パサパサなケーキ作ろう!

オクトラゼロ/CPなし/主人公(♂2ソリくん)、フェン、スティアのあたたけえ関係性がメイン。ピウスさんが三人を俯瞰してくれます。得意不得意、才能あふれる三人のはなし。お好みで縦書きにしてお読みください(書いた人は縦書きで書いてます)


↑こういう話です

 パサパサなケーキ作ろう!

 
 ※弊ウィッシュベールの名物かつ主人公の好物は「パサパサなケーキ」です。
 
「あーっ、もう、ソリってば〜! そんなんじゃ使えないよ〜!」
「ッだー‼︎ できねえ! 全部同じ大きさに切るとか無理に決まってんだろ!」
「お〜っと、大惨事だな。スティア、なんとか整えられるか?」
 
 午後の閑散期を使って、三人は酒場の厨房でケーキを作ろうとしていた。この街で長く親しまれている、パサパサなケーキだ。水分を極限まで飛ばしたケーキは、ミルクやコーヒーといった味の濃い飲み物とよく合う。果物との相性も抜群だ。フェンは自分たちで作ってみたいという弟分と妹分の申し出を快く受け、自分自身もケーキ作りに参加していた。
 が、状況はどうにも先行きが怪しい。フェンは卵を泡立てていた手を少し緩め、喧嘩を始めそうな弟分と妹分の仲裁に入った。
「うん。小さいのはそのまま生地に混ぜちゃいましょう。大きすぎるのは同じくらいに揃えられると思います」
「くっそ……いちごの大きさがなんだってんだよ……食えればいいだろ……
 頼もしい返事をくれたスティアの横で、ソリが悪態をついて包丁を手放す。包丁が置かれたまな板の上には、逆にどうやったらこうできるんだというくらい不揃いに切られたいちごが散らばっていた。
「スティアが小麦粉振るうのは絶対ソリにやらせないって言った理由がよくわかったぜ」
「あはは……でも、いちごが等分に切れないなんて、あたしも思いませんでした……
「悪かったなァ、不器用でよ」
 シャツにエプロン姿の弟分が腕組みをしてむくれる。こいつが、自分が不器用だとわかっていてもパサパサなケーキを作ってみたいと思った気持ちは汲んでやりたいところだ。さてどうしたもんか。ソリには、最後にこのいちごを飾るとこだけやってもらおうか?
 そんなことを考えつつ、フェンは卵をかき混ぜていた。菓子作りは分量や手順が特に大事だ。ソリの扱いを考えながらも、フェンは生地の様子を気にかけ、手を動かし続けていた。卵白は根気よく泡立てるとふわふわになる。そこに先にといておいた卵黄を入れ、よく混ぜ合わせる。なかなか体力のいる仕事だ。
「フェンさん、そろそろ小麦粉入れていいですか?」
 フェンの手元を見ていたスティアが、次の材料を手に尋ねてくる。
「ああ、良さそうだぜ。混ぜるのは任しとけ」
 スティアに粉をふるってもらい、粉が塊にならないようよく混ぜ込む。小麦粉が入り、いよいよ手応えが重くなってきた。
「えーっと、次はどうするんだっけ……
 調理台の壁に鋲で留めておいたレシピに、スティアが顔を近づけた。瞳が上から順に工程を確認していく。
「バターだろ」
「ん? あ、……うん、そうだね」
 スティアがレシピを読み切る前に、ソリが口を挟んだ。溶かしたバターが入った小さなポットが、彼女の前に雑に置かれる。
 大工の器用な手がバターを器に均一に回し入れてくれた。ムラができないよう、生地全体をさらによく混ぜ合わせる。粉っぽさもなく、滑らかでいい生地になったんじゃないか。
「次は……
 スティアがまたレシピに目をやった。が、間髪入れずにどん、とケーキの型が台に置かれる。その荒っぽさ、間違いなくソリだ。
「次は型に入れる、だろ。入れたらかまどで三十分焼く」
「え……っ、あ、うん……そう」
 スティアも少し呆気に取られているが、それはフェンも同様だった。なぜかというと、ソリはレシピを見直していないからだ。確認していないのに、正確な手順と数字を答える。
 いや、こいつだって一度もレシピを見ていないわけじゃない。オリーブさんからもらった時。それから、今日の材料を集める時。二回は見ている。でも、たった二回だ。
「なんだよ。ボケっとしてないでやってくれよ。おれがやるとこぼすぞ」
「あ、ああ」
 つい、手を止めてしまっていた。ソリは料理に手が出せないことでずっとむくれていて、声にも不満が滲み出ている。けど、なんだ、こいつは自分で気がついてないのか。レシピを暗記するのは簡単なことじゃないって……
「あたし、かまどの具合を確かめておきますね!」
 スティアが調理台を離れ、後ろのかまどのそばで屈む。フェンも気を取り直し、出来上がった生地を丁寧に型へ流した。途中で無惨にも細切れされてしまったいちごを型の中へ浮かべ、上から残りの生地を流す。器の中身をヘラでそいで落としきった。これで準備完了。
 かまどに型を入れて扉を閉じ、三人は一息ついた。時計を横目に確認し、フェンは調理台に向き直る。まだ終わっていない。クリームと一緒に添えるためのいちごの見栄えを、少しでもよくしておかないと。
「スティア、いちごを頼んだぜ」
「はい! ここはあたしに任せてください! 資材の大きさを整えるのは、大工の得意技ですから!」
 スティアが包丁を握り、おかしな形になったいちごを丁寧に整えていく。余分に見える部分を削ぎ、いちごらしい三角形に見えるように切り、細かく手を動かしていた。
「すげー。さすがスティア。天才だな」
 むくれていたはずのソリが、目を細めて顎に手をやり、まな板を覗き込んで言った。自分ができないことにはイラつくが、スティアが出来ることを妬まない。だからこいつはいい奴だし、二人の関係は喧嘩しても拗れないんだろうな。
「へへ。まあ、そんなに難しいことじゃ……
 スティアは褒められて笑顔をこぼした。包丁の側面についたいちごの切れ端を指でまな板に落とし、次の一つに写ろうと歪ないちごに手を伸ばす。
「いや、お前は天才だぜ。ところで、その切れっ端、もったいねーから食っていいか?」
「もお〜、しょうがないなあ……
「やったぜ、いただき♪」
 諦めたようにがっくり肩を落としたスティアの目の前から、ソリが手づかみでいちごの切れ端を摘む。弟分はペロリといちごを食べ、甘くてうめえ、と目を輝かせた。さっきまでのご機嫌斜めは本当にどこにいったのか。フェンは堪え切れず笑ってしまった。こいつ、ちゃっかりしてんな。
「ふふ」
 ここで堪え切れなくなったのは、自分だけではなかった。皆で一斉に顔をあげ、声の方向を見る。そこには、いつの間にか知っている人物が立っていた。
「あ、あれ⁉︎ ピウスさん! いつの間にいらしたんですか⁉︎」
 スティアが手を止め、目を瞬く。
「ソリ君がいちごをやっつけたころですね。こんにちは」
 その人が立っているのは、酒場の出入り口のすぐそばだった。たおやかという言葉がこんなに似合う人はいない。優しく微笑んで挨拶をくれたのは、司教のピウスだった。
「すまねえ。全然気が付かなかった。店に用だったか?」
 フェンは軽く頭を下げ、そう尋ねた。ここは酒場だ。仲間たちが訪ねてくるとしたら、飯か酒が必要な時だ。
「ええまあ。ローラナさんとエスペル君と私で雑草を刈りながらハーブ摘みをしていたんですがね、気がついたらお昼をとっくに過ぎていまして」
「そりゃあ、腹が空いたよな。野菜炒めとパンだったらすぐ……
「いえいえ、お構いなく。見たところ、皆さんで素敵なものを作っているようですし」
 ピウス司教が柔らかく微笑みながら、調理台に近づいてきた。口元に手をやり、目を細め、まな板の上を覗き込む。そこには、まだほとんど手付かずの乱切りいちごがあった。
「ふ……ふふ。これはひどい」
「ちぇっ……。ま、しょうがねーか。おれが見てもやべー出来だし。綺麗にすんのはそこの天才二人に任せた」
「失敬。けれどソリ君。君の潔くて豪快な性格が出ていて、私は好きですよ」
「そうか⁉︎ へへ……
 フェンは小さく息をつき、肩の力を抜いた。この司教様、本当に人ができている。言葉の魔法というか、丸め込みの天才というか……。弟分が素直な照れ笑いをしているのを見て、自分もなんだか安心してしまった。
「えっと、でも……
 ひどいと言われたいちごを整形しつつ、そこに口を挟んだのは、スティアだった。何か言葉を迷っているような、そんな切り出しだ。
「ソリはあたしの腕を天才と言いますけど、これくらいのことは……それより、あたしはソリの記憶力の方が……すごいな、と」
「ああ、俺もそう思ったな」
 スティアが言い淀んだ部分までわかる。いちごを等分に切るなんてことは誰だってできる。いや、まあ、あえてここは大多数の人間ができる、としておくか。が、レシピの丸暗記ができるやつが果たしてこの世に何人いる? でも、本人はなんとも思っていないようだ。だってほら、今だってソリはきょとんとしている。
「記憶力?」
「ソリ、レシピ全然見ないじゃない。そんなの普通無理だよ?」
「ええ? 一回見たら忘れねーだろ、普通」
 弟分と妹分のやり取りを見て、ピウス司教が「ふむ」と頷く。
「そうですか。では……ソリ君。ケーキが焼きあがるまでの間、私と少し遊びましょう」
「お、何やるんだ? 受けて立つぜ」
「ふふ、難しいことではありませんよ。きっと、君にとってはね」
 
 *
 
 スティアがいちごの仕上げをするまで待ち、ピウス司教はソリをカウンターの外まで連れて行った。こちらの作業を待ってくれたのは、二人にも協力して欲しいから、とのことだった。
 と言っても、ただカウンターの中に立っているだけで、他に何をしろという指示もない。フェンはスティアの隣に立ち、向かい合ったピウス司教とソリを眺めていた。
「以前、君に本を三冊貸しましたね。私がこの街に来てすぐのことです」
「ああ、覚えてるぜ! 神官の指導書三冊な。でも、あれはもう返したよな?」
「ええ。返してもらいました。なんという本でしたっけ」
「加護の教養、初級、中級、上級」
「その通り」
 ピウス司教がこの街へ移り住んできたのは、もう半年以上前のことだ。フェンは二人の間にそんなやり取りがあったことも知らなかった。弟分は学者だが、読書をしている姿をほとんど見かけない。大体外で野良仕事をしているか、魔物討伐や見回りなど自警団の任をしている。フェンはこの時点で、真面目に勉強していたことに感心しきっていた。
 ピウス司教はにこりと微笑み、人差し指を立てる。
「では、ソリ君。私がいくつか問いかけますから、答えを示してください」
「なぞなぞか? よーし、来い!」
 ソリが胸の前で平手に拳を打ちつけ、気合を入れる。絶対いらねーぞその気合。フェンが苦笑を浮かべると、スティアも同じ顔をしていた。
「はい。いきますよ。まずは……
 ピウス司教が手をおろし、腹の前で緩く指を組み合わせた。酒場の中に真剣な空気が流れ始め、緩んだ口元を結ぶ。
「初級の二章」
 落ち着いた声音が紡ぐその言葉を聞き、ソリが今打ちつけた拳をすぐに崩した。願うように指が組み合わされ、そっと瞼が伏せられる。
「傷を癒したまえ」
 ふわりと優しく温かい風が足元を包む。靴や服があっても素肌に感じる、柔らかな温もり。治癒の魔法だ。
「中級の四章」
 次の問いを聞き、ソリがこちらを向いた。突然のことで、目を丸くしてしまう。弟分はいつになく真剣な顔で、手のひらをフェンに向かって伸ばした。
「天の恵みを与えたまえ」
「お、おわ……
 これが加護というやつなのか。自分自身の周りの空気がまるで守ってくれるかのようにふわふわと螺旋を描く。驚いているフェンをよそに、ピウス司教は問いかけを続けた。
「上級の八章」
 弟分は次に、体ごとスティアに向き直った。両腕を伸ばし、大きく息を吸う。聞こえるほどの深呼吸だった。ソリの周囲に魔力の動きが見える。学者たちが火や氷を扱うとよくわかるが、それに似た白とも金ともつかない美しい煌めきが湧き上がり、弟分のエプロンをふわりと揺らした。
「かの者の命は、巡りゆく」
「わ……あったかい……
 魔法をかけられたスティアが胸元を撫でてそうこぼした。隣に居るだけでもわかる。たぶん、なんかすげえ魔法だ。
 ピウス司教の口元にも笑みが見えた。きっと満足なんだろう。
「最後です。上級の五章」
……それは、ここじゃできねーぜ」
 ソリは構えた腕をおろし、ピウス司教の問いかけにすぐに答えた。回答を聞いた司教は、眉尻を垂らして優しく笑い、ゆっくり頷く。
……本物です」
「ん? 全部合ってただろ?」
「ええ。君の記憶は驚くほど正確です。本を丸ごと暗記しているんですか」
 魔法にそぐわぬエプロン姿の弟分は、カウンター用の高い椅子に浅く腰掛け、司教に向かって頷いた。
「返さなきゃなんねーもんは特に気合い入れて読む。買い揃えると高えし、同じ本何度も読むのが性に合わない」
「だからと言ってね、ソリ君。本をごっそり暗記できる人はそうそう居ないんですよ。後ろの二人の顔をご覧になってください」
 言われるがまま振り向いたソリと目が合う。こっちがどんな顔をしてたかって、開いた口が塞がらないというやつだ。
「ホント、そうだぜ? ソリ。いやー……お前とは長年過ごしてきたが、気付かなかったな……
「あ、あたしも……ノモスさんのところでも家でも、本読んでるのは見てたけど……まさか、全部覚えてるなんて」
「お、おいおい。そんな引くほど驚くことか?」
 そうだよ。
 俺たちの手先の器用さが霞む、驚くべき才能だが?
「きっと、誰も気がついていなかったのでしょう。本人はおろか、母君父君も気が付かなかった。君は……やんちゃですからね。子どもの頃は、本より別のことに興味があったでしょう?」
「今も本より体動かしてる方が好きだぜ」
 それを聞き、ピウス司教は苦笑を漏らした。
「君が学者という道を選び取ったことはまさに天の思し召しだと思います。けれども、君はそれすらも手段だと言うのですね」
 弟分は迷わずに頷いた。唇の端が上がっている。間違いないという確信を持っているような、そんな笑みだった。
「おれが本を読むのは、欲しいもんとか叶えたいことのためだ」
「いいな、と思います」
 ピウス司教はゆっくり瞼を伏せ、微笑みを浮かべる。フェンも、ソリがウィッシュベールを発展させ、守っていくために学者をやっていることは知っていた。その裏側にこんな才能が隠れていたことは、今初めて知ったけれど。
「君は才能を埋もれさせるほど自由に生きてきた。それが一番、幸福なことのように思います」
「それはそうかもしれねえけど……
 ソリが不意にこちらを振り返った。上目遣いの黒い瞳と少しの間視線が合う。意図がわからず、瞬きを返すだけになってしまった。その目はフェンとスティアを順番に見て、ピウス司教の方へ戻っていく。
「才能、って言うけどさ、おれはうまい飯作れて、あったけー家が建てられる奴らの方がすごいと思うぜ」
「ソリ……
 感動をあらわにしたような声でソリの名を呼んだのは、スティアだった。わかるぜ。そんなの嬉しいに決まってる。俺だって嬉しい。
「本は知識をくれるが、腹も満たせねーし街も作れねえ。そこんとこはお前らが頼りなんだよ」
「弓の腕前の方も忘れんなよ」
「えへへ……これからもよろしくね、ソリ」
 なんだか気恥ずかしくなる。頼られるのも、正直嬉しい。そうなりたいと願ってきた。でも、これからは弟分の才能も当てにさせてもらうとするか。
 三人で笑い合っていると、ピウス司教がカウンターを回り、落ち着いた足取りで近づいてきた。彼の広げた両手が、フェンとスティアの背にそっと触れる。
「君の不器用さは二人が補ってくれるでしょう。このケーキ作りのようにね」
「あっ、ケーキといえば、そろそろ時間じゃない?」
 スティアが時計を見上げたのに釣られ、全員で時計を見る。あれから三十分。かまどのケーキが焼き上がった頃だ。
「あっという間だったな。あ、そうだピウスさん。ケーキ一緒にどうだ? あとで野菜炒めも出すからさ」
 そう提案すると、ピウス司教は胸の前で手を合わせ、これまでで一番の笑顔をくれた。
「それは僥倖です。私、甘いものが好きでして」
 あ……もしかして、誘われるの待ってた?
 
 *
 
「うん」
「うーん」
「うめえ! でも、全然ちげーな、これ!」
 皿に切り分けたパサパサなケーキを皆で一斉に口にいれ、それぞれが唸った。
 見た目は完璧だった。ふわりとした黄色いケーキ。添えたクリームといちごが可愛らしさとご馳走の喜びを醸し出してくれる。
 だが、口に入れてすぐわかった。パサパサが足りない。しっとりしすぎている。不味くはないが、ソリの母ユーシアの思い出の味には、程遠かった。
「くっそー……失敗か……
 フェンはフォークを握り締めて肩を落とした。レシピは完璧に守れたはずなのに、なぜなんだろう。
「なんででしょうね……
 スティアがしょんぼりと眉を垂らし、つぶやく。
「んー。オリーブさんのレシピだからじゃねーか? 母さんのはもう見つけようがねーし、材料か工程をいじらねえと同じにはならねーかも」
 そう言いつつ、ソリはケーキのてっぺんにフォークを刺し、大口を開けて齧り付いた。こいつ、クソまともなことを言うじゃねえか……。そうとしか言いようがない。
「悔しいが、再挑戦するしかねえな……
「んぐ……でも、これはこれでうめえじゃん。おれはいいとおもうぜ」
 頬張ったケーキを飲み込み、ソリが慰めをくれる。ありがたいが、酒場運営で培った料理の腕が太刀打ちできず、嬉しさよりも悔しさが勝ってしまった。
「いやいや」
 丸テーブルを囲んだ四人の中で、今まで黙っていた人が静かに首を振った。ピウス司教だ。彼は丁寧な仕草でフォークを皿に置き、目を瞬いた。
「フェンさん。これは紛れもなく極上のケーキです」
「へ?」
「優しい甘みに溶けるような口当たり……いちごの瑞々しさがちょうど良いと感じる焼き加減。私はこんなに美味しいものを口にしたことがありません」
「お、おう……?」
 ピウス司教がそっと片手を頬に当て、しみじみと息をついた。思わぬ賞賛に、面食らってしまう。確かに味は悪くないけどよ……
「言われてみればそうだね。すごく美味しい」
「おれは最初からうめえって言ってるだろ」
 妹分と弟分が顔を見合わせて談義する。ソリのケーキはもう無くなりそうだ。そんなに気に入って食ってもらえたことは、失敗という事実の中でも救いだ。
「みんな、ありがとな。けど……ユーシアさんのパサパサなケーキはもっとパサパサだったよな……俺はあれをミルクにつけて食うのが好きだったんだが……
 思い出してみる。あれは、そう、なんだか粉砂糖みたいな優しさだった。ほんわり甘くて、幸せな気持ちになる。それと、今自分が作ったものは全然違う。まあ、これをミルクにつけてもいいんだが、どっちかというと、ストレートの紅茶とかが合いそうだ。
「それなんですがね、フェンさん。私、皆さんを見ていてなんとなくわかった気がするんです」
「んん?」
 フェンに答えたピウス司教は、背筋を正してソリの方へ顔を向けた。
「ソリ君。失礼を承知でうかがいますが」
「うん?」
 ほっぺたをぱんぱんにしてフォークを咥えたままのソリが首を傾げた。こいつ、もう完食しやがった。もう一切れ出すか……? 眉を顰めてそんなことを考えている間にも、ピウス司教の質問が続く。
「パサパサ、というのは生地の粉っぽさや、焼きすぎが原因である場合がほとんど。ユーシアさんは君のお母さんです。もしや、彼女の料理も……大雑把で豪快……だったりしませんか」
 ……
 またしても、開いた口が塞がらない。そ、そんなことって……
 ソリが視線を宙に投げ、目一杯頬張っているケーキをもぐもぐ噛みながら考える。十数秒そんな時間が続いたあと、ごくんとケーキを飲み込んで動く喉を見た。
「そうかも」
 ソリが答え、大声をあげて笑った。もう笑うしかなくて、全員で腹を抱えて笑う。
 だって、こいつの記憶は驚くほど正確だ。きっとそう ・・、だったのだ。ユーシアさんの雑な料理。それがパサパサなケーキの正体。俺にはもしかしたら、一生作れないかもしれない。
「あはは……。じゃ、ソリが作れば似たようなものになるってこと、ですか?」
「ふふ、その可能性は、かなり高いと私は思いますよ」
「くくっ、しょうがねえな。俺は雑巾をしこたま用意しとくぜ」
「おっ? おれにやらしてくれんのか? 覚悟しろよ。ははっ」