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a_msu
2026-01-28 15:43:54
8509文字
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世界はそれを、 2
董紫の続き。今度はもろにカントボーイなので注意。
前のEDへの解釈小説(シリアス)から一変して急に現パロ生まれ変わりきらきらはっぴーえんど(BL的ベター)に切り替わってます。
そして、エロはまだです。この次です。すまない。
本当は内容的に男の子でもいいかとおもっていたのですが、ここがかきたくてやっぱりかんとにしましたごめんなさい
時は流れる。遥か彼方まで。
再び目を開けた無名の前にあるのはあの時より驚く程発展した世であった。
身に着ける衣服から、口にする食事から、何もかもが変わってしまっている。
いつか、確かに死したはずの自分が今度はそういう世に産まれ落ちたのだ、と気が付いたのは物心ついてすぐの事だった。
あれは今から千年以上前。無名は混迷を極めた国に太平の世を成そうと必死に駆ける武芸者であった。太平の要という集団の一員であり、死するその日までそれを成そうと力を尽くして進み続けた。残念な事に人の寿命で天下統一を見届けることは叶わなかったが悔いなどは無かったと思う。まだ年若い後続に託し、その稀有なる眼を閉じて生を終えた。
その時の事を何もかもを覚えているとは言い難かったが、今でも過去の事は鮮明に夢に見ていた。
自分が決して止まらずに進み続けた事も、その糧になってくれた男の事も忘れてはいない。確かにそれはただの夢でも妄想でもなく自分自身の過去なのだと。
しかし正直、それがどうしたというものでもあるのも確かであった。大切な記憶ではあるがあくまで過去の思い出であって今を生きるのに関係のある事ではない。そう理解しているつもりだったが深い縁から既に再会を果たしていた朱和にはそうは見えないと言われてしまっていた。いまでも貴方はあの頃のままだと。
何故彼女にそんな忠告を受けてしまうのか。理由は単純で無名がほんの幼い頃からずっと、何かと人通りの多い場所を見つめる癖があったからだ。
積極的に探し回るわけじゃない。ただ、もしかすれば出会えるかもしれないという思いだけはいつも胸の内に持っていた。
誰と、などの問いはあまりにも簡単すぎる。
あの日どうしても離れなければならなかった人。他の誰かの糧になるのならと己の手で命を終わらせた人。
董卓。
名前も、その顔も、千年以上経った今でもはっきりと覚えていた。
自分がここにいるのならば、朱和と再会出来たのならばあの人もここにいるかもしれない。
そんな僅かな希望だけがあり続けていて、ぼんやりと人の波を眺めることが癖になった。おかげで事情を知らない知人などには無名は気がつくとすぐ呆けている愚鈍な奴だと思われている。
大人になるまでの年月の最中、彼を探そうと、思った事が無いわけではない。
しかし、なんの手掛かりもない事をどうすれば良いのかなどわからなかった。出来る事はより多くの人をこの眼に映す事。この広い国で本当にいるかもわからない人を見つけ出し、再会を果たすなどそれこそ天文学的な確率になる事は理解していた。
それでも諦め切れずにいるのは今でも胸に残る想いゆえだった。
強烈に過ぎる、記憶。
愛している。そんな煌めいた言葉を心から言えた。
好きで、好きで、大好きだという想い。
その後の人生でも決して衰える事のなかったもの。
もちろん仮に再会出来たからといって今度こそ、などと思っているわけじゃ無かった。何せつまりは生まれ変わりという存在ではあるのだ。無名自身はそれに囚われ、まるであの頃の自分が地続きにここにあるという感覚だったが相手もそうとは限らないからだ。
ただ、もし、あの人がこの世に生まれているのならば幸せに生きていて欲しいし、それを一目でいいから見たいと、それだけだった。
あの頃とはすっかり変わったこの世界で、あの人ならどう生きているだろうか。
もしここにいるのならば、会いたい。
後も先も考えず、難しい事などわからず、ただそれだけだった。
そんなどうしようもない年月に機が訪れたのは二十歳を迎えた日の事だった。世間的に見て結婚も可能になった年齢を迎えて朱和に問いかけられたのだ。
今も、今でもあの人の会いたいと思っているのかと。会って、どうしたいのだと。
腰を据えて問いかけられたのは初めての事だった。幼い頃、軽く人波を眺める理由を尋ねられた事はあった。それに一言、あの人がいるかもしれないと思って、と返した。たったそれだけのやり取りだったというのに彼女は全て理解して、ずっと気にかけてくれていたのだ。
見るに見兼ねて、いい加減そろそろ忘れろとそう言われるのかと思いながら無名は答えた。
会いたい、例えばそれがたった一目だけでも。自分を覚えていなくてもいい、抱きしめられなくてもいい、なにをどうしたいわけでもない。ただ、もし、そこにいるのなら、一目だけでもこの目に映したいだけなんだ。
切実に誠実にそう言った。
だから忘れろと言わないでくれとそう言いたいだけだった。生涯で会えなかったとしてもそれでいい。ただ心の中であの人の事を思い出す事を咎めないで欲しいと。
しかし、その願いの返答は想像を超えるものだった。
彼女が無名に手渡したのはある高級ホテルの住所だった。幼い頃より裕福とは言えない生活をしてきた自分にとって全く縁のない場所。意味が分からないでいると日付を告げられ、その日、その男はそこに現れると言った。
戸惑いと混乱。まず浮かんだのは何故それを彼女が知るのかという事だ。当然の疑問だろう。つい、そう口から溢すと何て事の無いように言った。探した。と。
人波を見つめることしかしかなった無名を差し置いて彼女はそれを探し続けていたという。職業柄、無名より圧倒的に財や力に近い所に生きていた事が功を成したと言った。半分は偶然だったと。
故に、今、無名は教えられた場所に身を潜めていた。
想像はつく。
今の世でも男はそれなりの地位に生きているのだろう。だからこそここなのだ。地位や権力がある者にしか許されないような場所であった為本当に隠れるようにしてそこにいた。煌びやかで金の気配しかしない様な人々が通り過ぎていく。あれでもない、これでもない、と遠くから眺め続けていた。
どれくらいそうしていたのだろうか。一際高級さを漂わせた車両がそこに着けられた。緊張を走らせながらホテルマンが扉を開き一人の男が現れる。
あれだ。
不思議な事に無名には一目でわかった。
大きな体躯、当たり前にあの頃と同じ出で立ちではなく髪も短めに整えられていたがそうであるという事だけがすぐにわかった。
無名の眼は色こそかつてと変わらない。しかし、もうあの時のような特殊な力はない。なのに、わかったのだ。
同じように車から下りてきた側付きの人間と何か言葉を交わしている。過ったのは、よかったという安堵の感情だった。
たった一瞬の邂逅で何が分かるわけでもないがとにかく裕福で、貧困や飢えといった余計な苦労の無い人生の中にあるという事だけは理解できた。
昔から頭の回転が速く、行動力もあって思い切りのいい男だった。だからこそあそこにあるのも当然だろう。
よかった。
朱和にそうと告げたように、だからと言って無名がここから駆けて行くことは無い。覚えているかと尋ねることもない。抱きしめられて、あの時交わしたものを確かめ合う事もしない。それでもただ満たされた想いになった。理由などない。好きな人が幸福に生きている事を喜ぶのにそんなものは必要なかった。
しかし漠然とした幸福感に満たされたせいで無名はふらりと身を潜めていた物陰から外れてしまっていた。無防備な状態で呆然とただその姿を眺めて、何故だか突然、その人が振り返った。一瞬、目が合う。合った。
咄嗟にまずいと思ったのは無名があまりにも場にそぐわない存在であったからだ。
様々な組織の重鎮が集まるような場である以上、怪しい人間は悪意が無くともそれだけで捕まる可能性がある場所なのだ。
逃げればますます怪しまれる。そう理解しながら何でもない仕草を心掛けてゆっくりと背を向けて歩いた。心配ないはずだ。本当に一瞬の事だった。
跳ねる心臓を落ち着けて余韻を味わう機会を逸しながら進んで、
「待てっ」
大声で呼びかけられたのはすぐだった。声は、無名を怪しんだ警備の人間のものではない。それは、遥か昔、確かに聞いたことのあるものだった。人は誰かを忘れるとき声から忘れると言う。しかし、忘れることが出来なかった無名にはそれが誰のものかすぐに分かった。
止まるべきか、振り返るべきか、
わからないでいながらその声が自分に対するものではないかもしれないと反応せずにいると肩を掴まれた。強制的に振り返らせられれば、らしくなく、必死な表情の人がいた。短い距離ではあるが焦って走ったのだろう。息が切れていた。
見慣れない、本当になんてらしくない。それでもそれが自分の為と思えば涙が出そうだった。
「わしがわかるか」
最初の言葉はそれだった。
ああわかる、わかる。貴方にも自分がわかるのか。
質問も返事も言葉にならず、ただこくりと頷く。
「そうか。ようやく、見つけたぞ
……
」
その一言には男がいつかの事を覚えているのだという事、そして今までの人生でそれをどう扱っていたのかが詰まっていた。正確にはわからないが二人の間の歳の差はあの頃と変わらないように思う。だとすれば彼は無名よりも倍、恐らく四十年以上探し続けてくれていたという事になるのだ。
その事に何といえば良いのか、何と声を掛ければいいのか。わからないでいると突然走り出した董卓を追ってきた様々な人物の声が後ろから迫ってきた。
何事なのか、何があったのか、どうしたのか、その方は、と。
無名の肩に手を置いたままそれを振り返った董卓は彼らにすぐに戻る、と言って払うような仕草をした。関わるなという事だろう。男の側にいるくらいの人達だ、当然にすぐにそれを理解して引き返していった。
「話をする気は、あるか」
彼らの気配が遠ざかると、らしくもなく遠慮がちに続いた言葉はそれだった。恐らくだが無名が背を向けて去ろうとした事が影響しているのだろう。様々な可能性は浮かんでいるのだろうがこの一瞬でそれを正確に理解する事は難しい。それ故の問いかけだ。
ある、当然。貴方が望んでくれるのならば。
頭には浮かぶがやはり声にはならない。ただ厭っているのだと汲み取られないために首だけは縦に振った。
***
それから無名は董卓に連れられて信じられない程に広く、贅沢な一室に通された。触れた事もない程に感触の良いソファに座らせられここで待てと。
初めは秘書と思わしき男性も一緒だったが一通り何かの用事を済ませて、適当、と言っても値段の張る菓子や茶を従業員がテーブルに配置し終えたのを見届けてから共に去っていった。
目の前で繰り広げられた二人の会話の内容は凡そ意味不明だったが一つ、しばらくスケジュールは空けておきますの言葉だけは理解できた。
緊張から枯れた喉を潤す為、出された茶を飲み込む。温かいそれは全く馴染みのない味がした。
「勢いで連れ込んだが、改めて問う。お前は無名ということで合っているか」
どっかりと対面のソファに腰を下ろしている男の質問。すぐに首を縦に振った。
「あの頃の事も記憶にあるのだな」
このわしに反応したという事はそうなのだろうがと男は続ける。それにも頷いた。
「
…………
お前、もしや声が出んのか」
真剣に問いかけられた。失ってしまったのかと。再会してから一度としてそれを発していないのだからその疑いは当然といえば当然だ。が、そんな事実はなかったので無名は焦る。首を今度は横に振って、息を吸った。
「すまない、喋れる。ただ、事が呑み込めず」
この時代に同じように生まれていた。知らなかったとはいえ互いに互いを求めあっていて、こうして再会することが出来た。そんな奇跡的な事が上手く呑み込めていなかった。そんなこと、天文学的な事だといつからかずっと思っていたのだから。
「まぁ、そうだな」
そしてその思いは董卓も同じだったのだろう。今の世に産まれ、同じなのであれば物心ついた時から過去の事は記憶にあったはず。それからいるのかいないのかもわからない存在を当て所なく探し続け、それが何十年も続いていたとすれば呆然とする気持ちは同じはずだった。
殆どもう諦めて、それが、今日、
視線を上げ、その顔を見つめる。時代に合わせ恰好などは様変わりしているが、しかし、あの頃と変わらないとも思った。強い眼差しに険しい顔。ああそうだ、腕を組む癖も変わっていないと思えば胸にこみあげるものがあった。
「
…………
髪、伸ばしていないんだな」
「さすがにな、今の時代にはそぐわん。そういうお前はあまり変わらんな」
「自分はあの頃から、髪は伸ばしていなかったから」
いつも、朱和が小まめに整えてくれていた。他の人のように結っても良かったのだけれどずぼらで結い上げきれない無名を見兼ねての事だった。大人になってからはそれはあまり良くないとは言われていたが影の存在であればこそ許されていたのだろう。実際目の前の男を含め誰にも咎められたことは無かった。
「そうだったな」
「ん」
言葉は続かず、無名は思わず視線を落とした。今までずっと、もしもう一度言葉を交わす事が出来たならどうするかと考えていたのに。それは今だけじゃない、あの時代、男が失われた後いつも思っていた事だった。
もし、あの人がここに居たならどう言っただろう。あの人が今の自分を見たらどう思うだろう。
生きて、進んでいる限り、ずっと考え続けていた。心が折れそうなとき、挫けそうなとき、いつか、胸を張って、笑ってあの人に告げられる人生を生きるべきだと力を出した。糧になっていた。ずっと。
だというのに、いざ本人を前にするとどこからなにをどう言えば良いのかわからなくなっていた。元々、無名は口が上手くはない。
「
…………
会うつもりは、無かったのか」
「え」
「先程の様子の事だ」
背を向けた答えを求められた。
「違う、その、貴方が昔の事を覚えているかわからなかった。それだけだ」
見知らぬ相手に馴れ馴れしく話しかけられて嬉しい人間は殆どの場合いないだろう。特に今の二人の立場的に考えればそれ自体が不可能と言えた。だから、ただ遠くから一目見るだけで良いと思ったのだ。避けていたわけではないのだと。
そう伝えれば董卓から深い溜息が聞こえた。でもそれは呆れたようなものではなく安堵したような音色だった。
良かった、危なかった、とそういう声が聞こえてくるようだった。
「しかしお前はどうやって見つけ出したのだ。このわしが財力に物を言わせて探ってもどうにもならなかった事だぞ」
それも当然の疑問だった。
「それは、朱和が」
「朱和、あの女もおるのか」
「ん、朱和は警察に務めていて、色々な所に飛び回っているんだ。引く手数多で、その中で偶然貴方を見つけたらしい」
もしかすれば董卓が参加した何かの行事ごとの警備に配置されていた可能性もある。そうなれば朱和が認識し、董卓が気付かなかった理由としては十分だった。ただの警察官一人の顔を確かめているはずはないのだから。
けれどもしも朱和がそうして見つけていなければ恐らく一生二人はこうして出会うことは無かっただろう。それについては感謝ばかりしかない。
董卓は一人で、無名と朱和は二人がかりで探していたという差だったのかもしれない。誰に調査を頼もうと情報の無い相手を探す事などどんな凄腕の探偵にだって出来ない事だ。
「
…………
一つ、自分も聞きたい」
「なんだ」
「貴方は自分を探して、再会して、どうする気だったんだ」
一目だけでは済まなかった再会で浮かんだ、その、疑問。咄嗟に俯くようにして視線を相手の指に這わせるがそこには指輪のようなものはない。しかし、ただ外しているという可能性だってあるのだ。見た目からの判断にはなるが年齢としては恐らく四十代という所だと想像できた。そういうことをこなしていてもおかしくない。
今の時代は過去とは違う。
過去、当然男には妻も子もあった。時代柄、だからどうした。それくらいは何でもないと想いを寄せ合っていたが、今の時代ではそうはいかない。もしそうであるならば奇跡の再会とはいえ距離をとらなければならないのは当然の事であった。何せ無名は今この瞬間も、目の前の人の事を、
無名が何も求めず、一目見るだけで良いと思ったように、もしかすれば男もそう思い人生を生きていたのかもしれない。あの頃の事と、今とは分けて考え、あくまで過去の美しい思い出であると思っているかもしれない。
あの頃交わした愛の価値は、今、
「お前が懸念する事は何もない」
当然と言うように理解した言葉が返ってくる。しかし、答えになり切れていない。
果たしてそれは不貞など気にかけるなという意味なのか、それとも、
「今世のわしに妻も子もない。我ながら誠実など似合わん男ではあったが時代に合わせた感覚は持ち合わせている。とてもそういう気にはならなんだわ」
妻を娶るなどと。
そう言った。
顔を上げると董卓は笑んでいた。
「流石に童貞というわけにはいかんがな」
そしてそんな冗談を言った。それはそうだ、当たり前の事だ。そこまでの清廉潔白なんて求めていない。おかしかった。面白くて笑えたのに、おかしなことに無名の目からは涙が零れていた。
「側に、行っても?」
「来い」
問いかけには即答され、立ち上がると対面に居た男の傍に寄った。涙は止まっていない。
「お前が泣く所は初めて見たな」
「自分が泣いたのは、貴方が居なくなった後、だったからな」
魂魄の抜けた遺体を背負った時の事だ、墓穴を必死に掘った時の事だ。あるいはふと男を思い出した夜だったかもしれない。いずれもそこに董卓はいなかった。既に、どこにも。
それが苦しくて、苦しくて、泣いた。でも、今はそうじゃない。そうじゃないのに涙は止まらなかった。
腕を引かれ、強く抱きしめられる。それは酷く温かかった。どんどんと冷たくなることもなく力が抜けることもなく。
生きている、今、ここで、すぐ側で、
ようやく縋りついて抱き返したときには子供の様にわぁと泣いていた。
もう意地になって堪えなくてもいいものが全て、全て流れ落ちていく。
それが治まるまで男は飽きもせず抱きしめ続けてくれていた。背を、頭を撫ぜられて中々に治まるものも治まらなかったが、次第に落ち着き、最後にはただ静かに抱き合っていた。
「
…………
貴方にずっと、言えなかった事がある」
息を落ち着けた後、ぽつりと、そう言った。ずっとついていた嘘。いや、違う。言葉にする機に恵まれなかった事だ。
「今更か」
「ん」
頷いて離れる。勇気のいる事だったがあの頃の愛が変わらず続いていると理解すれば恐れる事ではなかった。
その目の前で衣服に手をかけると落としていく。それに董卓は当たり前に驚いていたが気にかけずに続けて行くと最後、一番肝心な下着を足から引き抜いた。
その先にある光景は明るい光の下で晒される。
高い身長、確かに男である面貌、喉仏ははっきりとそこにあり、広い肩幅。しかし、そのさらに下に男ならばあるはずのものは存在していなかった。病で切り取ったのだとか、そういう手術を受けたのでもない。生まれつきの事だ。
生まれ直し、時代が変わっても変わる事の無かった自身の特徴。
現代の医学で言えばインターセックスと呼ばれ、めずらしくはあるが決して少なくはないものだと説明を受けていた。
しかし、他人とは違うのだというのも事実。
「
…………
前も、そうだったのか」
頷いた。
「そうか、ならば残してやればよかったな」
それは、涙を流した夜に無名自身も思った事だった。若いあの時、不安定な時代だとわかっていたはずなのに太平の要としての役割を思い子供を孕む期間を惜しんだ。十月十日、いや、それ以上をそれに捧げるのは無理だと思ってしまったのだ。そういうものは自分には必要ないと。そうする事が美しいとまで思っていた。
けれどいざ好いた男が逝ってしまって、もう叶う事が無いと分かると惜しくて惜しくて、泣いて後悔した。
「なら、今、くれないか」
残されるはずだったものを。
言葉に一瞬、男の躊躇を感じる。それを悪し様には取らない。きっと頭が回るせいで様々な事を考えたのだ。それは自己の事だけではない、まだ年若い小娘であった目の前の存在を慮っての事だろう。なにせ今お互いに相手の事を何も知らないのだ。
今お前はどう生きている、それは果たしてこんな事で挫かれてもいいものなのかと。
さらにいえば、それで後悔はないのかと。
愚問。
それは無名にとって間違いなく愚問であった。
答えなど、決まっている。それほど想い続けてきたのだから。
温かな唇同士を触れ合わせれば、もう何者もそれを止めることは出来なかった。
続
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