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Old Novel

めちゃくちゃ古い二次創作小説置き場。

キールとトウヤ

サモンナイト

 常に手袋を纏っている指先が、白く細い首筋に触れた。羽根のような柔らかさで触れてくるその指先から逃げるように、少年は微かに身体を捩る。艶やかな黒髪が白いシーツへ散らばり、身体の振動に合わせて乾いた音を立てた。
「くすぐったいよ、キール」
 整った容姿に存外と無邪気な笑みを浮かべ、くすくすと声を上げる少年に、キールと呼ばれた青年はふんわりと柔らかな微笑みを返した。
「くすぐったいだけかな?」
 笑いながらどこか含みのある言葉を投げ掛けて、青年は手を動かす。首筋から喉元へ移動した指先は、少年の控え目に突き出た喉仏を擽り、さほどの時間をかけずに鎖骨へと到達する。
 浮き出た鎖骨の窪みへゆっくりと指を這わせると、少年が微かに息をのむ気配。それにくすりと笑い、キールは少年の耳元へ唇を寄せた。
「ね、トウヤ。くすぐったいだけ?」
 吐息を吹き込むように囁くと、トウヤと呼ばれた少年はひくりと身体を震わせた。
……っ、君は本当に」
 ――意地が悪いな。
 そう続けたトウヤは、薄紅色に上気し始めた頬を不満げに歪めて見せた。どうやら耳が弱いと知っての所業に機嫌を損ねつつあるらしい。
 普段は酷く大人びた表情を見せるトウヤの、幼い子どものようにむくれる姿が愛おしくて、キールはへにゃりと柳眉を下げた。
「君にだけだよ」
「余計に質が悪い……
 耳元で甘く囁くキールの低い声に大人しく耳を傾けながらも、僅かな抵抗のつもりか悪態を吐く。素直でないトウヤの様子に、しかしキールは楽しそう――もしくは嬉しそう――な笑みを浮かべたまま、彼の服を寛げる。少し白すぎるが健康的な肌は滑らかで、手袋に覆われたままのキールの指先にもその温かな体温を伝えてくれた。
 無駄な肉のない身体はしなやかで、漆黒の髪と瞳を持つトウヤの雰囲気も相まって気まぐれな黒猫を連想させる。
 夜の街を颯爽と走る、気高く何者にも屈しない、孤高の猫。
 自分の想像に、そんなものは幻だとひとり笑う。
 トウヤは確かに気高く強いが、実際の彼は仲間に囲まれて明るい笑顔を浮かべるひとりの少年だ。太陽の光の似合う、キールにとっては眩しい存在。暗い無色の派閥で育ったキールにはあまりにも眩しい光。けれど酷く惹かれてやまない。
 まるで麻薬のようだと思った異界の存在トウヤは、初めて二人で屋根に登った静かな夜、闇に押し潰されそうになっていたキールへ穏やかに微笑み、何も聞かずに手を差し伸べてくれた。昼とは全く違う静かな微笑みは、キールを酷く驚かせた。
 太陽の光の下で笑うトウヤと、月明かりの中で微笑むトウヤ。どちらのトウヤもキールには眩しいが、けれどどちらのトウヤも好きだとキールは思う。
 どちらのトウヤも、キールを受け入れ、闇から救い出してくれたから。
「キール?」
 服を寛げたままの格好で自分の思考に沈んでしまったキールを不思議に思ったのか、トウヤが首を傾げて彼を呼ぶ。
「なんでもないよ」
 思考の海から浮上したキールは、黒曜の瞳に口づけを落とし、穏やかに笑った。

2013.08.19