鳴上
2026-01-29 01:33:39
2051文字
Public ナツシン
 

とっくに知ってる

真冬目線で追うナツシンのアレコレ
なんか良い雰囲気で付き合いそう→喧嘩して話さなくなる→仲直りして付き合うって過程を真冬ちゃんが側から見てる感じ

 シンくんと兄貴って、不思議な関係だと思う。
 俺とシンくんはJCCの編入試験で出会って、仲間として割と良い関係性を築けたと思ってる。最初はほんとムカつくし、うるせーおっさんだと思ったけど、シンくんにはシンくんなりの軸があって、それが俺に悔しいけどブッ刺さったのは間違いない。だからってそんなことシンくんには言ってやんない。ムカつくから。
 でも、じゃあ兄貴は? 兄貴は、どうやってシンくんと知り合って、それから今みたいな立ち位置に落ち着いたんだろう。
 考えても分からなかった。それならば、と兄貴に一度聞いたことがある。その時は、お前そんなこと聞いてどうすんの、別に何でもよくねって誤魔化された。食い下がったけど、兄貴はヘッドフォンをつけて俺の声が聞こえないふりをした。ほんとにずり〜。
 兄貴が答えてくれなかったから、今度こそ、とシンくんに聞きに行った。聞きに行ったら、いとも簡単に教えてくれた、けど。
 ──ああ、最初は普通に敵として戦って、それからJCCで再会して今って感じ。
 何とも思ってない声で、明日の天気でも告げるように言われたその言葉に、もうよく分かんなくなった。でも言いたいことはひとつ。もっと詳しく教えてくれよ!
 敵って何、何で戦ったのって、シンくんの腕を引っ張りながら聞いたけど、お前兄貴のこと好きな〜ってあしらわれた。全然教えてくれる気ないじゃん、兄貴も、シンくんも。
 でもただ、近くで二人を見ててなんとなく思うことはある。二人とも、他人よりは近いところにお互いを置いてるんだなって。武器のことにしか興味のない兄貴も、身内には甘いくせに他人にはドライなシンくんも、まるでそれが当たり前と言わんばかりに、隣にお互いがいる。空から雨が降るように、時間が経てばお腹が空くように、二人にとってはそれが当たり前で日常みたいだった。
 一度、兄貴とシンくんがこっそりと手を繋いでいるのを見たことがある。冬の夜、雪のチラつくJCCの端っこのベンチで、二人は拳ひとつ分だけ距離を空けて座っていた。
 俺はその日、なんでそんなところを歩いてたんだっけ。もう覚えていないけど、とにかく俺は後ろから兄貴とシンくんに話しかけようとして、でも背もたれの隙間から見えた重なった手のひらに驚いて声をかけられなかった。
 静かな夜だった。会話をするでもなく、目線を合わせるでもなく、手に触れるだけの二人の空気はいつもと違ってて、訳わかんなくなってバレないように自分の部屋に戻った。もしかしたらシンくんには思考を読まれていたかもしれないけど、その後特にシンくんから話題を振ってくることはなかった。
 だから、二人は何も言わないけど、たぶんアレは恋人の密会ってやつなんだと思う。普通に言えば良いのに。俺別に驚かないし。兄貴とシンくんってなんかしっくりくるから、何がどうなって付き合うことになったのかは分からないけど、二人が肩を並べて過ごしてるのは全然違和感ないんだ。
 そんなふうに思ってたら、今度は二人が口をきかなくなった。いつのまにか隣だった距離が離れてて、シンくんが俺といる時は兄貴は寄ってこないし、兄貴が俺といる時はシンくんは寄ってこない。姿が見えるだけで逃げるようにどっかに行くんだ。付き合ってんじゃなかったの? って思ったけど、なんとなく聞きづらくて結局何も言えなかった。
 聞けない間にまた二人は普通に話すようになってた。まじで意味分かんねー。気遣ってお互いの話しないようにしてたんだけど。そんな俺の努力なんて知らないみたいに、兄貴とシンくんはいつも通りだった。
 それからしばらく経った夏の夜、じっとりと汗ばむ空気のJCCの端っこで、また二人が座っているのを見かけた。ちょっと講義棟から離れたところにあるからって使いすぎじゃね? って思いながらなんとなく眺めていると、なんか変な感じがして、すぐにそれが二人の距離感だと分かった。拳ひとつ分空いていた肩が、今はピッタリとくっついていた。
 ああ、なんだ、そっか。やっぱり付き合ってんじゃん、兄貴とシンくん。なんで言ってくれないんだろう。水臭いよな、反対されると思ってんのかな。俺はずっと二人のこと見てきてんのに。まあ別にいーぜ。隠したいなら隠せばいいし、俺は大人だから気づいてないフリしてやるよ。
 これは友だちの話なんだけどって相談もいくらでも受けてやるし、あいつ最近俺のことなんか言ってたっていう兄貴のリサーチにも、何も言わずに付き合ってやるよ。兄貴のことなら弟だから大体分かるし、シンくんは友だちだからなんでも聞けるし。まあ文句は言うかもだけど。
 兄貴とシンくんは不思議な関係で、だけどぴったりしっくりくるパズルみたいな関係でもある。俺はそれを近くで見るくらいしかできないし、それ以上なにかする気もないけど、いつか二人が打ち明けてきたタイミングで言ってやるんだ。

「二人が付き合ってんの、俺とっくの昔から知ってんだからな」って。