浮き流し
2026-02-01 20:32:34
5433文字
Public 右松
 

ポリネシアン…?(深松深)

2026.02.01バレンタインローズ内で開催された、松受けオンリーにて無料頒布したもの

設定
・付き合ってる
・夏休みの帰省後
・携帯電話(ショートメールとネットができる)がある

 深津の携帯電話に松本からメッセージが入った。
『深津これ知ってるか。ポリネシアン・』
『アレ  』
『っくす』
1文をまとめて送ってくる松本にしては珍しく、単語が途切れている。
「わお……
 深津は感嘆の息を漏らす。ポリネシアンから始まる単語が頭に思い浮かんだからだ。アレとはアレだ。絶対ポリネシアン・セックスだ。一度性的な言葉だと思った瞬間から、そうとしか考えられなくなる。
 松本が単語を区切ったのは慌てたからか、文字を繋げることに躊躇いがあったからか。いずれにせよ、松本は普段からは性行為のことを濁して伝えるため、文字であっても直接伝えるのは恥ずかしかったのだろう。
(あの松本が)
 普段の松本から窺える通り、理性と常識に対する意識が非常に強い。しかし性欲自体はしっかりとある健全な男子高校生だ。始まってしまえば気持ちのいいことを進んで求める節がある。猥談として人から聞いたのか自主的に調べて辿り着いたのかはわからないが、少なくとも深津と行いたいと思っているということだ。
 松本がどんな顔で説明するのか見たい。深津はそう考え、敢えて反対の言葉を送る。
『知らない』
『なにするんだ』
 するとすぐに既読が付き、少し遅れてメッセージが送られてくる。
『分かった。戻ったら教える。』
 深津と松本は共に夜を過ごしてはいるが、松本から行動を起こすことはそれほど多くはない。そんな松本から最高に気持ちいいと言われる行為のお誘いに深津は期待に胸を膨らませる。
 ただし先走っては格好が付かないため、やり方を改めて確認する。心の準備を整えてから、松本がリードしてくれるうちは知らぬ存ぜぬを貫こうと決意する。

 夕食後風呂や洗濯、宿題などのやるべきことを終えた頃、深津の部屋に松本が入ってくる。
「深津。今いいか?」
 深津がいいと答えると、松本は用意してくると言ってすぐに部屋を出てしまう。
 何を用意するのだろうか。深津は嬉しいよりも気が早いと感じる。ポリネシアン・セックスの1日目はハグやただ見つめ合うぐらいで、キスすらしないはずだ。
 しかし松本はなにかを持ってすぐに戻ってくる。
「帰省した時友達と行った店にあったんだ。深津が絶対好きだろうと思って」
 ほら。松本は誇らしげな笑顔で、深津の前にオレンジと緑の四角く平たいなにかを突きつける。
 透明な袋には畳まれたであろう大きな模様の入った生地のようなものが入っていて、外に貼られた白い紙にティラノサウルスと書いてある。どう頑張ってもセックスで使いそうにはない代物だ。
 そこで深津は松本から届いた例のメッセージを思い出す。不自然な改行とスペースが入っていたが、指示語として解釈したものはもしかして別の単語なのかもしれない。恐る恐る松本に尋ねてみる。
「アレというのは?」
「アレ?」
 ハテナを浮かべる松本にメッセージの。と問えば、松本から力強い笑みが返ってくる。
「レックスだ!」
 松本は分割送信と謎の変換の理由をちょうど家族に呼ばれたタイミングであったこと、また使っている携帯の予測変換に意図せぬ文字や誤用が多いため、目的の単語を探すのに苦戦したのだと説明する。
「アレは、レックス……ということは」
「ポリネシアン・レックス」
……ポリネシアン・レックス」
「5日かけて恐竜になりきるゲームだ。深津も好きだろうと思って」
 松本の顔は、自分のプレゼントに深津が喜んでくれるはずだという自信と輝きに満ちている。普段、下級生から取っ付きにくいや怖いと遠巻きに噂されている姿からは想像がしずらいが、松本も結局は男子。ロボットや恐竜などの格好良いものが好きなのだ。
 そして松本が言うように、深津も恐竜が好きだ。幼少のころからタンスにはお気に入りの恐竜のシールを貼っていたし、恐竜の描かれたTシャツを愛用していた。年齢が大きくなるにつれてよく目にするあの恐竜達の姿はあくまで想像図に過ぎないことを知りはした。それでも、ティラノサウルスレースという催しを知れば、自分も参加したいと思うぐらい恐竜に対する情熱は変わらない。
 だから各地で行われているティラノサウルになれる祭りをネットニュースで見ては、ふたりで楽しそう、やりたいと言い合っていた。それを覚えていた松本が、帰省した時にティラノサウルスの着ぐるみを見つけ、こうして深津に渡しているのだ。
 そしてもうひとつ、ネットで見た情報を付加して松本は説明する。
「やり方なんだが、まず初日は歩き方や鳴き声の真似をして想像力を働かせるだろ。2日目に着ぐるみを袋から出して触り、3日目には……
 しかし今深津は嬉しさと同じぐらい、ショックを受けている。趣向の変わったプレイを期待した分、落胆は大きい。レックスなんて唯一ティラノサウルスの後に付く、種名でしか聞かないフレーズだ。そんな紛らわしいことはせず、分かりやすくザウルスとかダイナソーにしろ。と思ってしまう。その上、この着ぐるみと思わしきものを目の前にしてお預けさせられるのだ。
「今すぐ着れないピョン……?」
 深津はやや沈んだ声で尋ねる。
 思い描いていたのとは違う深津の反応に、松本は焦る。
「すぐプレゼント着れるわけじゃないのは申し訳ない。けど、より楽しむために必要な行程なんだ」
 松本は深津に対し、今すぐに着るよりもより楽しめるのだとプレゼンする。

「──というわけで、今日は鳴き方や走り方なんかを追求して恐竜になりきるんだ」 
 どうだ!?と同意してほしそうな松本ではあるが、説明を聞き終えたところで深津の我慢できない思いは変わらない。
「それはセックスの話ピョン。倦怠期じゃないオレたちには必要ないし、着ぐるみは今すぐ着たいピョン」
 深津が略さずに言うと、松本は顔を赤くしてうろたえる。
「セッ! なに言い出すんだ!」
「そのポリネシアン・レックスの元ネタピョン。しっとりねっとり長い長い前戯期間を経てするエッチピョン。知らないとは言わせねーピョン」
 レックスの付いた造語よりもよっぽど目にする言葉だ。深津が指摘すれば松本は検索サイトに誤字だと思われ、「もしかして?」と表示されたと言う。その代替の単語を検索したところ、夜のHowToサイトがずらりと並んだ。そして松本には当然興味があり、しっかりと内容を確認したと白状する。
「やっぱり松本はエッチピョン」
「うるさい、そんな言葉知ってるお前も充分エッチだろ。でもダメだ。我慢した分楽しみが何倍にもなるんだぞ」
「待てないピョン。それにもしこれが最終日前に
見つかったらどうするピョン」
「いや私物の持ち込みは別に制限……
 松本は即座に否定するが、深津は聞かずに危機感を煽る。
「没収されたら楽しむどころじゃないピョン。残しておいた大好物を攫われたのと同じピョン。松本はオレが泣いてもいいピョン?」
 畳みかければ松本の顔が曇る。
「それは……
 悩む松本を見て深津はほくそ笑む。
 実際のところ、寮への持ち込みの規定はない。だから携帯もゲームも自由に使えるのだ。また今は深津達が最高学年のため、上級生からうるさく言われる心配もない。
 しかし真面目な松本がそれは悪いことだと思えば避けるよう考え直してくれる。深津はそうなるようにことを進ませたいのだ。
 少しして松本が、深津の希望した言葉を言う。
「そうだな……深津の言うことも一理ある。すぐ着ることにしようか」
「松本大好きピョン!」
 深津は松本から袋を奪い取る。表示を見ると書いてあるのはどれも同じ文字だ。
「ティラノサウルスだけピョン?」
 ニュースで見たティラノサウルスレースでは走るのはティラノサウルスだけだったものの、観戦するトリケラトプスやスピノサウルスがいたはずだ
「オレが見つけたところではそうだった。カラーバリエーションは豊富だったが、恐竜の種類はそれだけだった」
「ふ〜ん……。ならオレはオレンジを選ぶピョン」


 給気口にファンを装着すれば空気が入っていく。平らだったティラノサウルスがだんだんと膨らめば次第に期待も高まっていく。自立して深津の身長と同じぐらいになれば、着ぐるみとして中に入ることができる。
「深津ザウルスの登場ピョン♪」
 深津が自分の姿を見てもらおうと松本の方を振り向くと、こちらも色違いのティラノサウルスがいる。
「それ見えてるピョン?」
 松本が入っているはずの緑のティラノサウルスには、覗き窓から松本の鼻より下だけが見えている。
 覗き窓は深津の身長に対してもやや低い位置にあるため、深津でさえ少し屈まなければならない。松本が直立しているなら尚更だ。
「少し屈まないとダメだな」
「ティラノじゃなく首長竜してる気分ピョン」
 それでも、恐竜になれた嬉しさの前にはさしたる支障ではない。
「ガオ〜!」
「グオォオオ……
「グワーッ!」
「ガウガウ」
 思い思いの雄叫びを上げ、ティラノサウルスになりきる。しかし、空気で膨らんだ着ぐるみが2体そう広くはない部屋の中にいれば、大した動きをしなくともあちこちぶつかってしまう。
「困った、あまり動けないな」
「恐竜になるなら外で走りたいピョン。ジャングルならもとかく白亜紀にはこんな狭い部屋なんかないピョン」
「それこそダメだろ。没収されたらどうするんだ」
 お前が言ったんじゃないか。と松本が注意する。
 しかし深津が理由として挙げたのは誇張した場合であり、また意見を勢いで押しただけだ。
「なに言ってるピョン。私物の持ち込みに制限されてるものなんてないピョン」
 深津の言葉に松本は唖然とし、次に苦い顔に変わる。
「お前……謀ったな?」

 寮に庭のような場所はないため玄関の前に移動する。
「追いかけっこしたいピョン!」
「これで走るのか? 転んだら……
「レースで転んだティラノサウルスは無事だったピョン。オレは腹ペコのティラノサウルスをするから、松本はオレが狙っていたハドロサウルスを横取りしようとやってきてオレに追いかけられるティラノサウルスピョン」
「凝った設定だな」
「毎回獲物を巡って争う因縁のティラノサウルスピョン。逃げてもいい、やり返してもいいピョン」
「仕方ないな。容赦はしねぇぞ?」
「望むところピョン」

 設定を変え趣向を凝らし、深津と松本は色々なティラノサウルスを演じる。玄関の前という場所もあり、だんだんとギャラリーが増えていく。オレもオレもという声が大きくなったところで他の人にも貸すことになった。
 恐竜を模した野太い雄叫びが響きながらも、夕食時に寮母さんからもう少し静かにやりなさいと釘を刺されたぐらいで、特に問題にはならなかった。
 深津は空気が抜けていくティラノサウルスを見ながら喜びのため息を吐く。
「楽しかったピョン」
 一度体験してしまうともっとやりたいという思いになる。今度は人を増やして群れを作りたいと言う深津と反して、松本は親指と人差し指でティラノサウルスの頭を摘む。
 松本は他人が自分の物を使うことに抵抗があるため、貸すのを渋っていた。汚れたものという意識になったため、しかめ面でティラノサウルスだった布の匂いを嗅ぐ。
……匂うな」
 空気で膨らむ以上、ティラノサウルスには空気を通さない素材が使われている。当然中に熱気が篭る。その上夏の気候となれば中にいる人間はなにもしなくとも汗をかく。結果として、走り回り篭った着ぐるみ内でかいた男達の汗や匂いが染み付いてしまったのだ。
 はしゃいでいた深津ではあったが、松本のティラノサウルスの辿る未来に不安がよぎる。
「捨てるピョン?」
「いや……またやりたいだろ。手洗いとアルコールでなんとかしてみる」
 洗面所は小さすぎるから風呂場かな……。と悩む松本に深津は破顔する。
「流石松本ピョン。よろしく頼むピョン!」
 松本のように汚いという気はしないが、深津のティラノサウルスも汗や匂いがあるのは同じだ。それに松本が洗うというのなら便乗するのが1番楽だ。
「オイ。自分のは自分で洗え」
「え〜いけずピョン。松本がやった方が長持ちするピョン」
 松本は深津が雑に入れる多量の洗剤や力任せに回して放置する様子を思い描く。やりたくないことに対しては適当に行うのが深津だ。洗濯表示を検索し、洗い方の指示に従って行う松本とは対照的である。
「それはそうだが……
 深津は手を体の前で合わせ首も傾げる。ついでに上目遣いで眉も寄せる。深津な思う可愛さを、できるだけ集めて出す。
「お願いピョン」
 イチノと違って松本は押しに弱い。深津の想像通り、松本はため息を漏らし承諾の意を示す。
「仕方ねえな……。汚れたり破れたりしたらお前が買えよ?」
「お安い御用ピョン。ありがとう松本、大好きピョン」
 そう言いながら深津は松本に抱きつく。
「わかったわかった」
 松本は言いながらも照れている。松本は深津のお願いに弱い。また深津も大好きな恐竜に成れ、また松本に願いを叶えてもらったことが嬉しいのだ。
夜になればポリネシアン・セックスを残念がったこと思い出すかもしれないが、それはそれ。やりたいと言えば2人とも強くは否定しないだろう。それだけお互いを思い合ってるのだから。