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詠夕れもん
2024-09-22 23:33:23
3900文字
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レイジー・ロマンス(狛日)
2024/9/22 ブレイクショット! 24での無配でした。ED後全員目覚めた感じの設定です。
「なあ狛枝、その、非常に言いにくいんだが
……
」
「どうしたの?」
決まり悪く目を逸らした日向の頬のあたりへ、肩に乗せられた頭からの視線が突き刺さった。
別に何か悪いことだとかやましいことをした訳でもないのに、どうしてこんなに後ろめたい気持ちになるのか。それは間違いなく狛枝にとっては何の悪気もないことを指摘しなければならないからで、日向が口にしようとしているそれは間違いなく正論なのだけれど、それでも何だか狛枝に悪いような気がしてしまうのも確かだった。ならば自分が我慢してしまえば良い話ではあるが、いい加減そうもいかなくなってしまったのでこうして口火を切ったという訳だ。
「
……
やっぱりお前、友達に対する距離感がちょっと世間とズレてるぞ」
「え? どの辺が?」
友人。今の自分たちの関係を適切に表すならそうなる。少なくとも、日向にとっても狛枝にとっても自認は『友達』だ。新世界プログラムから狛枝を叩き起こした後、すんなりとはそうならなかった
……
どころか、周囲を巻き込んでの大層なすったもんだがあった末での結末ではあるが、兎に角今はそう落ち着いている。
けれど、そう定義した上で考えると、どうしたって狛枝の行動はおかしいのだ。
「普通は友達だからってそうそう手を繋いだりしないし、抱き着いたりしない」
「そうなの? 西園寺さんと小泉さんとかよくしてたじゃん」
「それはプログラムの中の話だろ。あの中の俺たちは自覚の上では高校生なんだぞ? あれくらいの年齢ならまだしも、良い大人の『友達』がすることじゃない」
「ふーん
……
?」
分かっているんだかそうでないんだか、曖昧な反応が返ってくる。普段は聡い癖にどうしてこんなところでは物わかりの悪い素振りを見せるのかと言いたくなるが、碌にまともな人間関係を築くことのできなかったであろう彼のこれまでの人生を思えば、あまりピンとこないのも仕方がないのかもしれない。
(
……
って、絆されるなよ日向創。今日こそちゃんと、まともな『友達』っていうのを狛枝に教えてやらないと)
うっかり緩みかけた意志をきちんと握りなおす。そう、これは必要なことなのだ。狛枝にとっても、日向にとっても。
「あと、こうやってべたべた寄り掛かったりもしない」
そこまで言い切って漸く日向は肩口にもたれかかる狛枝へと視線を向けた。珍しく少し困ったような表情をかたどった鈍色とかち合う。その色に少し言葉が詰まるものの、何とか日向は言葉を続けた。
「それに、
……
」
「それに?」
「
…………
友情を伝えるのに、キスはしない」
これまで狛枝の世間ずれを感じながらもそれを咎めることの無かった日向がこうして苦言を呈することになった原因は、つい数日前の事だ。どうしてそんなことになったのか、話の流れはその衝撃に全て吹っ飛んでしまって記憶にない。が、兎にも角にも、日向クンが友達になってくれて良かった、と眦を緩ませた狛枝が日向の頬に唇を寄せたのが明確な切っ掛けだった。
そんな当の本人は、自分の行為が日向にどれだけの衝撃を与えたかなんて微塵も理解していなさそうな顔で問いを投げつけてきた。
「頬っぺたでも?」
「どこでもしない! いや、そういう文化もあるのは知ってるけど、少なくとも俺たちが生まれ育った国の文化ではしない」
「ならどういう相手にするの?」
「それは
……
まあ、恋人とか夫婦とか、恋愛感情を持った相手にするものなんじゃないか」
「じゃあ逆に、何をするのが友達なの?」
「そう改まって言われると困るけど
……
くだらないこと喋ったり、相談しあったり、飯とか食べに行ったり、遊びに行ったり
……
とか?」
「
……
そう」
小さく頷いた後、好き勝手に体重をかけていた日向から離れて真直ぐソファに座りなおした狛枝は考える素振りを見せる。
……
あくまでも彼の中の『友達』という定義がおかしなことになっているのが問題なのだから、それを正しく定義しなおしてやればいい。そうすれば日向のことを友人と認識している狛枝が求めてくるものは健全でまともになる筈だ、と。
日向が組み立てた論理は正しい。正しい、
……
筈だった。その正しさを呆気なくぶち壊したのは、思案の末に何か納得した様子でひとつ頷いた後の、けろりとした狛枝の一言だ。
「じゃあ、日向クンとは友達じゃなくていいや」
「
……
は?」
思ってもみなかった反応に目を丸くする。どういう思考の末に、どういう意味を持ってそんな結論を出したのか。その言葉からは何一つそれらしき答えを導くことができず、日向はただ呆けた顔で狛枝を見つめるばかりだった。
「前提の問題だよ」と、瞠目する日向に対して何てことないとでも言いたげな軽さで狛枝は語りだした。「ボクがどうして日向クンにそういう行動をとったのか、って前提」
「どういう意味だ?」
「キミは、ボクがキミを『友達』だと思ってるからこういうことをしたと思ってて、でもそれが『友達』がすることとしてはおかしいから、ボクの中にある『友達』って定義を直そうとしてるんだよね?」
「まあ、そうなる
……
な?」
いまいち話の要点が掴めなかったが、ひとまず認識のズレは無い筈なので頷いて答える。その鼻先に、びし、と色素の薄い不健康そうな色をした指が真直ぐ突き立てられた。
「そこが違うんだよね。ボクは『友達』がすることだから日向クンにそういうことをしたんじゃなくて、日向クン相手だからしたいと思ったことをしただけなんだから」
「
……
つまり、何が言いたいんだよ」
「ここまで言って日向クンが理解できないとは思えないなあ
……
ねえ、本当に分からない?」
わざとらしい笑みが狛枝の顔に浮かぶ。それを目にした日向の頭にはこれまでの経験から、碌なことが起きそうにないと瞬時に警報が鳴ったが、咄嗟の判断も読まれていれば一歩遅い。距離を取ろうと立ち上がる前に両肩を掴まれ勢いよく体重をかけられる。反応が間に合わなかった日向の背がソファに沈んで、しまった、と心中嘆いた。体格では幾分か日向は狛枝に勝っているとはいえ、それは決定的な差ではない。マウントポジションをとられればそれを覆すのは難しくなる。だから最も効果的なのは奇襲で、それをまんまと成功させた狛枝の笑みが少しだけ深くなった。
「キミに向けるこれが友情じゃなくて恋愛感情だっていうなら
……
ボクはキミと友達じゃなくて良いんだよ、日向クン。定義しなおすべきなのはボクの中の『友達』の在り方じゃなくて、ボクがキミをどう想ってるか、その感情の方だ」
くすんだ色の虹彩が影になって、そこに潜む温度を上手く読みとれない。だというのに、その目から視線を逸らすことができない。そこに追い打ちをかけるように日向の肩にかかる力が強くなった。
「けど
……
そう思うとさ、ちょっとおかしいよね?」
「
……
お前がおかしいのは周知の事実だろ」
「違うよ。いや、ボクがおかしいのはそうなんだけど。そうじゃなくて、今言ったのはキミのこと」
日向はその意味を問いただそうとして、しかし言葉にすることができなかった。彼が何を言いたいかは薄々見当がついていたからだ。そんな日向の心情すら見透かすような目でこちらを見つめながら、狛枝は静かに問いかけてきた。
「ねえ、キミはどうして嫌がらなかったの?」
「
…………
」
「ボクが『友達』としてはおかしなことをしても、キミは驚くくらいで嫌な顔はしなかったよね? ポーカーフェイスは得意じゃないのに」
「
…………
」
「今だって、『友達としておかしい』とは言ったけど、『友達にそんなことをされるのは嫌だ』とは言わなかった」
「
…………
」
「ね、日向クン、キミは、」
「っ俺は!」
決定的な事実を突きつけようとしてきた狛枝の言葉を無理矢理遮る。けれど、そこに続く言葉は、自分でも驚くくらいに弱り切った音で耳に届いた。
「俺は、
……
お前と、友達でいたかった
……
」
狛枝の目元が緩む。喜色を示すような彼の声色は、やはり常には無いやわらかさを伴っていた。
「どうして?」
「だって、お前にとって、友達っていうのは
……
特別で、大事なものだと思ったから。だから、それを壊したくなくて、」
だから、いつからか狛枝に向けて抱いていた慕情は、なんとしてでも捨てようと思ったのに。
自分の想いが叶わないから諦めようとしたのではない。狛枝が日向に求めている関係が友人関係であるのならば、それを叶えてやりたかったから。そのためなら自分の焦がれる気持ちを無視したって良いと思わされるくらいに、狛枝は日向にとって唯一で、特別で、大切だった。だというのに狛枝が日向の中にあるやわらかい感情に触れてくるような真似をしてくるから、正しく友人であるためにそれをどうにかしたかっただけで、
……
それがどうして、こんなことになってしまったのだろう?
混乱した頭では自分が選ぶべき正解がとんと分からなくなってしまって、泣きたいくらいの気持ちのままに狛枝を見上げた。目に涙の一つでも浮かんでいたかもしれない。そんな日向の胸中をきっと全部理解しているのであろう狛枝が日向の視線を受け止めると殊更幸福そうに笑んで見せるものだから、なんだかいっそ憎らしくすら感じてくる。
けれど。この状況をまるで受け入れられてなくたって、やわく重ねられた口唇の温度で胸の内に喜色を滲ませてしまう自分に気付かない振りはできそうにない。その儘ならなさにとうとう自分の頬を涙が伝っていくのを感じながら、日向は静かに目を閉じた。
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