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まきわ
2026-01-31 19:26:39
2881文字
Public
クロリン
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someday
創の後輩君ルートミシュラム潜入中の話です
幸せになることに怯える後輩君と共鳴状態が心配な先輩がお話してるだけの話
共鳴現象。
今リィンに起きている外見の変化の原因をそう言うらしい。
クロウからしてみれば、女神は一体彼を何色染め変えれば気が済むのだろうというため息しか出てこない。
綺麗だけれど、危うくて恐ろしい。
「
…
メガミサマの力で生き返ったオレが言うのもあれだけどな」
「ん?」
ミシュラム潜入後偵察に行った他の仲間を待つ間、屈み込んでリィンを見上げていたクロウを見下ろしてリィンが首を傾げた。
「んや。潜入すんのにそのカッコでいいんかねっつったの」
逸らして誤魔化したが、本当に聞こえていなかったらしいリィンは苦笑して自分の教官服を見下ろした。
「着替える暇はなかったから仕方ない。とはいえ
…
トールズの紋章を隠すシールとかは用意しておいた方がいいかもな」
色々あって黄昏からこっちトールズは国外でも割と有名になってきてしまった。
一般人が紋章を知るレベルではないだろうが、おおっぴらにしているのもよくなさそうだ。
クロウは立ち上がるとにやにやしながらリィンを見た。
「セクシーな姉ちゃんがエッチなポーズしてるシルエットとかのシールはどうだ?」
「逆に目立つだろ
…
」
睨んでくるジト目の、片側の瞳の色がいつもと違う。
クロウは思わず眉を顰めた。
「
…
マジで痛いとか苦しいとかねぇんだな?」
念を押すように聞くとリィンは困ったように笑って色の変わった瞳を手で押さえた。
「本当になんともないよ。そもそも黄昏の間だって体調は問題なかっただろ」
「でもなった時泣いてたらしいじゃん」
「それは
…
痛いとかじゃなくて
…
誰かの悲しみが流れ込んできたような、そんな感じで」
それはそれで、別にいい事ではないだろう。
そう思ったのが顔に出たのか、リィンが申し訳なさそうに眉を下げた。
「
…
すまない。いつも皆に心配かけてばかりで」
そこじゃない。
そんなことじゃない、そういう苛立ちがまた顔に出て眉間の皺が深くなる。
それを隠すようにクロウは身を翻すとすたすたと歩いて行ってしまった。
「あ
……
」
悲しげな声と共にリィンが俯いたのがわかったが、一旦置いておいて目当ての場所に行く。
そこで目当てのものを手早く手に入れると同じ早足の歩調でリィンのところに戻ってきた。
そして手に持っていたものを勢いよくリィンの頭にずぼっとつけた。
「んなっ
…
なんだ?!」
「ぷ」
みっしぃの耳のヘアバンドをつけられたリィンが困惑して顔を上げるのを見て、思わずクロウは口を押えて笑った。
「似合う似合う。可愛いぜ~」
「いや嬉しくな
…
あのな!」
むくれてみせてもその恰好では小可愛らしいだけだ。
クロウはわしわしとリィンにつけた耳の間を撫でてやった。
「んな風によ、暗いとこばっか覗き込んでんじゃねぇよ。もっと楽に、楽しい事とか愉快な事ばっか見てりゃいいじゃねぇか。その方が人生豊かになるぜ」
「
……
そうだな」
遠い目をして微笑んだリィンはどう考えても言葉と裏腹に同意したようには見えない。
頑なで、こうと決めたら譲らないのだ。
「んな心のこもってねぇ『そうだな』をくれるくらいなら『好きにするからほっといてくれ』って言われた方がなんぼかマシだぜ」
「い、いやそんな」
拗ねた言葉を返すと、遠くを見ていたリィンの目が慌ててクロウに戻ってくる。
「ごめん、そんなつもりじゃないんだ、ほんとに。
…
それに
…
」
リィンは手を伸ばして、クロウのコートの袖を指先でつまんで引いた。
「
…
放っておかれたら、困る」
「
…
っ」
袖を引いて上目遣いで見上げるなんて、無意識でやっててもわかってやってても手に負えない。
クロウは袖を引かれたままで大きく深呼吸をして、それからリィンにきゅっと向き直った。
そして有無を言わせず抱き締めた。
「
…
ぁっ
…
」
声にならない吐息のような響きがリィンの口から洩れて、体を硬くしたのがわかった。
黄昏を乗り越えてからこっち、リィンが幸せだと感じることを何より怯えているのを知っている。
まるでいけない事をしてしまったかのように怯えて、戸惑う。
わかっていたけれどクロウはしっかりとリィンを抱き締めたまま逃がさなかった。
少しそうしているとおずおずとリィンの腕が上がってクロウの背中に遠慮がちに添えられた。
嫌じゃないんだよ、そう言っているようでクロウは少し頬を緩めた。
「ふう」
クロウは息をつくとリィンを離して真っすぐその瞳を見つめた。
すると少しだけ力の抜けたリィンの夜空色の瞳が縋るように見つめ返してきた。
「怖いんだ。今は
…
欲しいものが全部周りに並べてあって、だけど何度も奪われたから。そうなるべきだってどこかで思ってしまって、そうじゃないのが怖くて
…
戸惑うんだ」
何か抱えるように胸の前に伸ばしたリィンの腕がかすかに震えた。
クロウはその両手をそっと握ってやる。
「全部お前が勝ち取ったもんなんだから、好きに受け取りゃぁいいんだよ」
「でも!」
顔を上げた勢いとは裏腹にリィンの瞳は怯えた子供の様に揺れていた。
「俺はっ
…
黄昏の引き金を
…
」
引いたのに、という言葉はまた俯いてしまって続かなかった。
それを言うなら自分は内戦の引き金を、思い切り自分の意志で引いている。
けれどそれを言い合ってもなんの意味もないのだ。
「だからこそ、だよ」
「え?」
戸惑った顔でクロウを再び見つめたリィンの手を握る力を強くして、クロウは優しく微笑んだ。
「説明はしねぇよ?それはお前が自分で気付かねぇと意味ないんだろうからな。それに
…
どうせ言葉でいくら言ったってお前は聞かねぇんだから。ここで」
どん、と少し強めにリィンの心臓辺りを拳で叩く。
「理解しねぇと納得しねぇんだからなお前は」
にや、と笑ってやるとリィンは拗ねたように唇を尖らせた。
「
…
それは、クロウには言われたくないぞ。何を言っても負かすまで聞いてくれないんだから」
クロウはわざとらしく視線を逸らして口笛を吹いた。
リィンはため息をついているが、少し肩の力が抜けた気がした。
「
…
ま、聞かねぇついでにお前は好きにやれ。こっちはオレが見ててやるから」
言いながら今度はリィンの背中を平手でばんと叩く。
「思いっきり突っ走って好きにやらかせ。そうすりゃいつか
…
」
言いかけた時、向こうから偵察組が戻ってきた。
フィーがリィンの頭に目をやって口元を緩めた。
「あ、いいな。リィン似合ってる」
「はっ!?く、クロウ!!」
忘れていた頭の上の装飾を思い出してリィンは真っ赤になってクロウを睨んだ。
クロウは外させないようにリィンの頭に手をやって呵々と笑った。
「いっそ全員でつけてくか!」
「うむ、名案だと思うぞ!」
いつになく力強くラウラが同意したのでリィンが頭を抱えている。
クロウの大きな手の下でヘアバンドを外そうともがいているリィンを横目で見てクロウはふと笑った。
きっと大丈夫だろう。いずれリィンが素直に『それ』に手を伸ばせる日が来る。
だからクロウはそれを待つだけだ。
もうタイムリミットはないし、隣を誰に譲る気もないのだから。
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