kanaco
2026-01-28 23:13:18
5299文字
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【龍信】哥哥の部屋から出られません!

《龍信》成立済の龍信。信一が恋人に抱いて欲しすぎて、龍捲風を寝室に閉じ込めてみるおはなし。

「あなたのことが好き」

そう、龍捲風の養い子は真っすぐな瞳をして養父に告げた。

あらゆる感情の全てを受け入れたように落ち着きを払う。柔らかい表情のまま、穏やかな声音にのせた告白。

きっと長いこと抱えて、悩んで悩んで、そうして辿りついた、もう揺るぐことのない答えだったのだろうと龍捲風は悟った。彼の自慢の子供は聡いのだ。龍親子の関係を根底から揺るがすような発言を、半端な覚悟でするわけはない。

それに。

何を言われずとも、信一の恋心はずっと前から龍捲風に伝わっていた。思春期を超えた辺りからの、熱視線と心の揺らぎ。気持ちの不安定さに影響される信一の態度はいつも素直であったが、いつしか信一と同じ感情を抱いていた龍捲風の方は片時も態度を表に示さなかった。少なくとも龍捲風はそう自負していた。若い信一の想いと老いた自分の想いについて、どのように振舞うのが大人として、親として正しいかについて考えた結論なのだ。

我が子のように育てた信一の輝かしい未来。
それを自分が縛ってしまうのは、違う。


「兄貴のことが好きです」


龍捲風が何も答えないので、信一は丁寧に繰り返した。焦ってはいない、動揺してもいない。凛とした響きの音を持って、やはりひたむきな瞳をしていた。だから龍捲風も決して視線を逸らさずに、自分の答えを正直に告げたのだ。

信一の気持ちは最初から知っていた。
だから龍捲風の考えも最初と変わらなかった。

信一は悲しそうな色を瞳に滲ませた。それでもじわっと潤んだそこから涙をこぼしはしなかった。取り乱すこともない。その代わり、龍捲風に向かって優しそうに微笑むのみだ。

その表情の、儚げなのにしなやかで、なんと美しいことか。

思わず息を飲んだ龍捲風が心を砕かれる。
さらに追い打ちをかけるように、信一は返事を連ねた。

「俺ね、哥哥のことに関してはあんまり強くないんだよ」

「でも何もしないまま後悔するなんて嫌だから、傷ついても良いって思ってる」

「だからね、哥哥。俺は諦めないよ」


まるで脅しのような殺し文句だ。
龍捲風が藍信一を傷つけて良いはずがない。


それに信一の表情には「俺もね、知ってるんだよ。哥哥も俺のことが好きだってこと」という確信がありありと浮かび上がっていた。嫌われているのではない。その上で、自分の告白が受け入れてもらえない。でも気持ちが同じであるならば、俺は絶対に諦めたりしないのだ、と。

龍捲風にとって信一のこのような純真さと無垢さはいつだって眩しい。気持ちに正直に振舞う若さや、向こう見ずな大胆さも愛おしかった。信一は黒社会に染まった自分の手によって黒社会に塗れて育ったというのに、生きていくための強かさや狡さを覚えながらも、どこか擦れていないところがある。その危うさは信一の心配な部分でもあるが、魅力でもあった。

信一を愛している。

それが親心であるのか、父性を超えた愛情であるのかについて議論の余地はなかった。信一が龍捲風の気持ちを知っているといことは、情欲や嫉妬、独占欲はとっくに表面上に出ていたことになる。信一は機微であっても上手に汲み取るのだ。慈愛だけではない、激しい情愛が伝わっていたのは紛れもない事実だった。

信一からの猛烈なアタックが始まって、それほど時間を待たずに『親子』から『恋人』になった時の信一の顔を、龍捲風は忘れることはないだろう。

嬉しそうに顔を綻ばせて、でもホッとしたように目からポロポロと涙を流した信一は、力が抜けて崩れた体を龍捲風に受け止めてもらうとしがみついた。


大好き、ありがとう、嬉しい、良かった。


そう繰り返す信一の愛らしさといじらしさに、龍捲風が信一に対していっそうの庇護欲を刺激されたのは無理もなかった。若者からの愛の告白は、懸命に冷静を装っていただけで、壊れそうなほど繊細な心をいつだって奮い立たせていたのだ。龍捲風は信一をしっかりと抱きしめて、この心に必ず報いて大切にすると誓った。

ただしその庇護欲に引っ張られて、確かに奥手な立ち回りになったというのは龍捲風にも自覚はあった。

かくして、つきあい始めて2週間を過ぎたある日の夜。

何の説明もなしに信一にグイグイと腕を引かれ、自分の寝室に押し込まれた龍捲風は、目をパチクリとさせながら信一の成すがままにベッドに座り込んだ。

就寝するには少し早い時間だ。こんな時間に健康的な恋人同士が寝室に入っていくなど、やろうとしていることは1つであろうが。

龍捲風と信一はハグやキスはしていたが、本番はまだしたことがなかった。避けていたわけではない。龍捲風もいつかはするつもりであったのだが、ただどうしても愛しい子を愛でようとすると父性が顔を出してきて、穏やかな愛撫のみで終わってしまうばかりだった。それにキスをすれば嬉しそうにしながらも顔を真っ赤にしてうつむいてしまう、信一のウブさも龍捲風を穏やかにさせた。幸福であるのは変らないため悠長になったのだ。

(でもまぁ確かに、信一は若いからな)

年を重ねた自分など性欲も緩やかなものだが、瑞々しい肉体と精神を持つ信一はそうも言っていられないだろう。若いと言うのはそれだけでも素晴らしい、という年寄り染みた感心をしていれば、その様子を見た信一がむぅ、と顔を顰めて口を一文字に結んだ。子供染みた表情にホッコリして龍捲風が小さく笑えば、ますます不満そうな顔をする。

どうやら信一は誘おうとしているようだ。しかし幼く見えてしまい、子供を見守るような目線を送ってしまう。それこそ信一がもどかしく思うところであろうも。

(どうするのだろう)と龍捲風が信一の様子を見ていると、信一はとにかく困っている様子だった。視線がキョロキョロと安定しない。

「信一?」
声をかけてやると、形の良い瞳が龍捲風の方を見る。
「どうした、哥哥と一緒に寝るか?」

とぼけたフリをして「ン?」と伺うと、信一の頬がほんのり赤くなって目がつり上がった。てっきり自分の元へとダイブしてくると考えていた龍捲風は、信一がそのままジリジリと後退して背中をドアをピタリと張りつけたのをキョトン、とした顔で見つめた。

ん????

「信一、何してるんだ?」
「こ、ここは」

何やら篭った声を出す信一が、真っ赤な顔をしながらも背をドアに圧しつけて言った。

「えっちしないと出られない部屋です」
「は?」

普通に冒頭を聞き逃して龍捲風は疑問を返した。すると信一はますます真っ赤になって早口で捲し立てた。

「兄貴は俺にエッチなことしないとこの部屋から出られません」

ポカン、とした龍捲風は素直に「なんだそれは」と口に出す。

「どういう?」
「きゅ、九龍城砦の不思議な力でドアが開かなくなった」
「鍵が?」
「鍵とかじゃなくて、開かねぇの」
……ドアを調べようか?」
「そういうことじゃない、全然そうじゃない」
「部屋から出るには?」
……お、俺とえっちする

無理があり過ぎる設定がとうとう恥ずかしくなったのか、唐突に元気を失くして語尾が小さくなっていく。

龍捲風は深刻な表情を保ったまま、厳かに言った。

「かわいい」

「なんか違うっ」

信一がキャンッと子犬のように吠えた。

「信一、こっちに来なさい。何をするにしてもドアの前にいたら始まらないだろう」
「嫌だ。布団入ったらマッタリして気がつけば寝てるのがオチじゃん。それにどいたら部屋から逃げるかもしれないだろ」
「ドアが開かないのに?」
「そうだよ、開かないんだ。だから俺を抱かなきゃだめ。でも抱いて寝るのは違う」
「さすがにこの状況でそれはないと思うが
「いんや、あるね!哥哥は俺のことを抱きしめると恋人の俺より、子供の俺の方が勝っちゃうんだ」
「それはお前がずっと幼気だからこう、高度な感情が」
「ちょっと!俺が悪いっての!?」
「悪いのではなく可愛いと言ってる。それにしても信用も足りないようだな」
「そんなことないけど、言い方がズルぃよ哥哥」

やっぱり幼げな風に拗ねた恋人の顔を見て「ふむ」と龍捲風は考えた。まだ手を出さない、という行為は信一をジリジリと傷つけていたらしい。恋人としてのスキンシップが始まって嬉しそうにしながらも、より深い繋がりと目に分かりやすい愛情を信一は求めていた。龍捲風はフッと楽し気に息をつくと、瞳にも愉快そうな色を滲ませて信一を見た。

「抱いて欲しい、と言うのにベッドは嫌だ、というのは初夜にしては変化球だな」
「しょ、初夜
「こんなことをして、とんでもない煽り方をしている自覚はあるのか?」

龍捲風が扉の方に歩いて行って信一の目の前に立つと、青年は気圧されたように後ずさろうとした。しかし当然後ろに空間はなく、ドアに背を擦りつけただけだった。龍捲風が右手のひらで頬を撫でてやると、今度は懐いたように信一も頬を擦りつけてくる。すぐに蕩けるような表情になったのは、信一が行為を待ち焦がれていた証拠だろう。

顎の方へ手を滑らせると、親指の爪を愛し子の下唇にそっと置いてやる。信一が薄く唇を開いて、龍捲風の瞳を物欲しげに見つめた。

「信仔」
「うん」
「いいんだな」
「俺、嫌だなんて言ったこと一回もないよ」
「そうだな」
「拒否したことなんてなかったでしょ。恥ずかしがったことはあるかもだけど」
「お前の愛らしい声でも聞きたい」
「哥哥、俺のこと愛してるなら抱いて」
「愛しているとも」
「哥哥のために何でもしてあげたい」
「何でも?」
「俺のこと哥哥の好きなようにしていいの」


もう、子供じゃないよ。


信一は嬉しそうに言うので、龍捲風は頷いた。

龍捲風は右手で信一の左肩を抱き、左手は信一の後ろへと回した。肩甲骨を腕で押すようにしてぐっと信一を抱きこめば体が密着する。背後に回した方の手を信一の左側の首まで伸ばし添えると、顎の下へと指を差し込んで上を向かせる。水分を豊富に含んで惚けている瞳と目が合えば、お互いの視線は蕩け合っていくようだった。そっと唇を奪えば信一が小さく「んっ」と声を漏らし、目をギュっとつむった。

「信一、舌を出しなさい」
「あは、い」
「そう、良い子だ」

開いた口から従順に差し出された舌先。その赤い舌に自分のものを合わせて這わせ、吸い、絡めれば、その度に信一の体はプルプルと小刻みに震えた。それでも言いつけを守って一所懸命に舌をのばす。褒めるように丹念に愛撫をしてやれば、どちらのものかも分からぬ唾液が信一の口の端から滴り落ちて、それは一筋となって龍捲風の指先にすらゆっくりと流れ落ちた。

「んふぁ」

信一の舌を巻きこむように、今度は口内を犯せば鼻から息が漏れた。信一の両手が縋りつくように龍捲風のシャツを掴む。胸の辺りの布生地がずるずると下に引っ張られるのを悟って、龍捲風は肩を抱いていた腕を腰の方へと動かした。

「ごぉ……

龍捲風を呼ぶ声は、開いたその瞳と同じくらい甘さをたっぷりと含んでいた。信一の唇から口を離して耳元へ持って行き、クチュリと音を立てて耳を舐めあげる。ついでに膝を足の間に差し込んで、緩やかに立ち上がり始めた信一の中心をグリッと押す。喉を美しくのぞけらした信一が、体をビクンと面白いくらいに跳ね上げる。

龍捲風はかまわずに耳に囁いた。

「信一、ベッドに行こう」
…………
「こんなに可愛らしくて色っぽいお前を残して、部屋からいなくなると?」
………
「それにほら、哥哥もこれでは外には出られないよ」

双方の胸の間で縮こまっている信一の右手を掴み、龍捲風が自分の体の中心へと連れていく。明らかに反応をしているそこを信一に握らせれば、今度は耳まで真っ赤にした信一が胸を高鳴らせ、キラキラと目を輝かせた。

「セックスしないと、外に出られない部屋なのだろう?」

お前の言うことは正しい。セックスをしないと、とてもではないが出られない。なら、ドアの前にいたって仕方がないだろう。

「あちらのベッドの方が柔らかいし、お前の体に無理をさせない。俺に抱かれて乱れるお前の色々な表情を早く見せてくれ」

コクコクと信一が必死で頷く。

クスリと笑って龍捲風は信一の背中と膝裏に腕を通すと、そのまま自分の胸へと引き寄せるようにして抱き上げた。「わっ」と驚いた声を出した信一が、持ち上げられるのと同時に龍捲風の首へと両腕を回してしがみつく。体勢が安定したのを確かめると、龍捲風はベッドの方へスタスタと一直線に歩いた。

「ひぃっ、兄貴メロい」
「出られない部屋だかメロだか、最近の若者の言葉はよく分からんな」

そうぼやきつつ龍捲風は、この後に本当に2日ほど部屋から出られなくなることを知らない、無邪気で可愛い恋人を心おきなく食べつくそうと、実に紳士かつ丁寧な振る舞いでベッドへとおろしたのだった。