asahito
2026-01-30 21:06:46
4277文字
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Corpse Reviver⑪

前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585 一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/14625442 一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。

駒草君の過去は、幻想郷軸で書いてた話と合わせるのでご了承を。

「ユイマンさんはこの前ふたりに飲ませた酒がお気に入りみたいだけど、他にもあんたが好きそうな色んな酒があるって伝えておいて」
 思えば当てつけの様にコープスリバイバーばかり頼んだのは。カクテルを全く知らないか、それともあの酒に思い入れがあるかのどちらかだ。
 うちにはちゃんとメニュー表があるし、カクテルをスマートフォンで調べたりしている好奇心旺盛な女が同じものばかり頼むのは何かしら理由はあるだろう。
 漢方薬みたいな変わった匂いがする、というなら。もっと飲みやすくて口当たりの良い甘い酒もある。
……あの死者の蘇生ですか。彼女はもう少し甘い方が好きな気もしますが」
「それでもあのお酒ばかり飲んでてね。それだけあれに思い入れがあるんじゃないかな」
 私の酒を飲んで笑ってはいたが。阿梨夜と一緒に結婚記念日を祝っていたあの夜の飲み方に比べれば明らかに美味しそうには飲んでなかった。
 寧ろ。当てつけのような何かを示すかのようにあの酒を味わい。再現されない味に苛立ちを覚えていたのか。
「思い入れ……
 その言葉を反芻し。阿梨夜はゆっくりと俯いた。あの酒は阿梨夜にとってもユイマンとの思い入れのある酒になるだろう。
 少なくとも、スネークバイトよりかは良い思い出がある酒のはずだ。
 威嚇する蛇の瞳。蟒蛇の貪欲な獰猛さ。勿論あの女も人間であるとは思うが、抜ける様な色白の肌や少々浮世離れした佳人の顔立ちは。
 口を開かずにお淑やかに黙っていれば、ゲームに出てくるようなーどこか知らない異国の姫のような雰囲気にも見えた。
 使ってる言語は普通に日本語なので日本で育って来た山育ちでしか実際ないのだろうが。
「おかげでブランデーも品切れだ」
 あまり客の事は話さない主義ではあるが。多少の情報は渡してやってもいいだろう。
 喧嘩したパートナーの為に明らかに苦手そうな街にやって来て、うちの店に目星をつけるのであれば。それはちゃんと相手を理解している証。
 袖から覗くユイマンの腕などを見ても傷や痣はなく。虐げられている奴特有の翳りのような、そんな負の煙を纏っているようにも見えない。
「さっきの買い物ってそのブランデーを買いに行ってたの」
 同性間の暴力。いや同性間だからの見えにくい暴力は確かにある。力の差があまりない同士だからこそ、簡単に相手に手が出せる。
 殴る蹴るだけではなく言葉でも暴力もあるし。そっちの方が傷が見えないから厄介ではある。
「コンビニには売ってないよ。また業者とかに頼むさ」
 あれはちゃんとした酒屋に行かなきゃ置いてない酒だ。コンビニに置いてあるわけがないだろう。
 阿梨夜は見た目の通りあまり酒に興味のない女か。夜の街を遊び回るような女には見えないしな。
 電子煙草の最後の一吸いをして、私の一服は終わる。後私に残された仕事と言えば。
……あんたもちゃんと家に帰るんだよ。遠けりゃこの辺の安全なホテル教えてあげるから」
 私が興味を持ったとはいえ、客をラストオーダーよりも後まで引きとめたのは悪い。今ならまだ駅に行けば間に合う時間帯ではあるが。
 今から家に帰るとなると割と時間もかかるし危険ではないだろうか。うちの事務所に泊めるわけにはいかないため、阿梨夜は安全な場所に自力で行って貰いたい。
「そうね。今から帰ると日付が変わってしまうし、酔っ払いがこの時間帯電車に多いから嫌」
 阿梨夜はスマートフォンで乗換案内を見ている。酔客が暴れ回る時間帯というのは確かにその通りだろう。電車の中で戻されたらそれこそ阿鼻叫喚だ。
 もう少し歩いていけば阿梨夜の悩みにもっと答えてくれそうな店が多いエリアはあるのだが。足を踏み入れる様な奴ではなかろう。
 ユイマンの泊っているホテルに私も泊まろうかしら、とは言わず。宿泊のアプリで別のホテルを探しているように見える。
「私も今夜は泊まるわ。丁度近くの駅前の大きなホテルが空いてるみたい」
「駅前って……あそこの?」
 あそこってユイマンが泊ってるホテルの倍の値段するホテルで、割と大企業の名を冠したホテルだった気がするんだが。
 というか、前私が魅須丸のこと連れて行ったスイーツビュッフェやったホテルってあそこじゃないか。
 大層ご立派なホテルはうちの店からでもその風貌が見える為。遠くに目を遣ると丁度そのホテルが見えた。明らかに、強者の風格のホテル。
「遠くから見えるなら近づいていけばいいわね」
 呑気に阿梨夜は部屋が空いてて良かったと予約を取ったみたいだが。あそこの値段に躊躇せずに予約できるってコイツもしかして、かなりの金持ちなんじゃないか。
 しかも、成金とかじゃなくて昔から『そういう』環境で育って来たからそれが当たり前。あの袿姫みたいなああいうのと同類の家系の生まれというか。なんとなく近い物を感じるのは気のせいではない。
 金を持ってるか持ってないかの値踏みをするのはあまりよくないが。持ち物や振る舞いである程度は判断ができる。
 ブランド物を持っているとか、付けているアクセサリーとか。そういったちまちました情報でも分かるものはある。持ち物に持ち主が伴わない場合はあっても、悪趣味でなければそれは御愛嬌だろう。
 阿梨夜は地味な女、という印象が強いが。身に着けているものは決して貧相ではなく、身だしなみも清潔感があると言える。
 学芸員というのは詳しくないが派手な恰好をする職業ではないだろう。爪が短くアクセサリーが腕時計と眼鏡位というのも、その職業ならそれが相応しいのだ。
 爪を短くしているのはユイマンの為なのもあるかもだが。物を運んだりするときに長い爪では危険だろう。
……安全な場所見つかったならよかったよ。気を付けてお帰りください」
 遅くまで足止めして済まなかったというと。阿梨夜は首を振る。
「ラストオーダーの後に来たのが悪いから、今度はちゃんと……二人で来ます。ユイマンの事を教えてくれてありがとう」
 礼を言える程度には落ち着き。礼を言える程度には常識がある。埴輪も押し付けて来ないならそこは袿姫よりかはまともかもしれない。
 そう言って阿梨夜は缶を鞄に入れ私に別れを告げた。店の入口までは送るからと後からついていき、安全なルートを教えてその道を通るように言う。
 阿梨夜は言われた通りユイマンと同じ安全な道を通っているのを見て。
 やっと私は、ほろ酔いの躰で安堵の溜息をまた吐いた。いっそラブホ街の評判のいいホテルでもついでに阿梨夜に吹聴しても良かったが。
 冗談でも、そういうのを教えられるような状況ではなかろう。だが教えた時の反応を少し考えると。無碍にはせずに、顔を紅くしてこっそり調べ出しそうな感じなんだよな。
「今日も一日頑張った……
 独り言のように呟き店の鍵を開け帰る。本当の家は別の場所にあるが、ここだってもう私の家だ。
 譲って貰った時は到底維持できるのかと不安にもなったが。なんとか激しい変化に耐えればいつかは自分の場所になる。
 ぎゅっとネックレスの石を握ると張っていた気が緩み。そのまま少しの片づけをして事務所へ歩いていく。今日はもう、家には帰らずこの店で朝を迎えよう。
 酒も入ってるし何より疲れた。痴話喧嘩なんざ見慣れた光景ではあるが。ああいう感じの痴話喧嘩は新鮮だった。
 事務所の灯を付けて、シャツの上に着ているベストを脱ぐ。溜まっていた料金は明日払いに行けばいいし、業者が来るのは午後からだから少しは寝られるだろう。
 痴話喧嘩というのはだいたい。相手が悪いと言って愚痴をひたすら零すモンだが。あいつらは何だかんだ最後は、自分のほうに非があると認め、向き合うことをきちんと選んでいる。
 自分の非をすぐ認めるほどに。そいつが大事なのだろうか。とりあえず謝っておけばそれで何でも収まると思っているとも違っていた。
……
 簡易ベッドに腰掛け、結っていた髪を解き。かつて毎晩のように相手に本心でない謝罪と甘言を繰り返していた記憶を反芻する。
 ああでもしなければ上京したてでは生活もできなかったとはいえ。それでも、思ってもない事を言う苦痛は今考えればあまりにも深い。
 ちょっとした事業で財を成した奴とはいえ。付け焼刃の成り上がりでは保つことはできず、すぐに落ちぶれた相手は。
 今はちゃんと生きてるのか、死んでいるかも分からない。くたばってくれていても多分情は沸かないだろう。
 この店を継ぐ為の必要な事だった。だから今があるのだと言い聞かせても。生まれながらにしてずっと好きな相手と一緒にいるような奴らとはあまりにも違い過ぎて。
 あいつらだって、私に言っていないだけで辛い過去も悪意に晒される事もあるのかもしれないが。
 それでもああいう形の在り方が現実にあるのであれば。それは一つの私があり得る未来なのか、夢物語なのかは分からない。
「化粧落とさなきゃ」
 考え事をしていたらもうすぐに日付も変わってしまう。そこで眠らなければ不眠コースだ。化粧をしたまま眠るなんて、肌には毒だから。
 洗面所に向かいクレンジングと洗顔でしっかりと化粧を落とすと。手入れの化粧水や色んなクリームを塗り、肌を守る。
 あまり化粧は教えてもらえなかったから自己流ではあったが。いいモンを教えてくれたのは、自虐的に言えば顔で飼われていたあの女の知識だったか。
 この顔立ちで面倒を見て貰うなんざ、躰を売るのと何が違うんだ?そう自問自答しても。誰にも言ったことのないその過去を魅須丸に問うこともしないだろう。
 いつか言う必要は来るのかと考えても。言った所でだからなんなんですか、と言い返されそうなんだ。
 あいつは、私の過去を知った時よりも。ネックレスの石の加工仕様を作成途中で変えてくれと言った瞬間に問答無用で鞄で殴って来る女だろう。
 そう思うと無性に馬鹿馬鹿しくなってきて。
 少し湿った顔のまままた店の中に戻り、棚にあるバーボンの瓶を抱え冷凍庫を開く。
 角砂糖、バーボン、リキュール、氷。本当はオレンジやレモン、砂糖漬けのチェリーなども必要だが。今の私の為の酒ならそんな甘ったるいものは必要ない。
 いつも強い酒を割らずにチョコレートばっかり食べている魅須丸に、砂糖を使うカクテルを教えてやろうと思っていた酒。



 昔を重んじつつも。その風格は変わらぬままの酒。その酒の持つ言葉は






 続く