望月 鏡翠
2026-02-02 21:07:20
1232文字
Public 日課
 

#1980 花束を持っていた人

#毎日最低800文字のSSを書く/祝福の塔

 死んだ人にお花供えるのって意味があったんだなぁ。
 だってほら、あんなに大人気だし。
 あっという間に解けていったバラの花束を見送り、そんな不謹慎なことを考えた。絶対口に出したらいけないやつだな、これ。
 格好いいスーツにバラの花束と黒手袋。今は花束がなくなって一輪の白い薔薇だけ手にしたその人は、天使の話をまだ受け入れ難いようだった。
「君も死んだの!?」
「そうみたいですね〜。びっくり。でも、死んだことよりも生き返るってことの方がびっくりじゃないですか?」
 人が死ぬのは正直よくあることだ。
 募金のときだって今この瞬間にも可哀想な子供が……と良心をチクチクされる。
 でも生き返るっていうのは、現実だと聞いたことがない。
……確かに?」
 と、その人は考え込んだ。
 日本人ぽくはないけれど話しが通じるのはありがたい。さっき確かめたこの場所の不思議機能のおかげなんだろう。
「死んで生き返ったことがあるのは主ぐらいなのに……。もしかして俺たちみんな救世主になっちゃうってこと!?」
 主……? あ、これから回ってくる各層にいる人?
 いや違うか。話の繋がり的に。
「あ、あ〜そういう感じになるんですかね。あー、確かに復活って普通は、そういう感じなのか」
 もっと奇跡とか感じられる荘厳な感じになるんだ。生き返るって聞いて復活の呪文とか異世界転生とか出てくる方が、少数派なんだろう。
「そうだよ。死んで生き返るって奇跡でしかない。向こうに戻った時用のかっこいいスピーチとか考えておいた方がいいかもしれないね。きっと俺たちの言葉は本に載るよ」
 それは……少し嫌かもな。
 本には載りたくない。そうか、生き返ったらそうなることもありうるのか。
 いやでも、と最初に聞いた説明を思い出す。
「え、でも……あの天使さん(?)の言ってることが本当なら、タイムリープというか歴史改変物というか、死ぬ前に戻るから周りから見たら復活に見えないのかも……?」
「あ!確かに、そりゃそうか。ま、これで変に主と並ぶ存在にされても困っちゃうし、ちょうどいいか。……て、君は、アジア人?っぽいから、きっと信じている神が違うのかな」
 神か……
 頭の中にその存在のイメージはない。あるのは神属性のキャラであって、フィクションの登場人物が作ったイメージしかない。彼が頭の中に思い描いたものとはたぶん全く別のものなんだろう。
 信仰の世界は、知らない世界の話という感じだ。
「アジア人すね、日本人です。あ、名乗るの遅れちゃいました鹿山です。鹿山光輝」
「日本人!ここ、なんか日本人多いよね。しかも若い子ばっかり。そっちの国は大変なの? コウキ!よろしくね。俺はロレンツォ・トラマリーノ。レンツォでいいよ」
 レンツォさん。名前の耳馴染みのない音の並びだけ、彼が元々自分とは別の言語圏に暮らしている人なのだと教えてくれる。
 よろしくお願いします、とその手を握り返した。