紅茶のEarl Grey
2026-01-29 13:11:45
3765文字
Public ライヒュ
 

俺は断じて浮かれてなどいない

ライヒュが初デートする話です
初々しいカップルが好きな飲み物が書いているのでかっこいいヒューゴもライカンさんもいません

⬇️以下が含まれています。一読推奨⬇️
・かっこよくないヒューゴとライカンさん
・お助けビビアンちゃん
・誤字脱字
・口調ミス&表現不足

類い稀なる聡明さを持つ稀代の大怪盗、ヒューゴ ヴラドはクローゼットを前にして頭を抱えていた。

それは先日のことだった。
長年ひっそりと抱えていた恋情を十数年越しに実らせたライカンとヒューゴなのだが、お互い多忙でなかなかプライベートの時間が一致せず、1ヶ月を越えようとしていたその時、ようやく2人は休日を同じ日に確保することができた。
当日の予定を決める時にやりたいことが多すぎて思わず詰め込んでしまい、夜型なのに朝早くから待ち合わせすることになったことをヒューゴは今更ながら後悔していた。

「いや、あれは酒が入っていたから...と、誰に言い訳しているんだ俺は」

ヒューゴは再び顔を上げてクローゼットに並ぶ自身の服をもう一度確認した。彼には推しの為にとオシャレをする妹分がいるため一般的な男性より衣服が多い自覚はあったが...これは多い、あまりにも多すぎる。

そもそもライカンと相棒だった時は自身の好みの衣類を揃える懐の余裕などなかったし、再会してからはプライベートで会うことなどほとんどなかったため元相棒であり恋人である人の服の系統など想像もつかなかった。

ライカンの私服を何着か想像して頬が緩みそうになるが、自身の前に立ちはだかるクローゼットという山を見て現実に意識を戻す。

「やはり、見つめているだけでは分からないな」

ヒューゴはそう呟くと着ていた服を脱ぎ、観客がいないファッションショーを開くことにした。

「これは...普段着ているものと代わり映えしないな」
「こっちは、少しカジュアルすぎるか...」
「...少し、派手か。フン、アイツは一体どんな格好で来るのか検討もつかないな」

今すぐ電話をして問いただしたい気分になるが、携帯を取ろうとしていた手をそっと下ろした。
せっかくの初めての恋人と初デートなのだから、件の小説のシリオンのように「ヒューゴ、お前その服どうしたんだ?凄く似合っている、綺麗だ...オレのために考えてくれたんだな、ありがとう。お前がオレの恋人で良かった」ぐらいは言われないと割に合わないというプライドがそれを邪魔をしていた。

ふと時計を確認すると日付を超えそうになっていることに気づく。もう3時間も服のことで頭を悩ませているのかと思うとどっと疲れを感じた。

「こうなったら、最終手段か。いや、これしかない」

ヒューゴは着ていた服を脱ぎ、バスローブを羽織って自分の部屋を出ると恐らくスキンケアを終えて入眠してすぐであろう現相棒の部屋をノックした。

「なんなのですか...全く。何時だと思っているのです、ヒューゴ?明日は早いから何があっても起こさないでくれって頼んだのは貴方でしょう?」
「頼むビビアン、君にしか頼めないんだ」
「全く、その様子ですと服ですね。分かりました。貴方の部屋にお邪魔しても?」
「あぁ、構わない。ありがとう。必ずお礼をしよう」
「あら、でしたらお礼は明日のデートの内容を聞かせて欲しいのです」
「そ、それは」
「冗談なのです」

和気あいあいと話しながらヒューゴの部屋に戻るとビビアンは手馴れた様子で素早く服を出してはヒューゴに着るように促した。ゆったりとした紺のハイネックセーターに、黒のスキニーパンツ、ベージュのダッフル生地のコートを手渡され、ビビアンがアクセサリーボックスを眺めているとヒューゴは待ったを出した

「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺がこれを着ると幼くならないか?」
「貴方が思っているほど幼く見えません。それにライカンさんはきっとこちらの方が"好み"なのです」

それを言われるとヒューゴは大人しく彼女の着せ替え人形になるしかなかった。ネックレスやピアス、腕時計などいくつか試着して、鞄を決めるとようやく当日の服装が完成した。ビビアンは満足気に広げた服などを片付けていく。

「髪型はいつものでいいと思います。あぁ、でも後ろ髪は前に持ってくる方がいいと思うのです。」
「あぁ、わかった。そうしよう」
「そ、れ、と、明日はいつものメイクは辞めるのです」
「なぜだ」
「服装に合うと思うのですか?大丈夫なのです、ヒューゴは自然体の方が良いと言うのは私も同意見なので。それでは」

ビビアンはそういうとヒューゴの部屋を後にした。1人残された彼はシワになってはいけないからと、ルームウェアに着替える。翌朝着る服をハンガーにかけて、眺めるとソワソワと落ち着かない感じがした。

「前日に緊張など、子供でもあるまいし...」

そうつぶやき、ヒューゴは何とか睡眠を取ろうと布団を頭から被った。

しばらくすると暖かそうな日差しがカーテンの隙間からもれているのが視界に入る。ヒューゴはもう何度目かになるが自身のスマホの画面を手に取り、時間を確認すると5時58分と記されていた。ほぼ役に立ちそうにないアラームは6時に設定していたため、準備をしようと体を起こした。目を閉じる度、初デートのシミュレーションばかり脳裏に駆け巡り、いたたまれない気持ちになってしまって一睡も出来なかったので激しい頭痛に襲われるが...今日を逃すと次いつ休みを合わせられるか分からないという事実を胸に、頼もしい妹分が決めてくれた服に腕を通した。

そしてまたもや、ヒューゴは頭を抱えることになる。
就寝するのが遅くなると予め予感していたので、準備を完璧にしすぎていたのである。
荷物は最低限、朝食も取り出して食べるだけの簡単なもの、メイクはいつものはやめろと釘を刺されていたので簡単にすませ、待ち合わせ場所に向かうルートも最短最速を予め調べていた。そのせいで到着が待ち合わせ時間の1時間も前になってしまい、ライカンとのチャット画面を開いては閉じてを繰り返していた。
道ゆく女性に声をかけられるも、今からカフェに入るかどうするかを悩んでいるヒューゴには全く届かず、そうこうしているうちに30分も経ってしまった。

「これでは俺が浮かれているように見えるのでは?いや、俺は浮かれていない、断じて。」

と誰も聞いてないのに言い訳をし始めたそのとき。遠くの方で人混みにのまれている黒混じりの白い耳が見えた。もしかして、と見つめていると手元のスマホが震え、ライカンからのメッセージが届く。ヒューゴは衝動的に走り出してライカンの元へ向かおうとすると、ライカンもヒューゴに気づいて小走りで近づいた。

「ヒューゴ!もう来ていたのか」

そう言ってライカンはヒューゴの手を握り、心配そうにあちこちを触り始める。早めに着いた上にしばらく待っていて、ライカンを見かけるなり嬉しそうに走ってまで近づいたということにようやく気づいたヒューゴは照れくさそうにそっぽ向いて手を振り払った

「貴様にしては遅かったではないか」
「これでも待ち合わせの30分前だぞ。お前こそ、一体何分前に着いてたんだ?手がもう冷たいし、クマも酷い。まさか寝ていないのか?」
「そう一気に聞くな。ただ道が空いていただけの事だ。」
「電車なのにか?」
「うるさい」

ドンドン図星や墓穴をつつかれ、いたたまれなくなるヒューゴがその場を離れようとするとライカンに少しいいか?と聞かれる。なんだと首を傾げていると沈黙は肯定と相手は受け取り、分厚くてふわふわとした広くて長い厚地のマフラーを首に巻かれる。

「やはり、合うと思っていた。」
「こ、これは」
「今日はお前がオレのスケジュールに合わせて空けてくれただろ?だからお礼に、だ。包装して貰ったから渡すだけの予定だったんだが、身体は冷えているし、今日の服装にも合っていそうだから着けてみたんだ。....すごく似合ってる」

照れながらそういうライカンだったが、ヒューゴはそれどころじゃなかった。彼はその一言で今まで酔っていたせいで忘れてた「仕方ないから俺がその日を空けてやろう」と言ったことを思い出してしまった。
デートする為にと予定を空け、当日のスケジュールを詰め込み、前日には服を悩み、眠れず朝まで起き、挙句待ち合わせの1時間も前に到着していた。これではまるで....と、ヒューゴは顔を赤くしながら身体を震わせていた。ライカンはそんなヒューゴを心配そうに見ながら声をかける

「ヒューゴ、大丈夫か?まだ寒いのか?」
「...あぁ、ここで長話しているせいで少し冷えたな。早く向かうとしよう」

ヒューゴが早々に最初の予定である映画館へと向かおうとするとライカンに待て待てと止められる。

「なにかね?貴様、まさか俺を凍死させる気か?」
「違う。お前、オレが遅れても良いようにと映画の時間よりも早めに待ち合わせしようと提案しただろ...今向かっても向こうで立ち往生するだけだ。先にどこかに入って身体を温めよう」

ヒューゴはそう言われて慌てて時計を見る。たしかに映画館へ向かうにしては少し、いやだいぶん早すぎた

「俺は...」
「ん?」

「俺は断じて浮かれてなどいない!」

「...ふっ、そうか。」

ライカンは早足になるヒューゴの手を握った。今度こそ振り払おうとしても解けないけど、痛くならない程度に強く。

「オレは浮かれている。すごくな」