はらす
2026-02-01 13:50:57
2523文字
Public 忘バ
 

20251129桐智 記念日

2025/11/29 桐智 高校生 きりちゅカウントダウン 2520字
きりちゅカウントダウンに書いたもの。高校生で付き合っている桐智がクリスマスの公園でキスをします。
カウントダウン用のお題は「陽だまり」「クリスマス」「贈り物」でした。

クリスマスにしては暖かい、天気のいい日だった。陽だまりのベンチに腰掛けると、気持ちいいくらいだ。ボールとグローブ持ってくれば良かったな、と桐島さんが呟く。俺は黙ってそれに頷く。晴れた日に好きな人と公園でキャッチボールをする嬉しさは、試合の興奮とはひと味違う野球の楽しさだと思う。高校生の今は、少し、懐かしさもある、シンプルな面白さ。
でもまあ今日はクリスマスだ。いつでもできる遊びを今する必要はない。冬至に近いこの時期は日が暮れるのも早い。暗くなれば、うるさいほどの電飾で街は煌めくだろう。
俺には電飾自体の良さはちっとも分からないけど、年末の特別な空気感は悪いものではない気がする。そう思うようになった自分は、クソガキの頃より少し大人になったのかも。いや、まあ、やっぱり全部を素直になることはできなくて、イルミネーションの意味はやっぱり分からない。電気代の無駄では。
「ほんまにプレゼントをくれるとは思わんかったわ」
「まだ渡してないです」
「でも、要くんの手の中にあるってことは、もうすぐくれるんやろ?」
「桐島さんみたいな嘘つきじゃないんで、あげるって言ったら、ちゃんとあげますよ」
「くれる約束した時、めっちゃ渋い顔してたやんか」
「そうですか?」
「一カ月前のことなのにもう忘れたんかい。十一月の最後の土日やったやん。俺が、来月クリスマスやけど要くんどうせプレゼントなんかくれへんのやろ俺は用意するけどわかってるから気にせんといて、って言ったら、寄生生物に食われたみたいなしわくちゃな顔になったで」
彼は楽しそうに笑う。その笑い声が好きだった。
「普通に、クリスマスプレゼント欲しい、って言えば良かったじゃないですか」
「普通に、クリスマスプレゼント欲しい、って言ったら、にっこり笑ってくれた?」
「さあ、仮定の話は意味ないです」
さ、手を出してください。
桐島さんが手を差しだす。その手のひらは大きくて、手入れがされていた。良い手だ。
見慣れたスポーツショップの紙袋を彼の手のひらに乗せると同時に、手首を掴みぐっとこちらに引き寄せた。ぐらりと身体が大きく傾ぐ。
「あ、あれ?」
「ちょっ、まっ、ふはっ……って、なあ、もしかして」
傾いたまま彼は、俺の頬を掴んだ。この人の、ざらざらの左手が直に俺の頬に触れる。
三日月のように細められた目が、俺の顔をじっと覗き込み、そらさない。こういう時は、見透かされるようだ、というのが常套句なんだろうけど、もう見透かされてしまっているんだろうな。
「こういうことしようとした?」
ちゅ、と軽い音をたてて、彼は俺の唇を奪った。
嬉しそうに笑う彼の顔を見つめながら、ゆっくりと頷く。サプライズでキスしようとしたのに、失敗したのだ。恥ずかしい。
「嬉しいことするやん」
すりすりと彼が俺の頬を撫ぜる。滑らかで肌触りが良い、とは絶対に言えないのに、その皮膚の硬さが愛おしかった。
「でも、こういうのは先輩からさせて?」
そうして、ゆっくりと顔を寄せた。俺は目をつぶり、動かないよう腹筋に力を込めた。心臓の音がうるさい。本当に、うるさい。
思ったよりも硬い。でも、思っていたよりも熱い。人間の肌から直接感じる熱って、こんなに熱いんだ。鼻先で感じる呼吸も、熱い気がした。冬の風で冷えていた唇が、あっという間に溶けてしまった。本当は口を開けて触れ合わせると聞いたけど、そんなことをしなくても俺たちは十分に蕩けて、混じり合っていた。
はあ、離すのもったいないな。
そう思った瞬間に、遠くで誰かが笑う声が聞こえた。やば。見られたくない。
慌てて離れると、冷たい風があっという間に口を冷やした。さっきまで、あんなに蕩けていたのに。唇だけが、まだ熱を保っていた。
「俺、初めてキスしたわ」
指先で唇を押さえながら、彼はしみじみと呟いた。
そうなんだ。
勝手に経験豊富なのかと思っていた。さっきだって、間抜けにも失敗した俺と違って、動作もスマートだった。
けど、俺としかしたことないんだ。
俺とだけ、と思った瞬間に胸がぎゅっと熱くなる。嬉しくて、なぜだか少し切ない。
「俺も、初めてキスしました」
「あ、そうなんや。お揃いや」
彼は微笑む。つられて笑えばいいのに、俺の表情筋はなんだか偏った動きをする。右側だけしか笑えてない気がする。こんな時、どんな顔をすればいいのか分からない。
「もしかして、これがクリスマスプレゼントやった?」
おどけて彼が首を傾げる。半分は冗談で、半分は本気なんだろう。こんな時の彼の反応に、いつも助けられている。いつの間にか、小さく笑っていた。ふふ。
「自分を景品にするつもりはないですが、記念にはなるかなって。桐島さんを驚かせる記念日です。ちょっと失敗しましたけど」
「驚いたのは、めちゃくちゃ驚いたから、成功しとるやろ」
彼は目じりを下げて微笑み、「もうちょっと、してもいい?」と聞く。
俺が頷くかそうじゃないかの瞬間に、ぐっと顎を掴まれ引き上げられた。唇同士がふたたび触れ合い、蕩けそうなあたたかさにうっとりしていると、濡れた柔らかいものが隙間からぬるりと入り込んできた。反射的に自分も舌で受け止め、絡み合ってぬるぬると擦り合わせる。ああ、唇だけでも溶け合っていたと思っていた自分は、何も分かっていなかった。これこそが、ふたりで溶け合い混ざり合う方法だったのに。
恥ずかしい。でも、止められない。彼の舌が俺の口の中を探るように動き、俺も必死でそれに応える。
このやり方は頭がぼんやりとするほど刺激が強く、気持ちよかったけれども、ひとつだけ欠点があって、息継ぎがとんでもなく難しいということだった。初心者のふたりはあっという間に酸欠になった。
はあはあと試合の時でも滅多にないくらい荒い呼吸をしながら、お互いの肩をゆるゆると撫ぜた。気持ちいい。ずっと触れ合っていたい。
「俺も、俺にとっても記念日や」
そうして、ぎゅっと抱きしめられた。彼の腕の力強さ。胸板の厚み。心臓の音。全部が、俺を包み込む。
もう日は傾いていたのに、彼の腕の中は陽だまりよりもずっとあたたかかった。