まきわ
2026-01-28 20:37:05
9270文字
Public クロリン
 

夜行列車

夜行列車に乗る付き合ってるクロリンです(?
ゼムリアというか帝国には夜行列車が無い想定です。多分無いはず、じゃなきゃデアフリンガーが走れない
何が書きたかったかよくわからんが自己は満足した

「夜行列車ですか?」
自分の言葉を繰り返したリィンに、クレア・リーヴェルトは丁寧に頷いて返した。
「ご存じの通り夜間は列車の運行を休止しています。ですがその空いている時間を使って途中駅に止まらない長距離列車の運行をしてみようという試みがありまして。どちらかというと移動を目的としたというよりは、列車での移動を楽しんでもらう目的で」
それは素敵な計画だと思いますが鉄道憲兵隊がそんな仕事までするんですか?」
正直いささかイメージが違ったのでリィンが首を傾げると、クレアは眉を下げて苦笑した。
「治安維持や警備については正規軍と協同で行うことになりましたから、そこまで忙しくはないんです。ですので新しい試みも取り入れていこうかと」
以前鉄道憲兵隊は鉄血宰相の元権勢をふるっていた。
だがヨルムンガンド戦役の責全てを負う形となった鉄血一派からはかなりの役割が取り上げられたと聞いていた。
とはいえその分、クレアがこういった人々の楽しみの為の試みに頭と労力を使えるのは計画の内容と同じくらい素敵なことだとリィンは思った。
リィンが納得したのを確認してクレアは持っていた資料に目を落として先を続けた。
「その為の車両がこの度完成しましたので試験走行を行うことになったんです。その際一般客が一切いないのでは乗り心地の確認ができませんので、それをリィンさんにお願いできればと思いまして」
「ままま待ってください!」
途中まで頷きながら聞いていたリィンは自分の名前が出るに至って慌てて身を乗り出した。
「どうしてそこで俺が?」
クレアはもう一度苦笑を浮かべると資料をリィンとの間にあるテーブルに置いた。
「まだ計画を確実に実行に移せるか確証がないのです。その状態で一般からテスターを募るのは難しくそれならリィンさんにお願いしてみてはとオリヴァルト皇子殿下が仰られまして」
「殿下
頭を抱えながらむしろご自身が生まれたばかりの家族と共に楽しんではと思ったが、さすがにまだ生まれて一年も経たない赤ん坊を連れて試験走行には臨めないのだろう。
「少し変わった内容にはなりますが、要請の一種と捉えていただければ」
とりなすようにクレアが言った言葉に顔を上げる。
かつて心を凍らせるような響きを持っていた『要請』という言葉はクレアの優しい声で紡がれると印象が違って聞こえる。
かといって別にレクターが悪いわけではないのだが。
ですが夜行列車で長距離となると翌日の授業には間に合いませんし、休みを取らないと
「一応到着駅はオルディスを予定しています。リィンさんの業務についてはオーレリア将軍分校長とトワ主任教官に了解を得ています」
その言葉に思わずリィンは普段向けないジト目をクレアに向けた。
なんだか異様に手回しがよくないですか」
「そ、そうでしょうか。あ、イサラには間に入ってもらいましたが。お礼に今度食事を一緒にしてほしいと頼まれたんですが、彼女にとって私との食事はお礼になるんでしょうか?」
クレアは頬に手を当てて首を傾げているが、そういえば数日前からイサラ教官がやたらにご機嫌だった気がする。
イサラ教官はかなりクレアを慕っているようなのだが、これまでの経緯もあってクレアはそれをわかっていないようだ。
リィンは一つため息をつくと困惑したままのクレアに微笑んだ。
「仕事の折り合いがつくのであれば俺は構いません。良いテスターになれるかわかりませんが、引き受けさせていただきます」
クレアはほっとしたように頬を緩めて頷いた。
「では詳細は別途メールでご連絡いたします。当日私は顔を出せませんが、よろしくお願いしますね」

その後トワに確認したところしっかり列車の試験走行に合わせてリィンの休みが予定されており、「心配しなくて大丈夫だからねっ」という先輩教官の心強い言葉と満面の笑顔にリィンは送り出された。
(皆して俺に休ませたがるけどトワ先輩だって大概だと思うんだけどな
指定された日の夜。最低限の荷物を持って駅に向かいながらリィンは小さくため息をついた。
だがそれを言うと「トワは私が定期的に休ませてるから大丈夫なんだよ」とアンゼリカが言う。
誰よりもトワを知る親友にそう言われてはリィンには反論の余地はない。
「それにしても、感想のレポートも出さなくていいなんて本当にただの旅行だなぁ」
いいんだろうか、と思いながら夜更けの駅舎の扉を引いた。
普段であれば施錠されている時間帯だけあって駅舎の中はひっそりとしていた。
妖精達が「今は私たちの時間なのよ」と主張しているような不思議な気配が隅の方から漂っていて、物音をたてるのも憚られるような空気がある。
思いもよらずリィンは心臓が高鳴ってくるのを感じた。
「こんばんは」
独特の空気に胸を高鳴らせていると駅員が声をかけてきた。
その声もなんだか少しひそめられていたので、もしかしたら同じことを感じているのかもしれない。
こんばんは。こんな時間に駅に来ることがないのでちょっとわくわくしちゃいますね」
「ふふ、わかります。ここはそんなに人が乗り降りする駅じゃないですけど、それでも普段より静かで」
「ですね。遅くにご迷惑をおかけします」
リィンが軽く頭を下げると、駅員は彼を改札の中に導きながら微笑んだ。
「いえいえ。実を言うと今回の計画にはちょっと期待しているんです。うまくいったら子供達を乗せてあげられたら、なんて」
「ああ
この街の人だから、彼女には二人の子供がいるのを知っている。
夜の列車なんて子供は大喜びするだろうし、それを想ったらリィンはぜひともこの計画には上手く行ってほしいと願った。
「この辺りでお待ちください。多分もうすぐ
彼女が言いかけたところで列車の進入を告げるアナウンスが流れた。
そしてごおおおっと列車の近づいてくる気配がした。
「あっ……
滑り込んできた列車は新型らしくつやつやしていて、夜空色の車体をしていた。
大きな車窓の向こうはカーテンで覆われていたけれどオレンジ色の優しい光が漏れて見える。
列車はゆっくりと止まるとリィンの目の前で扉が開いた。
「いってらっしゃいませ」
駅員が車内を手で示す。
ありがとうございます、いってきます」
リィンは会釈すると車内に踏み込んだ。

車内はほんのりと緩い明かりで照らされていてゆったりとした気分で過ごせそうだった。
リィンはまず前側の車両に目を向けた。
「わ……
新型とはいえ普段走行しているものと同じような車両を想像していたリィンはホテルのラウンジのような車内を見て思わず声をあげた。
壁の上半面のほとんどが一つの窓になっていて、外を眺められるように柔らかそうな座席が左右に並んでいる。
ここに座れば流れていく景色をゆっくり楽しみながらお喋りができそうだ。
リィンは心が湧きたっていくのを感じながら今度は後ろ側の車両に入ってみた。
そこは壁で簡単に仕切られた個室エリアのようだった。
「すごいな
確かにこれは移動を目的としたというよりは、列車の移動自体を楽しめる、これ自体が旅の思い出になりそうな列車だった。
もっといろんなところ見てみようと足を踏み出した瞬間その車両の中ほどにふっと気配が生じた。
明らかに消していたものを現したような。
反射的にリィンの手が腰の太刀へ動く。
警戒していると気配が動いて、中ほどの個室から人影が現れた。
「よっ」
「っクロウっ?!」
リィンはほとんど反射的に太刀の柄に置いていた手を伸ばして人影に駆け寄り、そうしないと逃げてしまうとでもいうようにクロウの腰辺りを掴んだ。
「どうして?!」
「手前から乗ってたんだよ。試験走行に招待されてな」
「クレア少佐がクロウを?」
「いやオレはオリヴァルト皇子から連絡が来たな。まぁ妙な根回しの良さからして作為的なものを感じるがなぁ?」
それはまぁ」
リィンは苦笑しつつ頬を掻いてから、優しく見下ろすクロウの顔を見つめた。
うまくはめられた気はするけど会えて嬉しいよクロウ」
更に距離を詰めて抱き着くとクロウはそっとリィンの背に腕を回して抱き返した。
「オレも」
二人はしばしそのままお互いの体温に浸るように抱き締め合っていた。
車内には最低限しか人を配置していないようで静まり返っている。
だからどちらからともなく体を離した時の衣擦れの音までしっかりと聞こえるようだった。
「せっかくだし全部見て回らねぇか?一応ざっと確認したが通り抜けただけだしな」
「うん、そうだな。ここだけでなんだか感心しっぱなしなんだが」
「ふふん、こんなもんじゃねぇぜ?」
なぜか得意げなクロウの後について列車の進行方向の車両に進んでいく。
防犯の為か運転席には客席から入れないようになっていたので一番前は食堂車だった。
テーブル席がいくつか並んでいる他、カウンターもある。
そこにはコックと給仕係が一人ずついたので簡単に挨拶して隣の車両へ移る。
隣が先ほどリィンが見たラウンジ席だった。
景色を見ながらくつろげるエリアで、食堂車から飲み物を頼むこともできるらしい。
次がクロウの潜んでいた車両で、二級個室車両というらしい。
壁で仕切られ、引き戸がついた中に部屋の半分を埋めるベッドと壁に簡単な机が据え付けられている。
狭苦しくはあるものの、秘密基地のような雰囲気もあってリィンは嫌いではないと感じた。
「一晩なら十分これで過ごせそうだな」
「だな。ベッドも悪くないぜ。ただ壁がそんなしっかりしてねぇから話し声とかは結構聞こえちまうかもなぁ」
「それは確かに。広さを考えても一人旅の人が使いやすそうだな」
更に後ろに向かうと一級個室車両だった。
二級よりもしっかりとした壁で区切られていて扉の作りもしっかりしている。
部屋数が少ない分ベッドのほかに小さなテーブルと椅子があってゆったりと過ごせそうだ。
こっちならそんなに声が響かないのかな」
「試してみるか?オレが隣で喋ってみるからここで聞いててみろよ」
「わかった」
ちょっとした実験にわくわくしつつリィンはベッドに腰を下ろしてクロウの気配が隣室へ移動するのを感じていた。
耳を澄ませてじっとしていたが何も起こらないと思っているとリィンのARCUSがメールの着信を知らせる音をたてた。
開くとクロウからだった。
『今普通に話す感じで喋ってみたが聞こえたか?』
『いや全然聞こえなかった。すごいな。これなら会話する分には問題なさそうだ』
『んじゃちょっとでかい声出してみるか』
そのメールが着信した後隣から「がっはっはっは」というわざとらしい笑い声がかすかに聞こえてきてリィンは小さく吹き出してしまった。
『聞こえた。でもちょっとだけだから眠っていたら気付かないかもしれないな』
『お前もなんか叫んでみろよ』
リィンは少し考えこんだ後、口の横に手を当てて隣室に向けて声を張った。
「クロウのお調子者ー!」
すぐにメールが返ってくる。
『聞こえてんぞー』
リィンはくすくすと笑った後、ふと悪戯を思いついた子供の顔をしてもう一度口元に手を当てた。
……クロウの浮気者ー!」
するとどたどたと扉を開けて駆けてくる音がしてクロウがリィンのいる部屋に飛び込んできた。
「してねぇし!?え、ていうか何、そういう話あんの!?」
あまりの慌てぶりにリィンは悪いと思いながらもくすくす笑いながらクロウの頭に手を伸ばした。
「ないよ、ごめんごめん。そんなに慌てると思わなかった。逆に怪しいかな?」
「おまっ
クロウは眉を吊り上げた後、ベッドに座っているリィンの肩を押してそこに押し倒した。
「うわっ」
覆いかぶさってきたクロウの真顔を見上げて、リィンは頬が熱くなるのを感じた。
クロウが愛用している香水の香りがして、どうしてこの体勢から見上げるクロウの顔は余計にどきどきするのだろうと考えた。
「リィン」
「う、うん」
「いいか。オレはな」
うん」
「わざわざ付き合った上で浮気するなんつーメンドイ真似はしねぇ」
………そうだろうとは思うけどなんか腹立つな」
リィンは仕返しにクロウの鼻をきゅっとつまんでやった。
おどけて「いてて」と言った後クロウはリィンの腕を引いて立ち上がらせた。
「ほら次行くぞ。まだ本丸が控えてんだから」
「本丸?」
クロウは意味ありげに微笑むと先に立って進んでいってしまった。
追いかけて行った先の車両はシャワールームとお手洗いのある車両のようだった。
シャワーは列車に搭載できる水に限界があるからか使用時間に制限があるようだ。
その隣一番後ろの車両がいわゆる『本丸』とのことだった。
「いわゆる一つのスイートルームってやつだ」
「へえ
もったいぶるクロウが恭しく扉を開く。
「うわ……
中はスイートを謳うだけあって見事な作りだった。
大きめのダブルベッドにテーブルとソファ、バーエリアまで備え付けられている。
「これは確かにすごいな」
内装も特別感のある豪奢なもので、なんだか高級ホテルにでも来たような気分だ。
「あれ、でもこの後ろに車掌室があるんだよな?どこから入るんだ?まさか入ったら着くまで出られないのか?」
「んなわけあるか、便所どうすんだよ。ほら、ベッド側は窓がねぇだろ?そっちに通路があって、前の車両に抜けられるんだよ」
「あ、なるほど
可哀想な車掌がいなくてほっとしたところでクロウに手招きされて二人はふかふかのソファに腰を下ろした。
すごいな。これならきっと乗った人達も楽しんでくれると思う」
そうか。せっかくだし酒とツマミもらってくるからくつろいでろよ。今日はここ使っていいらしいぜ?」
「え。ほんとにいいのか?」
驚いて見上げるとクロウはウィンクを返してきた。
「別にどこ使ってもいいらしいけどな。んじゃ行ってくる」
車両を出て行くクロウの背中を見送って、リィンはソファに背を預けた。
非日常感というなら十分で、向かうのがどこであってもこれだけで楽しいだろう。
それにしてもクロウ、やけに詳しかったな」
車両の構成は見て回ったにしても車掌室からの通路の事まで知っているのは意外だった。
不思議というなら自分とクロウが招待されてここに乗っているというのが既に不思議だ。
あれ」
またメール着信をARCUSが知らせている。
クロウが何か連絡してきたのかと開いてみてリィンは目を瞠った。
「オリヴァルト殿下?!」
メールを開くとそこには長文が書き連ねられていた。

『やぁリィン君、夜行列車の旅は楽しんでくれているかな?いきなりの招待で驚いた事と思う。
それに若干強引なお誘いになってしまったことは申し訳ない。
けれどこの夜行列車の理念を考えるとどうしても最初に君に乗ってほしかったんだ。
帝国は今苦境の中にある。黄昏で人々が受けた傷は簡単に癒えるものではないし、一足飛びに繁栄していく共和国を隣に見ながら不況の只中にあるのは辛い事だと思う。だからこそ少しでも多くの楽しみを帝国の皆に提供したいと僕は思ってるんだ。
その中で考えたのは列車という帝国にとっては重要な移動手段についてだ。列車路線は、誤解を恐れずに言うならオズボーン宰相がイシュメルガに憑りつかれた後支配を強めていく為に広げた言わば支配の証のようなものだ』

リィンは列車事故が元となって失脚したクロウの祖父や、路線の敷設で土地を失って家族が崩壊したスカーレットの事を思い出した。

『大切な、不可欠な移動手段ではあるけれど、同時に列車は頑迷で強硬なこれまでの帝国の姿の投影ともいえる存在じゃないかと思った。
だけど、僕はそれだけで終わらせたくない。イシュメルガの起動者となる前の『彼』と関わることはできなかったけれど、彼が帝国に、そして君達子供達へ向けた想いは決して厳しいだけのものではなかったと思っている。だから列車にも移動手段という意味以外のイメージを持たせたかった。
簡単に言うと、何か楽しい事ができないかなと思ったんだ。その時に以前トワ君から聞いたクロウ君の学院祭での大活躍を思い出してね。
様々なクラスや部活の企画にアドバイスをしていたと聞いて何か妙案がないか声をかけたんだ。その結果が今君のいる夜行列車になる』

「え……
リィンは思わず顔を上げてクロウが出て行った扉を見た。
だから、詳しかったのか」

『さすがというか、サービスも含めて色んな案を出してくれてね。スイートに関しても結局貴族優遇なんて思われないように、定期的に全国民から抽選して今回の君達のように無料招待させてもらおうなんて考えてる。色々と説得しないといけない先が多くて大変だが、まぁ初期費用のほとんどが僕達皇族のポケットマネーから出てるんだから文句は言わせないさ。そんなわけで彼の実の息子である君を一番最初に招待したかった。それからそこにいる君の大切な人の才能は誰かを傷つける為ではなく笑顔にする為にこそ発揮できるものだと思わないかい?また感想を聞かせてくれ。特別な夜を楽しんでくれたまえ』

最後は特別な夜を大切な人と過ごしているのだから返信なんて野暮なことはしないように、という皇子らしい気遣いで締められていた。
リィンは思わず胸が温かくなるような、泣きたいような気持で頬を緩めた。
あーあ、バレちまったか」
「あ」
顔を上げるといつの間にか目の前にクロウがトレーを持って立っていた。
よほどメールに集中していたらしい。
「言わないでくれっつったんだけどなー」
トレーをテーブルに置いてリィンの隣に戻ってきたクロウは少し照れくさそうに聞こえる声で言った。
「言うだろう、それは」
「言うだろうと思ってたけどなー」
クロウはぼやくように言いながらリィンの肩に寄り掛かるように頭を乗せた。
「発案者なんだから試験走行には立ち会ってくれって割と強引に話進められた時にあやしーなと思ったんだけどな。ま、作為は感じても悪意は感じねぇしいいかなって」
うん」
リィンはそのクロウの頭に擦り寄せるように自分の頭を重ねた。
「俺はさ、クロウのこういう人を楽しませる為に考えたことが好きだな。才能あると思う」
リィンは言葉だけじゃ伝わらないというようにクロウの手をそっと握った。
その手が優しく握り返される。
そうか」
「うん、誇らしいよ」
ふ、とクロウは小さく笑った。
「お前に誇ってもらえるなら冥利に尽きるってもんだな
感慨深そうに呟いてクロウは目を閉じた。
握り合った手の体温に浸りながら、前へ進もうとしている色んな人の事を、そして誰よりクロウを想う。
ただひたすらに前へそれをクロウ自身も実践してくれているのが心から嬉しかったし、それを後押ししてくれる人々がありがたかった。
その内この夜行列車、ジュライまで通してくれって言ってあんだよな」
ふとクロウが呟いたのでリィンは横目でクロウを見た。
「それはいいな」
「だろ。そしたらまた一緒に乗ってくれよ。このスイートで」
「もちろん。今から楽しみだ」
ほとんど同時に顔を上げると一瞬見つめ合って、それから唇を重ねた。
握り合った手に力がこもって唇が深く重なる。
熱が溢れ出しそうになって、どちらからともなく名残惜しげに顔を離した。
「せっかく持ってきたのに飲まないのか?」
ちらりとテーブルのワインの瓶に視線をやるとクロウはリィンの腰を抱き寄せて耳元に口を寄せた。
「まだ夜は長いしな。ゆっくりしようぜ」
「ん……
またキスをして頬を擦り寄せ合って、合間にワインを飲んだりチーズをつまんだりしながら近況を話し合った。
話しながらも傍にいると触れたくなって、触れているとキスしたくなって、結局戯れ合うような触れ合いを繰り返してからベッドに入った。
ベッドは大の男二人が寝ても充分な広さだったけれど、半分くらい使わないまま寄り添い合って眠った。
響いてくる車輪の音と緩やかな揺れが心地よく、アルコールが入っていたのもあってとても心地よい眠りだった。

窓から差し込んでくる優しい朝日で目を覚ますと、先に目覚めたらしいリィンが上半身を起こして朝日に煌めく窓からの景色を見つめていた。
綺麗だな」
クロウが目を覚ましたのを察して流れる景色を見つめたままリィンが呟く。
クロウも起き上がると背中からリィンを抱いてリィンの肩に顎を乗せた。
もう少ししたら海が見えるぜ」
「うん、楽しみだ」
寝ぼけた頭でぼんやりと二人で窓を見つめていると景色が開けて朝日に煌めく海が見えた。
きらきらと宝石のようで、それでいて清冽で爽やかだ。
やっぱ海好きだな。変わらずにそこにあって、安心するっつーか」
そっか」
リィンの腹のところで組んであるクロウの手を、リィンが優しく撫でた。
それに応えるようにクロウは抱き締める腕に少し力を込めた。
「それにお前の顔も見ると安心する。帰ってくる場所がオレにもあんだなーって思えて」
うん。嬉しいよ」
リィンが顔をこちらに向けたので、少し体を離してキスしてやる。
何度かついばむように口付けるとやはり景色は見ていたいのか満足したようにまた窓の方を向いた。
「着いたらどうするんだ?」
「オルディスにホテルとってある。荷物置いて久々だし観光でもしようぜ。列車は点検した後帝都方面に戻すみてーだから一泊して帰りは飛空艇な」
「二日間の休暇、か。お土産買って帰らないとな」
「根回しの礼にトワに変なモン買って帰ろうぜ」
にやにやしているクロウをリィンは軽く睨んだ。
「そんな変なものオルディスにないだろ
そんな軽口を言い合っているとアナウンスが流れた。

『あと一時間程度でオルディス到着の見込みです。ご乗車のお客様は降車のご準備をお願いいたします』

「っと、さすがにシャワーくらい浴びとくか」
「うん、シャワーの使い心地も確かめないといけないしな?」
揶揄うように言うとクロウは眉間に皺を寄せた。
「言っとくがシャワーの使い心地まで責任持てねーからな?」
リィンはくすくす笑いながら、なんだか今回ははしゃいでいるのか揶揄いすぎてるな、と反省した。
あわただしくシャワーを浴びて、「ドライヤーは持参だな」と呟くクロウに苦笑したり、朝食にサンドイッチをいただいたりしている内に夜の旅は終わった。
この夜行列車に込められた色んな人の想いを感じて胸が熱くなり、リィンは降車した後深く列車に頭を下げた。

そして着いた先のオルディスで観光どころか軽くトラブルに巻き込まれたりもするのだがそれはまた別のお話。