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来羅
2026-02-01 08:51:17
2420文字
Public
グオメ
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CALLING(クロアジ)
クロアジオンリー開催おめでとうございます!!
「そっちの兄さんはどうする?」
いつもの、ではないアイスクリーム屋の陽気な店主は、観光客であるアジラフェル相手に、この辺りの絶景ポイントをゆうに五分は話して聞かせたあとで、そう言った。
話の途中で飽きたらしいクロウリーはとうにそっぽを向いていて、店主とアジラフェルの視線を受けてようやくこちらを振り返る。
「
……
なんだって?」
「アイスクリーム、何にするのかって」
「好きなの選べよ。どうせ半分食べるのはお前だ」
「ありがとう」
にこりと笑えば、ふんと鼻を鳴らしたクロウリーはまた余所を向いた。意味もなくサングラスの位置を直しているのは、照れているのだろう。それがわかるようになった今、アジラフェルは妙なくすぐったさに小さく笑う。
「それじゃあ、ピスタチオとクッキー&クリームで」
アジラフェルはいつもと違うフレーバーを選んだ。
いつもと違う店。いつもと違う土地。もういつもとは違ってしまったクロウリーの『隣』で、いつものようにアイスクリームをねだる。
「なんだ、彼氏だったか」
おしゃべりな店主は意味ありげに目を細めると、ニヤリとしておまけだとストロベリーを乗せた。
『彼氏』
目をぱちくりとさせたアジラフェルに、行くぞと腕を引くクロウリーは眉間に皺を寄せてムッとした顔を作っている。その薄っすらと赤くなった顔は隠せていないのだから、つられるようにドギマギとしたアジラフェルは慌ててアイスクリームを受け取って、その背を追った。
『彼氏』
間違い、ではない。
今まで何度もそう言われてきたときは、なんともなかった言葉が。
「
………………
彼氏」
「な、なんだよ」
「いや、彼氏、なんだな、と」
改めて『そう』なのだと思えば、急に恥ずかしくなってくるからどうしようもない。
アジラフェルはクロウリーと視線を合わせることもできずに、もくもくとアイスクリームを頬張る。
『彼氏』
彼氏、だ。
たとえば誰かにクロウリーのことを伝えるとき。これから先は、私の彼氏が、と口にしてもいいのだ。
たとえばマギーやニーナに、フェルさんの彼氏が、と言われても聞き流したりしなくてもいいのだ。
『彼氏』
「
……
クロウリー」
私の彼氏。
「
………………
私の、」
違和感が凄い。
今さらといえば今さらなのだけれども。
「
…………………………
だめだ」
駄目だ。駄目だ。駄目だ。
彼氏。
恥ずかしくて、とてもじゃないが、言えそうにない。
「アジラフェル?」
「なんでもない!」
それなら何て言えば。
アイスクリームを舐める振りしてこっそりと見上げる。
クロウリーは、クロウリーだ。
けれどももうクロウリーは、今までと同じようで、たぶん、違う。
「へんな奴だな」
苦笑するクロウリーは、サングラス越しでもわかるほどに甘ったるく目を細めてアジラフェルを眺めている。
いや、違う。たぶん、この視線は今までもあったものだった。ただ、受け取るアジラフェルの意識が変わっただけなのだ。たぶん。たぶん。
彼氏は無理だ。
では彼氏が無理なら、なんだ。
パートナー?
──それは少し他人行儀すぎやしないだろうか。
それなら、ダーリン?
──いや、もっと無理だ。
それなら、それなら。
「アジラフェル、とけるぞ」
横から近づいたクロウリーの長い舌が、垂れたアイスクリームを舐めとっていく。
こんなことは、今までにはなかった。できなかった。
自分でやっておきながら、やっぱり照れて顔を顰めるクロウリーは、アジラフェルを見ない。見ないくせに、全神経を尖らせてアジラフェルの一挙手一投足に注視している。窺っている。
「クロウリー」
「
…………
なんだ」
「そんな目で見ないでくれ」
「見てない」
アジラフェルはただただ無心にアイスクリームを頬張る。
「
……
アジラフェル」
「な、なに?」
「そんな声で俺を呼ぶな」
「そんなって、」
「思い出す」
「思い出す?」
「昨夜を」
「っ、っっ、なに、言ってるんだ!」
馬鹿、と思わず食べかけのアイスクリームをクロウリーの口に突っ込んで足早に先を急いだ。
しかしながら足の長さというものは残酷だ。
大股で数歩、あっという間に追いついてきたクロウリーがニタニタとしながらコーンをポリポリ咀嚼する。
「
…………
その顔」
甘ったるくて、にやけていて、嬉しそうで、それでいて照れた、その。
「お互い様だ」
「言わないでくれ」
きっとクロウリーに負けず劣らず顔を真っ赤にした自分をアジラフェルだってわかっている。
だってもう『ひとり』と『ひとり』じゃない。
クロウリーはいつものクロウリーじゃない。
アジラフェルだって。
「アジラフェル」
「
…………
なに」
「揶揄って悪かった。夕飯はどこに行く?」
隣に並んで歩調を合わせるクロウリーが猫背気味の背を伸ばして首を回す。それだけでいつもの顔を取り戻した悪魔は、何もなかったかのように問うた。
相変わらず、悔しいけれども、この悪魔は早いのだ。
「
…………
リッツに」
「リッツ?」
ここからは数百キロと離れている。
呆気に取られたクロウリーに、ふんと鼻を鳴らしてアジラフェルは腕組した。
「リッツで食べよう。そしてそのあとは、帰るんだ」
「帰る?」
「そう、『私たち』の家に」
「っ」
絶句するクロウリー、なんて珍しいものを見てアジラフェルが笑う。
少しはその早さに追いつけただろうか。
そっと服の端を掴んで、アジラフェルは呼ぶ。
彼氏、なんて言えない。
パートナーじゃ少し寂しい。
ダーリンなんてとても無理だ。
だから、呼べるのはいつもと同じだけれども。
でも。
きっと、わかるはずの、その。
「クロウリー」
昨日までとは違う、想いをこめた呼び名はとっておきの響きに満ちている。
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