機械が得意そうなフリンズさんと仕事する話

※ほよふぇあ2025「境界越え彼方へ至る」KVイラストのフリンズさんから着想したパロディです。

「今回の任務は、キミたち二人でお願いね」
「ボスまじで言ってる……?」
「おや、僕では何かご不満ですか?」

 ボスの夢見月さんに呼び出されて向かうと、部屋にはボスの他にも先客が居た。いっつも見上げないと顔も見えない、フリンズさんだ。次の任務の説明とは聞いてたけど……まさかね?
 いや、そのまさかだったわ。ろくに話したことすらない相手と、ペアを組まされるとは……今回私は無事に帰れるのかな。

「とある会社からの依頼で、ライバル会社のデータを入手してもらう――と言う任務内容よ。そこで今回は、フリンズさんの能力があれば侵入が容易になると判断したの」
「僕は、そう言った潜入任務が得意なので」
 夢見月さんの言葉に続くように、微笑みを携えて説明追加してくるフリンズさんを横目で見る。彼は手を後ろで組んだまま私の方に体を傾けて覗き込んでくるし、口元は大きなマスクで見えないままだが、なんだか自慢気に見えた。
「でも彼には、その……欠点があるの……
「僕は、そう言った機械を扱うのが苦手なので」
「こんなに機械得意そうな見た目なのに⁈」
……ふふ、貴女にはそう見えましたか」
 しまった、思わずノリツッコミしてしまったし、一瞬だけしおらしくなったように見えたフリンズさんだったが、すぐに元に戻って、目元を三日月の形にして彼は笑う。
 いやだってこの見た目で、ねぇ?
 
「そう言うわけで、今回は貴女が呼ばれているのよ。こういうの得意でしょう? 受けてくれますか」
 ボスが手を差し出しながら私に問う。拒否権なんて有ってないような状況だと思うんだけどね……
……断る理由はありません。事前に提示された報酬で、今回も受けます」
「そうですか。ありがとうございます」
「いや、フリンズさんには言ってないから」
……おや?」
 そんなやり取りを見ていたボスが「……キミたちは、仲が良いねぇ」とクスクス笑うものだから、「そのようですね」と彼は言うし、「いいえ全く」と私は否定しておいた。


 ***


 さて、目標の施設には難なく到着できたけれど、この建物への侵入はどうするのだろうか。フリンズさんは「そこは僕にお任せを」とか言ってたし、ボスも彼頼みっぽい気がした。
「そこに、ちょうど良い窓がありますね。そのまま少しお待ち下さいね」
 そう言って彼は、おもむろに足元につけていた試験管ランプ――青い炎が揺らめいている――を取り外した。何をするのかと見ていると、どこからともなく取り出したコンパスのような道具で、ギリギリ手が届くガラス窓に手のひらほどの穴をくり抜いた。その穴に試験管をひょいっと投げ込むと、フッと炎に揺らめいて彼の姿が消える。
 ――な、なにごと⁈
「はい、お待たせしました。お迎えに上がりましたよ」
……ぇえ⁈」
 声がしたので後ろを振り向くと、すぐそこの扉からフリンズさんが出てきた。……どう言う事? ってかその前に!! 手元の端末をタタタッと操作して今開けた扉のセキュリティをオフにした。あぁー焦った!
……フリンズさん、その扉開けてから数分でキー入力しないと警備来るんですよ! 今オフにしましたけど……
「ふむ、そんなハイテクなんですか。――貴女は優秀なのですねぇ」
「えぇはい、そうなんです結構優秀なんです……だから、次は何かする前に事前に教えてくださいね⁈」
「ふふ、分かりました。貴女のご随意のままに」
 恭しくお辞儀する彼はとても絵になりそうではあるのだが、行動開始してしまった今はそれどころではない。なんでそんな余裕そうなんだ⁈

 フリンズさんに開けてもらった扉から侵入し、目的の部屋へ急ぐ。途中で遭遇したフォンテーヌ製の警備ロボは、フリンズさんが服裏から取り出した投げナイフでコード等を切断して無効化してくれるので、都度わたしが自動警報装置をオフにしていく。これは、なんだか――
「僕たち、良いコンビなのでは?」
 フリンズさんが得意げに笑いながら、そう言った。私も丁度思ったところではあったが、肯定するのは何だか癪なのでノーコメントということにした。すると「無視されるのは寂しいですねぇ」とか早歩きしながら芝居じみた反応でしょんぼりしている。ちなみに私も早歩きしているのだが、私だけ息が上がっていて喋る余裕がなく、疲労感も桁違いだ。なんなんだあの足の長さ、ずるいでしょ!
 
 ようやく目的の部屋に到着し、手近な端末に接続して早速ハッキング作業を開始する。フリンズさんは途端に暇そうにしており、私の手元の端末を覗き込んだり、部屋を歩き回るだけだ。……本当に機械が苦手なんだろうなぁ。
「貴女はお若いのに、素晴らしい技術ですね」
「そりゃどーも!ちょっと今話しかけないでくれますか⁈」
「ふむ、こわいですねぇ。えぇ、貴方もそう思うでしょう?」
 誰に話しかけてるのかと横目で見たら、フリンズさんの手元には小型ロボットのような人形があり、ロボット相手に会話していた。なにそれ可愛い、どこで拾ったの?

 ――――ピー!ピー!ピー!
「見つかってしまったようですね」
――なんで⁈ 全部回避してたはず……え゙……
 セキュリティシステム監視用の端末を見ると、この部屋から警報が出ている。
「フリンズさん、なんかボタンとか押しました……?」
「押したつもりはないですが……あ、押してましたね」
フリンズさんの手元のロボット人形から明らかにおかしい赤ランプが、点灯している⁈
「そんなのどこで拾って来たんですか! 元の場所に返してらっしゃい!」
「そんな、犬猫のように言わないでください」
 ため息を一つ吐いてから「とりあえずは、」と言いながらバキっと音を立てて人形を粉々にするフリンズさん。それを床に投げ捨ててから、手をパンパンと払う仕草をする。
「さて、あと何分ですか?」
「二分!!」
「分かりました」
 そう言って彼はゆっくりとした足取りで部屋から出て行く。途端に機械系が壊れる凄い音が聞こえるが、私は私の仕事に集中することにした。

――よっし、終わり!!」
 データと端末を回収し、痕跡を消去してから急いで部屋から出る。すると、「終わりましたか、丁度よかったです」とフリンズさんが私の方を振り返る。さらに先の彼の後ろに目線を向けると、壊れた警備ロボットの山が見えて、血の気が引いた。……なにあれ?
「ほら、急いで逃げますよっ」
「うひゃあ!」
 彼はそう言うと、私をさっと横抱きにして走り出した。は、早すぎて怖いー!! 抱えた端末を落とさないことだけに集中して、フリンズさんにしがみ付いた。


 ***


 先程まで居た施設を見下ろす丘に到着すると、ようやく彼は私を下ろしてくれた。
「なかなか楽しい仕事でしたねぇ」
「そ、そうですか……
 そのまま私はペタンと床に座り込み、抱え込んでいた端末を少し操作する。データを暗号化して、ボスに送信……っと。そのすぐ後にボスからもメッセージが届いた。
「あ、無事にデータ受け取れたそうですよ。このまま解散で良いそうです」
「そうですか、それは都合が良い」
……なんの、都合?」
 
 座り込む私に対して、彼は片膝を付いて目線を合わせてくる。フリンズさんは口元の大きなマスクを外し、ニコリと笑って私に手のひらを上に向けてを差し出す。
「丁度探してたんですよ。僕とコンビを組みませんか?」
 その笑顔がとても美しく、姿勢も相まって、まるでお伽話の王子様のようだった。
「一応、理由を聞いても……?」
 ようやく出せた私の声は少し震えていた。動揺しているのが丸わかりである。
「ふふ、貴女と居ると楽しそうだからです、ね」
「そんな理由……ですか……
「おや、いけませんか?」
 どうしようか考えつつも、すでに自分の心はほぼ決まっていた。でもそのまま声に出すのは癪だったので、「美味しいご飯を食べてから、決めましょうか……」と、少しだけ先延ばしすることにした。
 手を差し伸べたまま戻さない彼の手を、私は仕方なく取ることにした。


「そういえば、炎に溶けるマジック? あれどうやってるんですか」
「マジック、ですか。――ふふ、それはまだ秘密です」



『僕は機械を壊す方が得意、なんですよね』