バラ肉
2026-02-01 23:41:56
3985文字
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覚悟ができなかった話 R15

アタルとの未来を諦める覚悟ができなかったブロッケンと、そんな彼を傷付けてでも遠ざけようとするアタルの一幕。

***

兄さんは、キン肉王家を出奔した過去から王家に負い目を負っており、今は贖罪として王家に人生を尽くすつもりで自らの幸せな未来を持つ気はない。
なので、ブロッケンに要らぬ期待を持たせないように心を鬼にして対応している…という設定です。



「抱かれたいなら、勃たせてみろ」

感情もなく投げられた言葉の冷酷さに、ブロッケンJr.はまるで全身へ冷水を浴びせられたような気分になった。

……ッ」

何か返事をしようと口を動かすが、動揺して上手く声が出せない。何度か試みるも、結局は空虚な息を吐くだけ。最後にはキュッと唇を噛み締めるしかなかった。
青褪めた顔はまるで紙のように白くなっている。忙しなく揺れる瞳は、ショックのあまり相手を直視できないようだ。ベリドットの淡い色合いに絶望の影が落ちる。
それに気付いていながら──問題の発言をしたアタルはと言えば素知らぬ顔でソファへ腰掛けたまま微動だにしなかった。
上体を背もたれに預けて寛ぐ姿には、震える男への情けなど微塵も見えない。
ただ、大きく広げられた足だけは相手のやる気を試すようで。
やるなら、早くしろ。
言葉はなくとも、放つ空気がそう語っていた。マスクから覗く瞳はひたすら相手の出方を待っている。

「オレ、は……

ようやく紡ぎ出した声は、しかしやけに掠れており、本人の葛藤をありありと表していた。
抱いて欲しいか、だなんて。その質問だけでも十分酷いのに、勃たせろとは──どうあっても自分を馬鹿にしている。更に言えば、これではベルトを開け、前を寛げ、下着から取り出すところからやらないといけない。一方通行にも程がある。勝気な若者にはとんでもない屈辱だ。

けれど、プライドをかなぐり捨てて尚、彼はアタルを想っていた。

……隊長」
ようよう名前を呼ぶと、ブロッケンJr.はのろのろとアタルの元へと足を進めた。その顔色は相変わらず優れない。いつもの快活さはどこにもなかった。あるのは覚悟を決めた昏い瞳だけ。
ゆっくりとそばまで歩み寄り、座っている男を見下ろせば、フウと小さな溜息が耳に届いた。

……嫌なら、わざわざ無理をする必要はない」
「っ……!」

それは、優しくも残酷な慰めだった。
思いやっているようで、相手の抱く気持ちに寄り添うつもりはない。
そもそも、自分はこんな茶番など、しなくても良いのだ──男の心を読むのが上手い分、その見え隠れする本音にブロッケンJr.の心はますます追い込まれる。
故に、拳をきつく握った。掌に食い込んだ爪は今にも皮膚を突き破りそうだ。けれど、その痛みが逆に冷静さに繋がった。

「やるよ……だって、オレは……っ」

まるで自分へ言い聞かせるように呟くと、ゆっくりと片足ずつ膝を折る。開いた足の間に収まるように、身を寄せる。
意を決したとばかりに両手を相手の股間へと伸ばした。
ガチャガチャッ。指先が震えるせいか、音の割に上手く金具外せない。だが、相手からの手助けは期待するだけ無駄だ。ブロッケンJr.は頭を小さく振りながらベルトを外すと、次にボタン、次にジッパーと順を追って前を寛げた。そして黒いボクサータイプの下着まで辿り着くと、その大きさに息を飲む。反面、こうしても尚、一向に兆しのないものに微かな落胆を覚えた。
多少なりとも気があれば、男として何らかの反応はある筈だ。にも関わらず、アタルの陰茎にその様子はない。
恐々と足の付け根側から外へ取り出しても、それは形を変えずダラリと垂れ下がったままだ。
こんな仕打ちをされても尚、相手の股間に触れる興奮から半勃ちになる己との違いに、ブロッケンJr.は強く奥歯を噛んだ。
取り出したペニスは思ったよりもグロテスクな色をしていた。きっと相当な場数を踏んできたのだろう。最初の言葉通り、勃てば相手してやる、と何人の体を暴いてきたかしれない。
中には、互いに思い合っていた相手もいたのか──考えた途端、胃が迫り上がるような吐き気を覚えた。
それを払拭するように、彼は露わになった肉棒を掴み、顔を近づけた。
ツン……と鼻につく汗とアンモニアの匂いに決して好ましい香りではない。なのに、くらりと眩暈がしそうになる。息が荒くなる。これがオスのフェロモンというやつなのか。ブロッケンJr.は頭が痺れるような感覚だった。無意識に下腹部がジンと熱くなる。
しかし、このままでいるわけにはいかない。ゆっくりと口を開けて、舌を突き出した。
ピチャッ。未だ柔らかな亀頭を舐めれば、ほんの少し感じる塩辛さに肩が震えた。男のモノを口淫をしている。その事実に、屈辱よりも悦びを感じる自分へ、涙が目尻に滲んだ。
そのままピチャ、ピチャ、と猫のように先端を舐め、合わせて掴んだ竿を上下に擦る。傷付けないように気を配った愛撫は、きっと物足りないに違いない。
しかし、徐々に硬さを増していく性器は、ゆっくりなれど確実に育っていった。
気付けば指を伸ばしても足りないほどの太さに勃起した陰茎を、ブロッケンJr.は夢中になって頬張っていた。勿論、全て飲み込むことは不可能だ。実際、亀頭を含んだだけでもう口内の半分は埋まってしまう。

「ンッ、ンンッ……

必死になって頭を前後に揺するも、動きに大した幅はなく、決して明確な快感には繋がらない。竿を擦る動きも断続的で、あまりにも稚拙な動きだ。
唯一、口を汚しながらしゃぶるさまの淫らさが相手の劣情を誘う。



……もういいぞ」

そうして、ある程度立ち上がり、全体が唾液で濡れたのを確認すると、アタルはブロッケンJr.の頭を軍帽ごと掴んで体から離した。突然のことに彼の体が床に倒れ込んでも気にしない。
むしろ、ゆっくりとその場に立ち上がった男は、手を差し出すでもなく、逆に冷たい双眸で相手を見下ろした。

「ほら……服を脱げ」
「──ッ」

飾り気のない言葉に、全身がブルッと震える。
その指示は紛れもなく次のステップへ行く合図だ。一心に舐めていたのもそこに向かうためだった。
とはいえ、ブロッケンJr.にとって他者との性交自体が初めてなのだ。
ある程度の事前知識や、後ろを使っての自慰行為も経験済みではあるものの、やはり本番となると怖気付いてしまう。キュッと引き結ばれた唇はその良い例だ。
アタルとて、それは伝わっている筈だ。なのに、彼の次の言葉は冷徹で──。

………早くしろ。……望み通り、抱いてやる」

そう顎をしゃくる仕草に、ブロッケンJr.は今日何度目になるだろう、本気の涙を堪えた。

(体だけでもいい。……そう願ったのは、オレなんだ)

痛む心を叱咤し、体を起こした彼は投げやりにジャケットとズボンのベルト二本を外した。そしてズボンを下着ごとゆっくりと脱ぎ去る。
ちなみに、上の服のボタンも外さずにいた。どうせ、触れられることはないのだから。相手からの愛撫なんてあるわけ無いから。最初から諦めるつもりで、下半身だけを露わにする。
向き合う姿はどう映っているのか。頭を過ぎる不安から目を逸らすように目を閉じると、スッと影が落ちた。

……そうだ。……良い子だ」
「ッ……!!」

ここにきて、そんな優しい言葉を掛けられるなんて予想しておらず、思い切り動揺する。反射的に沈み気味だった顔を上げれば、そこにはギラギラと光る瞳があった。

(嗚呼。オレは……この目に、惚れたんだ……

どこまでも厳しい態度を取りながらも、本質は隠しきれない。

(分かってる……。これが、アンタの救済だって。……でも)

「好き、だ……隊長」

掠れた声が、禁忌を紡ぐ。

「っ………馬鹿な、男め

罵倒とは裏腹に、アタルから発された声は酷く苦しそうだった。リングの上でも見せないような、弱さが見え隠れする。それは当然、言った本人が痛いほど分かっている。
ポーカーフェイスでは誤魔化せなかった己の心情を誤魔化すように、彼は傍に寄り立つブロッケンJr.の体をソファへと突き飛ばした。

「ぅわッ!?」

咄嗟のことに、受け身を取る余裕もなく無様に倒れる様を一瞥すると、男は了解も取らずに晒された足を大きく引き上げた。

「ッぁ……!」

自然と大きく開かれた股間では、ビクビクと色素の薄いペニスが勃ち上がっている。どんな状況であれ、愛しい男との行為に興奮は止められないようだ。
そんな様に、アタルは唸るように喉を鳴らすと、マスクの下の唇を舐めた。

……ブロッケンJr.」
低い声が、ようやく相手の名前を呼ぶ。

……教えてやる。俺が、どんな男かを」
ソファに乗り上げ、掴んだ足を肩に乗せながら。

「二度と、こんな目にあいたくないと思い知らせてやる」
密やかに震える蕾に勃起したペニスを擦り付けながら、嘯く。




それから散々一方的に揺さぶられた体は、最後には気絶するように絶頂へと至ったのだった。
そしてブロッケンJr.が気がついた時には、汚れていた体はすっかり清められており、場所も寝室へと移っていた。
慌ててリビングへ走って行くも、当然ながらアタルのいた痕跡はない。整えられた部屋は、彼が来る前と全く同じで。
さながら、あれは幻だったかのような錯覚に、彼は頭を押さえた。するとその拍子に己の手首が目に入る。

……あ」

白い肌に残る、痛々しい色の痣。形と数的に、それは紛れもなく、後ろから突き上げられた時に掴まれた痕で。

「っ……なんで、アンタは……ッ!」

ポロポロと零れる涙を止められず、彼はまるで子供のように顔を歪めた。
残った痕から相手の熱を感じようと、自分の手で上から握りしめる。意味なんかないと分かっていても、理性ではない衝動がそうさせるのだ。

「好きだ……ッ、だから絶対に、この心、だけは……!」


アンタを諦めたくない。




どんなに拒まれても良い。
受け入れられることがなくたって構わない。
みじめで、格好悪くて、何一つ生まなくても──

この想いだけは、卑しくも捨てられないのだ。