フリンズさんとカフェに寄り道する話

※現パロです。ご注意ください。

「あ、新作出てるんだった。まだ飲んでないなぁ」
「ふむ、それなら寄り道しますか?」

 予備校の帰り道。今日の午後は雨で、兄が迎えに来れない日だったので、お迎えはフリンズさんが担当になった。車に乗るまでの少しの距離を歩いていたところで、某カフェチェーン店の看板を見つけた。この新作、少し前に広告で見てたんだよね。
……いいんですか? 時間ありますか?」
「問題ないですよ。どれが飲みたいのですか?」
「まさに、これですね」
 手書きの看板に大きく書かれている新作ドリンクを指さす。レビューも良くて気になっていたのだ。
「店内も空いてそうですし、入ってみましょうか」
……うーんでもなぁ、寄り道かぁ」
「ほら、勉強疲れの息抜きもたまには必要でしょう?」
 そう言われてしまうと、そうかもしれない。私の頭は結構単純なので、それで納得してしまったし、お店のガラス戸をもう潜っていた。

「カカオ エスプレッソ アフォガート フラペチーノをブロンドエスプレッソに変更してチョコレートチップ増量してチョコレートソース追加で。それとチョコムースケーキ下さい、ホイップも追加で」
 自分の注文を終えてから、後ろにいるフリンズさんを見上げる――と、彼は目をパチパチと瞬きして驚いていた。……何か驚くところあったっけ?
「フリンズさんは何にします?」
……僕はブラックコーヒーで」
「では、ホットのブラックコーヒーをトールで」
「かしこまりました!」
 元気な店員さんにスマホの画面を見せて、会計はアプリからピッと済ませてしまう。――あっ。
……いつもの癖で、自分のアプリから払っちゃいました」
「おや、ありがとうございます。それでは、たまには奢っていただきましょうか」
 彼はニコリと笑って、出そうとしていた財布をしまっていた。うんうん、コーヒー一杯ぐらい学生でも払える、というか私の飲み物食べ物の方が数倍高いんですけど。


 ***


 空席を見つけて、荷物を下ろして座る。予備校帰りなので教科書などが詰まっていて重たかったので助かる。フリンズさんに「注文は僕が受け取りますから」と、先に席で待っているように言われたのだ。それほど混んでいる様子は無かったので、すぐ来ると思う。
 腰を下ろした席はレジカウンターが見えない席だったのだが、なぜかフリンズさんが来るタイミングは容易に分かった。周りの女子が色めき立ったからだ。
「お待たせしました」
 後ろから声をかけられてから、今やっと気がついた――という雰囲気で顔を上げる。もちろんフリンズさんが居た。……やっぱり格好良いからね、みんな見ちゃうよね。
「はい、受け取りありがとうございました」
 注文した商品の乗ったトレーを机に置いて、正面の席にフリンズさんが座る。周りの女子からの視線がまだ痛いが、いつものことなので耐える。少し耐えれば皆も慣れてくるからね。……慣れるまではフリンズさんを眺めてしまう気持ちも、分かるからね……
 
……あれ?」
 フリンズさんの顔をチラッと見ると、メガネ――じゃなかった、薄い色合いのサングラスをしていた。
「あぁ、こちらですか? やはり人が多いところだと、この目の色が目立ちますからね」
 そう言いつつも彼は目元に手を運び、サングラスを外して机に置く。綺麗な満月の色をした彼の目が、再び見えるようになった。そもそも、フリンズさんは目の色で目立っているわけではない……のでは?

 新作のフラペを飲みながら、同じく新作のケーキ食べてるの幸せすぎるなぁ……と夢中で飲み食べしていたら、ふと視線に気がつく。
……そんなに見られると、穴が空くんですけど」
「それは失礼しました。――美味しそうに食べてる姿が楽しくって」
 そう言いながらクスっと笑うも、視線は私の方から動かない。うぅん、美味しそうだからってこと?
「じゃあ、フリンズさんも食べます?……なんちゃって」
 ニヤッと笑いながら、ケーキ一口分をフォークに乗せて差し出してみる。まぁ冗談なんだけど、ね。
 すると、フリンズさんはガタっと椅子が揺れるほど体を震わせて、しっかり三秒程固まった。……悪い冗談を言ってしまったようだ。こちらが恥ずかしくなってきたので手を引っ込めよう――と、思ったのだが。

 フリンズさんが私の手首を掴み、顔を寄せ、口を開ける。
……ありがとうございます。ご馳走様でした」

 ――た、食べちゃった⁈
「あ……はい、いえ、どういたしましてえ?」
 しどろもどろの回答になりながら、手を離された自分の手首に目線を向け、フォークを見て、頭に疑問符が沢山浮かんだまま、ケーキをもう一口分取り分けて自分で食べる。
 ……口に運んだ瞬間に(これは、間接キスというやつでは?)と思い浮かべてしまい、フォークを咥えたまま手がプルプルと震えてしまう。ようやく飲み込んだケーキは、先程と違って味がしなかった。
 そして恐る恐る目線を正面に向けると、フリンズさんは机に深く肘を立て、頬杖をつきながら私を見ていた。目が合ったことを確認して、彼はニコリ、と笑う。
 
 ――もうすでに帰りたいのだが、まだケーキは半分も残っていた。



『大丈夫ですよ、慌てなくても。僕は待てますからね』