ゆも
2026-02-03 14:59:18
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雅環 二次創作SS 「無駄にならないティーカップ」

⚠️ベストエンド後
⚠️ゲーム内ショートストーリー読後推奨

 雅火に誘われて、一緒に街を歩く。
 適当な理由付けで始まる私たちの『デート』は、あの再会以来、たびたびお互いの気まぐれで発生していた。
 今日は、行こうと約束して果たせていなかった本屋巡り。
 少し大きめの本屋に行って、本を見繕いつつ併設されているカフェでひと休みしたり、古本屋へ行って、懐かしさのある匂いを感じながら店内を見て回ったり。
 やはり、雅火の本好きは健在のようで、彼の荷物には大きな紙袋がひとつ増えていた。
 目星をつけていた本屋はすべて回り終え、私たちはぶらぶらとあてもなく歩いていた。
 そうしてふと、私はある店の前で足を止めた。アンティーク調でありながら入りやすい、カジュアルな外装の雑貨屋さん。ショーウィンドウに飾られたテディベアが手招きしているみたいで、なんだか無性に心がときめいた。

「ねぇ雅火、ここ見ていい? それともちょっとだけ別行動する?」

 合理主義の雅火は、雑貨を見ても楽しくないかもしれない——そんな配慮のつもりで言ったのだが、彼は不可解そうに眉を顰めた。

「別行動したらあんたと出かけてる意味がないだろ。雑貨でもなんでも、好きに見ればいい」
「でも雅火は、あんまり雑貨とか興味なさそう……
……あんたが俺のことをどう思ってるのかは、よくわかった。まあ、それほど興味がないのは合ってる」

 やっぱりそうじゃないか——と納得しかけたところで、雅火が「だが」と言葉を続けた。

「あんたが興味のあるものは、俺も気になる。それなら、なんの問題もないだろ」

 さも当然のように言われて、思わず私は目をぱちぱちと瞬かせた。
 あの俺様何様雅火様が、こんなにも融通が利くことを言ってくるなんて。

(それってなんか、私を優先してくれてるみたいじゃない……?)

 媚びを売る相手は選ぶ——そんなことも言っていたし、彼が変わり始めていることは理解できる。それでもやっぱり、まだまだ慣れない。

……わかった」

 真っ直ぐな雅火の視線から逃げるみたいに、ショーウィンドウへと目を戻す。胸の奥が、いつもより速く音を刻んでいた。

「なんか、調子狂うなぁ」

 トクトクと逸る心音を抑えながら、私は雑貨屋の扉を開けた。

 ◆ ◆ ◆

 店内も外装と同様に、重厚すぎないアンティークさと柔らかい可愛らしさが調和していて、かなり好きな雰囲気の空間だった。
 ゆっくり見渡すと、食器やキッチン用品、大きめの収納ケースなどが多いことに気づく。ここは、ファッション系ではなく日用雑貨が中心なのだろう。
 気に入るものがないかじっくりと探しながら、私は適当な話題を雅火に振った。

「相変わらず、雅火は料理しないの?」
「ああ。自分で作るより外注した方が効率がいい」
「運営だった頃より忙しくないでしょ? まだタイパ意識なんだ」
「時間的な効率もあるが……今から練習したところで自分の身になるとは思えない。既製品の方が早くて美味い」
……今度タコパでもする? もしくは鍋とか?」
……今の会話から、どうしてそうなる」
「いや、雅火の料理してるとこ、見てみたいなーって思って」
「だとしても、その二つはそれほど料理スキルが要らないだろ。……だがまあ、あんたの反応を見るために料理を練習するのも、ありかもしれないな」
……料理って一芸みたいなカテゴリだったっけ……?」

 そんな他愛のない話をしながら店内を歩き回って——私は、ティーカップがまとめて置かれたコーナーで足を止めた。
 特に惹かれたのは、白磁に赤いラインと青い花々が描かれたデザインのもの。シンプルすぎず、派手すぎない。……素人考えでしかないが、これならどんな紅茶も綺麗に見える気がする。手に持ってみると、しっくりと馴染んだ。

「これ、いいと思うんだけど。どう?」
「悪くない……が、ティーカップか」
「何その反応。そんなに意外?」
……あんたはコーヒーを好むだろう。既に持っているカップを、持て余すんじゃないかと思ってな」
……雅火は、私のカップの代表者か何かなの?」

 雅火の感性を考えれば、カップはひとつあれば十分、という考えなのだろう。
 選ぶこと自体を楽しいと思う私とは、真逆だ。

「まあ確かに、マグカップはいっぱい持ってるよ。けどティーカップは持ってなかったから。紅茶派の雅火のためにもなるよ」
……別に紅茶派というわけじゃない。それに、マグカップだろうと紅茶の味は変わらないだろ」
「気分の問題! ケーキとか食べるときはさ、食器がオシャレな方が満足感あるじゃん?」
「それは、カフェ巡りが趣味のやつの感性じゃないか?」
「あーもー! 屁理屈!」

 横から飛んでくる野次が気になって、思わず雅火を見遣る。
 いつもの意地悪なしたり顔をしているかと思っていたら、そこには考え込むような困惑の感情を滲ませた雅火がいた。

「確認するが、それは、あんたが買って、あんたが使うんだよな?」
「うん。……?」
「だとしたら、ますます理解ができん」

 眉を下げて余計に困惑する雅火。何か変なことを言っただろうかと、私は直前の会話を思い返す。だが、それよりも早く、雅火が口を開いた。

「俺のためのティーカップを、あんたが買う。それはつまり、俺があんたの家に上がる理由になり得るが……あんたは、それを理解した上で、許容してるのか?」

 ——まあ確かに、マグカップはいっぱい持ってるよ。けどティーカップは持ってなかったから。紅茶派の雅火のためにもなるよ。

 そんなことを言ったのを思い出し、失言だったと後悔した。
 だってこれは、『雅火のために、持っていないティーカップを買う』という文脈に他ならない。なんだったら『飲みに来い』という誘い文句にもなっている気がする。
 雅火を自分の家に上げたのは、再会して、その後にラトレイアの感想会をした一度だけ。……雅火に触れられたことを思い出して、じわりと額に熱が宿った。
 脳内では頭を抱えて転げ回っているが、顔に出ないよう必死に堪える。
 答えを待つ視線に耐えきれず、雅火から顔を逸らして、それとない言葉を考えた。

 私は——雅火と過ごす時間が、嫌いじゃない。
 誘い文句は強引だし、減らず口は相変わらず。突然現れては、私のことを掻き乱す迷惑極まりない存在——でも、一緒に過ごした時間を嫌だと思ったことは、一度もない。
 他愛ない話をして、雅火を知っていけることは、楽しいとさえ思える。
 今日この後、『またね』と言って別れて、それが雅火との最後だったら……受け入れられる気もするし、そうじゃない気もする。
 とりあえず、生存確認のチャットを送ってしまう気がする。そのくらいには、雅火という存在は、私の心に居座っているのだ。……大変、不本意ではあるが。

「急に上がり込んできたら通報するけどさ……雅火厳選のスイーツを手土産に来たら、このティーカップでお茶してあげてもいいよ」

 そう言って、私は挑発するように笑ってみせた。
 すると雅火も、どこか納得したようにふっと笑みを零す。

「そんな簡単な条件でいいのか?」
「じゃあ高めのやつ、リクエストする。雅火が買うんだし」
「別に構わない。指定してくれた方が、悩まずに済む」
「あっ、あと事前に連絡してからにしてよね、じゃなきゃ追い返す。それに頻繁にはだめだから。食べ過ぎて太るし」
「ああ、わかった」

 すんなりと受け入れられてしまって、なんだか悔しい気持ちになる。けれど、目の前の雅火は純粋に嬉しそうに見えて……私は何も言えなくなった。
 雅火と出かけることも、話すことも嫌いじゃない。これは純粋な気持ちのはず。
 ベンチに座っていて、『友達』が来たからスペースを空ける——そんな感覚。
 彼を招いて場所を共有することも、私は嫌じゃないと思い始めているのかも。

……ねえ雅火、『また』会ってもいいよ。今度は読書会でも、昼寝でも」

 そう言うと、雅火はどこか満足そうに口角を上げた。
 そして、彼は私が持っていたカップを手に取って、使い心地を確かめ始めた。
 緩やかに動く長い指先に目を奪われる。……一瞬だけ、時間がゆっくり進んだように思えた。
 満足したのか、雅火はカップを私に返し、じっと見つめてくる。その瞳には、私と同じ——期待の熱が秘められている気がした。

……そこまで言われて行かないほど、俺は鈍くない。このティーカップも、無駄にならないようにしてやる」

 遠回りで、捻くれた返答。けれど、雅火の気持ちは理解できた気がした。
 結局、この会話も単なる口約束に過ぎない。それでも、このティーカップが使われる日はそう遠くないと思える。
 私は——また会えると、期待してしまっているから。