三毛田
2026-01-30 22:35:56
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53 07. 手のひらに落ちた涙

53日目
理由もわからない涙

「あ、れ?」
 雨など降らない街なのに、手のひらを濡らす雫。
「穹、どうした」
 俺が足を止めたことに気づき、丹恒が振り返った気配を感じ。
「どこか痛いのか? 苦しいのか? 辛いのか?」
 彼は俺の前まで来ると焦ったように矢継ぎ早に問いかけてくるけれど、痛くもなければ苦しくもなく。辛いわけでもないので、答えに窮する。
 次から次へと零れ落ちる涙のせいで、首を振ることしかできず。
 困惑させているのはわかるけど、止め方がわからない。
「列車に戻るか?」
「心配、させたくない……
「それなら、人気のないところへ行こう」
「じゃあ、ハヌテレビのとこ……
「ハヌテレビ……あそこか」
 丹恒はフードを被せ、手を引いて歩き出す。それに遅れないように、何とか足を動かして。
「ちょっと待っていろ。飲み物を買って来る。それと、タオルを濡らしてこよう」
「やだ。一緒に居て」
「だが」
「落ち着くまで。お願い」
「わかった」
 手を繋いでもらって、階段に腰を下ろして。
 数回深呼吸をしていると、鼻の奥が痛くなって。無理に鼻をすすって、何とか止める。
「鼻の中を傷めるぞ」
 呆れた声とともにティッシュを渡されて。それで鼻をかむと、すっごい鼻水が出た。
 追加のティッシュを貰って、手を綺麗に。
「はあ……
「落ち着いたか?」
「うん。よくなった」
 また一つ落ちた涙を、ちょっと冷たい指が拭って頬を撫でる。
「水分補給が必要だ。飲み物を買ってくるから、待っていろ」
「はーい」
 今度は大人しく座って丹恒を待つ。
「ほら」
「ありがとう」
 しばらくして戻ってきた彼から差し出されたジュースを受け取り、ゆっくりと飲む。
「それで?」
「わかんない」
「そうか」
 分からないからと怒ることなく、隣に座って寄り添ってくれて。
「丹恒がいてくれたから、取り乱さずにすんだんだ。ありがとう」
「俺が、お前の側に居たいと思ったから。ただそれだけだ」
 笑いかけると、ちょっとだけ照れたようにそっぽを向く。
「丹恒、好き」
「そうか」
「キスしたい」
「外だから駄目だ」
 キスをしたくなって顔を近づけるけど、グッと押されて拒否。
 チクショウ。
 しばらくそこで休み、顔が元通りになったのを確認してから列車へ。
「列車に戻ってきたんだから、キスしてもいいだろ」
 帰宅後手洗いうがいと、ついでにお風呂も済ませ。資料室に戻ろうとする丹恒を引き留めて、ベッドへ押し倒す。
「なぜそんなにキスを」
「お前が好きだからだよ。何度も言わせるな」
「それは気のせいだ」