フリンズさんの違和感を探る話


「おかえりぃ…………ん?」
「ただいま帰りました……けど、どうしました?」

 部屋でソファに横たわり、ゴロゴロしながら休日を謳歌していたところに、家主であるフリンズが帰ってきた。せっかくなので起き上がって出迎えてあげよう、と思ったところで違和感に気づく。
「なんかわかんないけど、フリンズから良い匂いがする」
「匂い……ですか?」
 そう言われた彼も自身の服などを嗅いでみているが、「香水などをつけた記憶はないのですが」と自覚はない様子。でも私は明らかに違和感を感じているので、座っていたソファに立ち上がり、勢いよく飛び降りつつガバッと彼に抱きついてみた。
 慌てて正面から受け止めるフリンズ。よろけないのが凄いね。
「貴女は……そうやって、何故いつも飛ぶのでしょうね……?」
……癖ですかね」
 大きなため息をあからさまに吐き出しつつも、しっかり抱えてくれるから飛び付いちゃうんだよ。楽しいからね。
 そのまま器用に片手で私を持ち直し、彼は空いた手で頭を撫でてくれる。

――あっ」
 撫でてくれていたフリンズの手を捕まえる。
「おや、どうしました?」
「これだぁ」
 彼の手の甲に顔を近づけて、匂いを嗅ぐと、何かの花の香りがした。これが違和感の正体である、と彼の顔にも手の甲を近付ける。
 抵抗する様子もなく、自分の手の匂いを嗅ぐと「あぁ……」と小さく呟いた。
「思い出しました。事務所で報告書を提出するときに、紙で手を切ってしまったのです」
「あら痛そう」
「えぇ。それを見ていた職員が、ハンドクリームを貸してくださったのでした」
……なるほど?」
 そこまで聞いた私は、抱きついていたフリンズの体からズルズルと降りた。そのままぺたぺたと床を歩き、ソファへと戻って膝を抱えて、その膝に頭を埋める。
……今度はどうしたんです?」
「フリンズ、」
「はい」
「今すぐお風呂入ってきて」
…………ふむ、わかりました」
 彼の顔は見てないけれど、長めの沈黙から察するに、訳がわからない……と困っている空気と声を出すフリンズ。それでも彼は文句も言わず、素直に風呂場へと向かって行った。
 私は、少し怒っているのだ。理由はあるけれど、それは後回し。彼がお風呂に入っている間に、あれを準備する必要がある。微かに水音が聞こえ始めてから、私は顔を上げた。


 ***
 

「はい、戻りましたよ」
「うんうん良いね。いつものフリンズだ」
 濡れた髪の毛をタオルで拭きながら戻ってきた彼を、満面の笑みで出迎えてあげると「……一体何が始まるんです?」と少し怯えていて面白い。
「別に取って食ったりはしないよ。いいから、ここに座って?」
 ソファの隣をポンポンと叩くと、彼はそこに腰を下ろしてくれる。
「はい、手を出して」
 私は手のひらを上に向けて、フリンズに差し出す。彼は首を傾げつつも、私の手のひらに自身の手を乗せる。
 
 事前に開けて机に置いていた缶ケースからクリームを少し手に取り、フリンズの手の甲に乗せる。ついでに手のマッサージをしてあげつつ、クリームを全体に伸ばしていく。
「なるほどこれは、ハンドクリーム――ですか?」
「そうです。これは私のお気に入りです」
 片手が塗り終わったので「――ん」と、もう片方の手も乗せるように促す。反対の手も乗せて、大人しくしていたフリンズだったが……、ククッと耐えようとしたのに漏れ出てしまったような笑い声を溢す。
……なぁに?」
「いえ、なんというか……可愛らしいな、と」
「はいはい、なんとでも言いなさいよ」
 あはは!と、ついに声を大きくして笑い出すフリンズに、「そこまで笑っていいとは言ってない」とだけ抗議しておいた。

 
「良い香りのハンドクリームですね」
「そうでしょう。フリンズならいつ使っても良いよ」
「ふふ、ありがとうございます」



『嫉妬心を燃やしてしまったのよ、ちょっとだけね』