ちゃしぶ
2018-08-10 12:21:07
3647文字
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ガンナーとガルゴ

3後のガンナーとガルゴの話

変わった奴だ。目の前でしゃべり続ける男の顔を見る。もうかれこれ1時間近く、目の前のスペイン男は喋り続けて居る。無機質で巨大なギアや大型エンジンも転がる工場に、早口なスペイン訛りの声が響いて居る。少し離れて座るドクやトールは既に奴の話をBGMに、ナイフや銃の手入れを始めて居た。今、俺は不運にも奴の近くに座って居て、不運にも銃やナイフの手入れも終え、不運にもヒマだった。辛いフライトならまだしも、平穏な今、ツールの店の二階、つまり皆のたまり場にして居る工場でこの状況は、辛すぎる。ちらと二人の方を一瞥すると、素知らぬ振りで視線を逸らす。助けろ、と声無く視線だけ向けたものの、ドクとトールは、頑張れよ、と口だけぱくぱくと返された。音も無く二人は立ち上がり、それぞれメンテナンス途中の得物を抱えて、階下へ移動してしまった。………覚えてろよ。

つまり、救援は、無い。身振り手振りを交え喋り続ける男の前で、俺はがっくりとうなだれた。



――あの騒動から暫く経った。バーニーは仇敵を討ち終え、俺達は新たな仲間を得た。今は仕事の依頼も無い、束の間の平穏と言う奴だ。ツールの店も、その二階の工場跡の事務所も、我らが頼もしい空飛ぶ棺桶の格納庫も、自然とたまり場になって居る状態だ。今もこうして、俺やガルゴやドクやトールが、何故かツールの店の二階で各々のんびりと過ごして居る。バーニーにとっては、お前ら家で寛げ、と言う所だろうが。

新旧入り混じる消耗品軍団は、一旦解散した。元々のメンバーは兎も角、新しく入った奴らは皆てんでバラバラの場所に住み、また傭兵とは別に仕事――ルナは、バンサー、用心棒をして居たらしい。その話を聞いた時は、昔の自分を思い出した――も持って居たからだ。俺達のように元から傭兵をして居る奴らじゃない。マーズに至ってはDARPAの兵器開発に携わるエリートだったらしい。そんなエリートがなんだってまたこんな消耗品の掃きだめへ来たのか。人間、いつ何がどうなるのか判らない。これから俺達と仕事をするために、今後の事も考え、皆の住居も探さねばならない。連絡等のやり取りもスムーズに行くように、俺達の本拠地へ移動しやすい住処を探す事は重要だ。若い奴らは一旦解散し、準備の為にそれぞれ元の住処へ戻って行った。――ガルゴとドクを除いて。

ドクは俺達よりバーニーとは長い付き合いだ。何年も留守にはして居たが、元々の住処はニューオリンズにあったそうだ。なので若い奴らのように一旦ニューオリンズを離れる事も無く、その侭だ。しかし帰って来て早々、ぱりっとしたジャケットにベストまで着込こみタイまでめかしこんだスリーピーススーツ姿になって居たのは、驚いた。ヒゲも髪も伸びっぱなしでモジャモジャだった囚人姿から想像出来ない、そのスーツ姿がドクの趣味らしい。着道楽、とでも言うのか。今は久しぶりのシャバで少し浮かれて居るのかも知れない、とは本人が言って居た。囚人服以外を着られるのが楽しいらしい。

ガルゴは元々、アリゾナに居たらしい。俺達傭兵仲間の斡旋もして居る、ボナパルトの紹介だったとは、後からバーニーに聞いた。しかし何か複雑な事情でもあったのか、先日久しぶりにふらりと顔を出したボナパルトは、ガルゴを見て相当驚いて居たし、バーニーにもガルゴにも呆れたような素振りだった。呆れたボナパルトにも笑顔でマシンガントークをかましたガルゴは、あのウズベキスタンでの一件からずっと格納庫で寝起きして居る。何でも航空燃料のにおいが堪らないらしい。変わったヤツだ。昼間は出歩いて居るようだが、大抵はツールの店かその二階に居る。と言う事を知って居る俺も、射撃場以外に出歩く場所も無いから、結局こいつと顔を合わせる事が多い。何時だったかバーニーに奴のマシンガントークを如何にかしろ、と言うかそもそもが何時まであのおしゃべり野郎を格納庫へ置いとくつもりだ、と言ったものの、ほろ苦く笑うだけだったのを思い出す。仕事の最中はまた別として、流石のバーニーも如何にか出来るものでは無いらしいと、その時には思った。しかし、バーニーにしては珍しく、黙らないと殺す、と言う一言も未だに無いのを思い出す。



――結局の所、俺はこの男について何も知らないのだ。何も。




目の前で喋り続ける男を、改めて見る。この男が何時も誇らしげに言うミンゴだとかトレスだとかタイガーだとかペピートだとか――そいつらの話はする癖に。自分の話をしないのだと、今更気付いた。

「それで、ペピートがああ、彼の事は前に話しましたよね。これがまた大男なんで、その建物へ侵入するのも一苦労――
「お前、何で自分の事を話さないんだ」

素朴な疑問を口にすると、途端ぴたりと声が止む。きょとんとした顔で此方を不思議そうに見る顔が滑稽だ。しかしこっちこそ、いい加減不思議で仕方がない。マシンガントークで頭痛までして来たような感覚がある。頭に来て居ると言うのも少しある。

「え?そうですか?こうして話してるじゃないですか。今日食ったメシの話とかそうそう、ペピートの話途中でしたっけ!」
「そうじゃない」
「ええと
「お前が前につるんでた仲間の話は分かった。お前がどう言う人間か、俺には全く見えて来ない」
……えっと」
「意図的にやってるのか?」

核心を突いたらしい。誤魔化すように浮かべていた笑みが途端に固まった。ああ、またやってしまった。俺は『空気を読んで言動を変える』と言う事は出来ない。出来ないと言うよりやりたくもない。仲間に対して空気を読んで遠慮するなんざごめんだ。これから生死をかけた仕事場で共にやって行くのだ。そんな遠慮くそくらえとも思っちゃいるが、バーニーには窘められた事もあった。兎も角、気になったのだから、仕方ない。こいつのこのマシンガン染みたまさに弾幕は、こいつ自身を隠す煙幕の役割をして居るんじゃないのだろうか。表情が固まった侭、視線をうろうろと彷徨わせて居たガルゴが、此方へ必死にその三白眼を向けて来た。

「違います。と、思うんです、けど。そんな風に見えるってのは、ええと、もしかしたら、そうなのかな。なんて、俺も、その、良く判らないんですよ。ハハハッ可笑しいかな、可笑しいか」
「可笑しかねえよ。あー

それまでの流れるようなマシンガントークが、途端にしどろもどろになった。眉を下げ困ったような表情のガルゴが、迷子の犬のようで、居心地が悪くなって来る。悪い事をした、と急に湧き上がる罪悪感から、こっちまで眉根を寄せた。俺のその顔を見て笑うガルゴの顔は、少しぎこちなさが取れて居た。奴らしくもなく、その意味も良く判らないような、つっかえつっかえの口調が、ガルゴ本来の口調のようにも思える。立て板に水のような普段のマシンガントークよりも、よっぽどコイツらしいとすら思う。感情が判りやすい。それでもコイツは迷子の犬が飼い主を探すようにも、雑然とした工場内を見回す。そのガルゴの視線の先――壁に飾っているアルバトロスの写真が見えた。

――俺、仲間が出来るの、久し振りで」

ぽつぽつと話し出すその声は、流れる口調とは似ても似つかない、ぶつ切りの、片言だ。まだ落ち着かないのか、俺と同じように居心地が悪いのか、所在なさげな片手が意味も無くその額を掻いたりして居る。

「ずっと、その、一人だったでしょ。いや、あの、一人だったんで。だから、話し方、判らなくて。いろいろ話したいし、話そうと思ってる。けど、なんか、こう、溢れ出して、話し過ぎちゃうって言うか……ええと、うまくいきませんね。ハハ、カッコ悪いな!」
「今の方がよっぽどらしいぜ」
「え?カッコ悪いって事ですか?やだなあガンナー!」

一瞬見えた本来のガルゴらしいその口調と、ほっとしたような緩い笑みが、俺にはなんだか、今までのマシンガントークや満開の笑顔よりも、よっぽどこいつらしいと思えてしまった。だからほんのちょっと、ちょっとだけだ。つい俺は多少浮かれたのかも知れない。

「お前の好物くらいは聞いておきたい。あと、嫌いなもの。食いものだとかじゃなくても、得物でも良い」
「えっ?ええと、俺のこと?え?ええっ?!シ!クラロケシ!」

きょとんとした表情から驚きの余りか、むず痒いような、そんな口元がむずむずとしているような笑顔になるガルゴは、途中から英語も忘れて恐らくはスペイン語で捲し立てる。俺が今度は困惑と――多少の気恥ずかしさで、口ごもる番だった。

そうして初めて、俺からガルゴへ質問なんてしてしまったのだが、その後ノンストップで5時間――ツールとバーニーがブリーフィングに呼びに来なければ恐らくもっとかかったはずだ――更にマシンガントークが続くだなんて、俺はこのときは知る由も無かった。もう二度と奴と二人きりになんてならないからな!