side太陽を宿した魔法少女
魂に身体が裂かれたあの日、肉体はバラバラに埋められました。
とっても とっても
痛かったんですよ。
足は切り取られ、腕も吹き飛び、残されたのは、この身を焦がす太陽の意。
太陽とは全てを照らし平等に焦がすもの
私という天の魔法少女の亡骸に宿った
黒聖の国の創造主が生み出したモノより与えられた力
像に纏わり付くちっぽけなノミを呼ぶ呪文
嗚呼、獣の叫びが聞こえる。早く、早く、白き聖母の欠落を埋めろと
あちら側の扉を開きましょう
呼び声は皆んなが決めてくれましたよね
いつの日か、桜の木の下に埋められた死体は私です。
ね、もうすぐ会えるね
ポポの魔法生物が向かう先、エメリーの視線が釘付けになる。そこに転がる炭はまだ燃え尽きることなくパチパチと音を鳴らして宙に打ち上がる花火。バチンっ、たまに大きな音を立てて身体が崩れて大きな火の粉が飛ぶ。
「あれは、キミのご主人?だよね」
「炭火焼きにしては焼きすぎだよ、あれじゃまるで」

炭そのものと言った方が正しいだろう。
此処にはキッチンもコンロもないのに一体どんな魔法で丸焦げになったというのだろう。ご丁寧に台の上に盛り付けまでされている。
「大変だ」「救急かしら?」「緊急の救急さ!!」
エメリーよりも先に悲惨な現場を発見した少女達が復活したばかりとは思えぬ活発さで騒ぎ立て、右往左往繰り返している。働き蟻を思わせる流れの中で、1人いつもと変わらぬマイペースさを保ちながら立ち尽くしているエメリーは、慌てふためく少女達の均一な動きを眺めながら眠気を噛み殺せずに大きな欠伸を漏らした。
「ポポ
……あとハディラとユララ、だよね。真っ黒焦げだからはっきりは分からないけど」
横たわる巨体は熱により四肢が縮こまり屈伸のような体制をとり、ユララであっただろう塊を支えている。胸に燃える青い炎は消え、二つの眼が収まっていた場所にはぽっかりと穴が、その周りの心配そうに飛び回っているのはユズと呼ばれている酸っぱそうな名前の魔法生物。ハディラは魔法少女の姿のまま焼かれたからであろうか、人の肌とはまた違った光沢を持つ虫の躯体は関節で千切れて祭壇から溢れていた。
……少しばかりの味見だったら許されるかな。
「
…………ねえ、なんだか部屋全体が暑くない?」
そんな好奇心ももそぞろに、1人の少女が異変に気付き声を上げた。
確かに先ほどまでは適温に保たれていた空間が、熱波で揺らめいて見える。暖房すらこの部屋には付いていないというのに。もしかしなくとも、この熱源が奇妙な焼死体の原因だろうか。少女達は焦りを抱き始め、その波は広がっていき、部屋の出口を目指して我先にと向かっていく。右、左、右、肩と肩がぶつかり合って、エメリーは巻き込まれるように流されていく。あ〜れ〜と声が漏れても誰も止まることはなく、次第に床にぴったり張り付いていたはずの足も少女達の波に乗って空に宙に浮かんでいく。味見もしていないのにあの3人を置いて部屋から出るわけにはいかないと、どうにか元の場所へ戻るために手を伸ばす。空を切るかと思われたエメリーの手だったが、誰かに握り返された事によって途中で静止した。
「涙が、夜にも輝く太陽の涙が足りないのです」
「
……?太陽の、涙」
手を握り返して顔の横まで近づいた少女が耳元でそう囁く声が聞こえた。途端に部屋の内部の温度が急激に向上していく。これは砂漠に見える幻のオアシスのような蜃気楼か、それともただの熱せん妄か、目の前の少女に気を取られているうちに気づけば外の風を感じる程、出入り口の扉に近い場所まで運ばれていき、争う暇もないままに外へと放り投げられてしまった。
「あ、ちょっと、待って、中にまだ友達が」
最後の少女が扉から滑り出した瞬間、自宅のエントランスに配置された自動ドアさながら
ピシャリっと鋭い音を立てて扉が勢いよく閉まった。
最後に見えた光景は、取り残された3人の焼死体と祭壇、こちらを見つめる熟れたオレンジ色の魔法少女、天井には謎の魔法少女を象徴する球体が渦巻く。

あの子は一体誰だったのだろう。
「
……って事があったんだよね、締め出されたあとは誰も開けれなくなっちゃった」
「成る程
……全く理解できないな
…………何故そんな奇怪な状況に?」
復活祭自体は無事に終わり、欠片を対価に少女たちの魂は器に戻ることができた。代償に得たものと言ったら、高熱を放つ球体と魔法少女出現、そして3人の不審な死。話の関連性をいまいち掴むことができずにティアは混乱する。唯一遺されたヒントになりそうな太陽の涙が余計に思考を乱す材料となっていた。
「何か知らない?キミって色んなことを知ってるんでしょ」
「ふむ
……太陽の涙は夜にも輝く、幾つか心当たりはあるが」
記憶を紐解いて、今まで読んできた古い書物に残されていた記述を漁る。
「例えば生物であるのなら球体を転がす虫が太陽を運ぶとも言われていたこともある。鳥のはやぶさもその象徴であったとか」
「他には
……そうだな、『宝石』だとか」
「虫に鳥に宝石かぁ」
物知りで勤勉だと噂のティアであれば何かが分かるかもしれないと、彼女の元に訪れたエメリーであったが、やはり謎は謎のまま。以前に起きたクジラ型の強力な敵然り、不思議なことが当たり前のように起きる黒聖の国だが最近は更に可笑しな現象が目まぐるしい速度でやってくる。
「確証が持てない内は断定できないな、僕の方でも調べておくとしよう。それが君たちの役に
……」
「役に?」
「い、いやなんでもない、進展があったら報告する」
ティアは後方に控える魔法生物に声をかけて車椅子を動かす。彼女の魔法生物は手慣れた様子で従事していた。どの少女に付随する魔法生物も目を閉じていたり、自身の魔法生物のようにそもそも眼球に当たる器官が存在しない個体もいるのに器用だなぁ、とぼんやり考えながら窓の外を見つめる
国の中心に在る像はいまだに復興の兆しが見えない、むしろ以前よりも原型がなくなっているような。まぁ、なるようになるだろう、楽観的な思考で頭を満たして、エメリーも魔法生物に倣い、瞳を閉じることにした。
▼
エメリーと別れたティアはある目的地に向かう為学校内を移動していた。彼女が復活したことは喜ばしい、あの時行動を共にしていた者として、長らく気にかけていたのだから。ティアの胸に広がる安心の感情には閏日であったとしても嘘を吐くことはない。普段であれば図書館に向かう事が多いが今回はパソコン室に向かってみようか、時には新たな場所に出向いて知識を得なければ、己が正しいと信じている物は時に偽りの仮面を被って人々の前に現れる。事実が一つであるように、誤ちの姿で認識し続けるような事はあってはならない。
廊下を進んでいくと自習スペースに、大学生や高校生に紛れて幾つかの参考書を広げ、頭を抱える生徒がいた。

ピンク色のリボンで二つ結びを作り、長い時間をかけて施されたであろうメイクは、彼女の可愛らしい顔を引き立てている。何より特徴的なのは耳に残る猫撫で声で、何か困っていることでもあるのか覇気のない呻き声が喉元から漏れ出ていた。魔法少女の姿や練習の成果として見せる凛々しい声とは打って異なる二面性はとても興味深い。
「君、どうしたんだ?」
「何!ヒメちゃんは今取り込み中なの、後に
……って、ティアちゃんか、用事があるなら早めに言ってよね」
「いや、特に無いが
……ヒメ君が随分頭を悩ませている様だったから。勉強中か?関心だな」
するとヒメはあからさまに顔を歪めて
「ぜんっぜん良くない!!ティアちゃん聞いてくれる!?この時期になると課題は増えるし、進学の件もあるし魔法少女の活動まで
……全然手が回らないんですけど〜ッ」
しかも寝不足だし、クマを隠す為にメイクの手間が増えるしヒメの肌はどんどん荒れてくし
……ホント最悪!!ととどまることなく濁流のように言葉が溢れ出る。
「それでもヒメ君は成し遂げようと努力しているのだろう?結果も勿論だが
……それ以前に勤勉であることは褒められるべきだそれに、勉強であれば僕も力になれる」
「ほんとぉ?でもティアちゃんって中二でしょ?この問題集は中三の内容も入ってるけど」
「見せてくれ
……嗚呼、これくらいであれば問題ない」
ヒメから受け取った問題集を返し、詰まっている問題に指を指して回答までの道筋を示す。突如始まった勉強会は順序よく進み、あれほど悩んでいたヒメも一度解答を導き出してからはスラスラと筆記用具を紙に走らせていた。課題はティアの助けを借りたことによって当初ヒメが予定していた以上に捗り、順調に残りのページ数を減らしていった。一時間が過ぎた頃には全ての項目に鉛の芯で書かれた文字が羅列し、教師の添削を待つのみとなった。
「お疲れ様、やればできるじゃないか」
「ふんっあったり前でしょ!!私の方が先輩なんだから!」
大きく伸びをして凝り固まった身体をほぐしていく。頭を使った後は甘いものが食べたい気分になる、ヒメは床に置かれた鞄からカラフルなグミを取り出して口に放り込んだ。
「手、出して」
ヒメの言葉に従い両手を目の前に差出すと、グミの袋をひっくり返して数回振り、小さなお菓子が手のひらで踊るように跳ねる。「手伝ってもらったし、多めにあげる感謝してよね」と言いながらも口を動かして食べ続けるヒメにお礼を言い一粒ずつ口に含んだ。
「ゲンジもヒメの魔法生物ならちょっとは手伝ってくれても良かったのに」
当初からヒメの隣椅子に止まっていた魔法生物は特に返す反応もないのか変わらず沈黙している
「そういえば今度は私達が当番だっけ?」
「嗚呼、天の魔法少女が集められている日だな、僕と、ヒメ君と、ユララ君は欠席
……後、来るかは分からないがユウカ君辺りか、他にも数名参加する」
「ユウカちゃん
……あの子学校ではあまり見かけないけど、当番にはきっときてくれるでしょ」
ユウカの変身する前後の変化を知る2人は顔を見合わせて、此処にはいない当該の少女を思い浮かべる。気弱で人との接触を苦手とする少女だが、いざ魔法少女に変身すると鉄砲玉のように猪突猛進な性格へと様変わりする。最近は敵も力を増している、味方の数は多ければ多いほどいいだろう。
「ユララちゃんは欠席するの?あの子も別にサボるような子じゃ無かった気がするけど」
「
……これは先程エメリー君に聞いた話だが」
復活祭の時に起こった出来事をヒメに語ると次第に表情を歪ませていき最後には「なんで、わけわかんない!?」と行き場のない怒りに身を任せていた。
「その解明の為に色々と調べようとしていたところだ、特に、夜に輝く太陽の涙とやらを」
「私もあの子達を放っておくわけにはいかないし、それっぽいもの見つけたらすぐ持ってくる」
「私の用事もひと段落ついたし、パソコン室にいくならヒメちゃんもついてく!」
なんだかんだ言って面倒見のいいヒメはあそこまでの道狭いし段差も多いから二人いた方がいいでしょ、と言いながら席を立ちティアの背後に回って入り口まで車椅子を押した。手間をかけさせてしまった。どことなく感じる申し訳なさと共に不甲斐ない、と自責の念に駆られる。魔法生物や周りの人々の補助を受けなければきっと、今以上に何処へも行けなくなるのだろう、籠の中に収まって風切羽を切られた鳥のように。それと同時に手を貸してくれる友人が自らの近くには多くいる事実に恵まれていると感謝の念を覚える。
▼▼
一方白聖の国に取り残された四人は動物頭から身を隠しながら学校を根城に密かに探索を開始していた。子供達が集まるこの場所には全くと言って良いほど人影がなく、天体が太陽の時間も月の時間もしんと静まり返っていた。
「まずなぜ帰れないのかについてだけど、今の私たちは幽霊みたいな存在だからなんだ」
「幽霊
……?」
「そう、黒聖の国では魔法少女は復活するでしょう?でも時々何らかの阻害を受けて復活できないと白聖の国に迷い込むんだ」
幽霊少女のユララはついに本当の幽霊になってしまったんですね、じんわりと事実が染みていくかのように神妙に呟く
「ということは此処は死後の世界
…ということかしら」
「ううん、あくまでも黒聖の国の反対にあるというだけ、死後の世界とかは別であるんじゃないかな」
「こっちの世界の像、もう完成間近だったでしょ?あれが完成してしまうと二つの国のバランスが崩れてしまうんだ」
「
………………壊す、しか ない?」
「それも危ない、何が起きるか分からないから」
「じゃあ、どうすれば
……」
ハルの表情には緊張と決意が浮かぶ、一体どれだけの期間白聖の国に取り残されていたのだろうか。それは彼女にしか分からなかったが、黒聖の国にかつてハルという少女がいた事、少女達に混ざり共に学校に通っていた事、全ての記憶を今まで一人抱え込んでいたのだろう。
「私は一度死んだ時、神様に世界を導く為の力をもらったの」
「
……でもその拍子に身体を『敵』と混ざってしまった。そうして色んな場所に封印されていたけど、桜の下から掘り出されてからまた身体が動き始めた」
「私の目的は身体を敵から取り返して、白聖の像の完成を阻む事、そして白聖の国の大人を
……私達の世界における『敵』を隔絶するそして」
「私の力で2つの世界を分離します」
つづく