
さあ、どこで何をしようか。










ロウ&リンウェルのためにがんばるシオンちゃん大好きなのでこういうの無限に見たいです