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ユキ
2026-01-28 12:14:40
2771文字
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🌲🎏
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月のない夜に
🌲🎏(現パロ)
「疲れたぁ」
はぁー、と吐いた息で目の前が白く染まる。手袋をしていてもピリピリとしびれているみたいな指先をポケットに突っ込み、垂れてきそうな鼻水をすすって吹き付けてくる風から逃げるように身体を縮こまらせて足早に歩く
伸びてきた前髪が風になびいて目に入りそうになるのが鬱陶しい。そろそろ切らないとなぁ、と思いながら赤信号で足を止めたタイミングでふ、と視線を上に向けた
「
……
わぁ」
雲ひとつ無い、というのをこんな夜中にいうのはなんとなく違和感があるけれど
ビルの間から見える紺色の夜空に光る、ちょっとびっくりするくらいのたくさんの星に思わず声を上げてしまった
寒さも忘れてじっと見入っている間に青色に変わった信号機
周りの人が歩き始めるのが視界の端に見えて、邪魔にならないように流れに任せて足を進めるけれど、きらきら光る空からは目が離せなくてさっきまで俯けていた顔を上げたまま歩く
ゆっくり歩いているうちにどんどん追い抜かれていっていつの間にか人影はまばらになっていた
(
……
そうだ)
ポケットに入れていたスマホを取り出してカメラを起動させる。手袋越しだと上手く操作出来なくて右手だけ外した手袋をポケットに戻して、空へとレンズを向けた
ぱしゃり、と思いの外響いたシャッター音にちょっと周りを気にしながら撮った写真を確認する
「
……
うーん」
撮り方が悪いのか、真っ黒な画面にちらほら白い点があるようにしか見えない画像
何度か挑戦してみたけど全然上手く撮れなくて、はぁと溜息をついてちらっと上に表示されている時間を確認して、多分まだ起きてるはずだとアプリを開いて忙しくてしばらく会えていない恋人のアイコンを押す
『ちょっと今いい?』
最後のメッセージが一週間前なことに気が付いて、ひさしぶりとか連絡出来なくてごめんとか入れた方がいいかな、と何度も書いては消して結局短くなってしまったメッセージを送る
ちょっとソワソワしながらガードレールに寄りかかって、画面を見ていればすぐに既読マークがついて短い吹き出しが表示された
『どうした』
『急にごめん』
『電話してもいい?』
ちょっと間があってから送られてきたOKのスタンプを見て、受話器マークを押す
耳に当てた画面が冷たくてきゅっと首を縮こまらせると呼出音が途切れてなんだ、と聞き慣れた声が聞こえてきた
(
……
鯉登だぁ)
思っていたよりも疲れていたのか、声を聞いただけでなんだか嬉しくなって思わず笑ってしまう
耳元で怪訝そうに名前を呼ぶ声に、ごめんと返せば要件は、とちょっと不機嫌そうな声で聞かれてすっと空を見上げた
「星が綺麗でさ」
「
……
はぁ?」
「星、すっごいんだよ。写真撮って送ろうと思ったんだけど上手く撮れなくてさぁ」
「
……
それで」
「外、見てみてよ」
はぁー、と大きな溜息の後ゴソゴソという音とカラリと軽い音が聞こえてくる
なんだかんだちゃんと見てくれるんだよなぁ、と気が付かれないような笑いながら鯉登の反応を待っていたがしばらく待っても何も聞こえない
あれ?と画面を見たが通話中になっているので切れたわけではないらしい
「鯉登?」
「
……
貴様、本当に星が綺麗なのを見せたいってだけで電話してきたのか」
「
……
?そうだけど」
え?もしかしてそっち曇ってる?と慌てているとさっきよりも大きな溜息が聞こえてきた
「鯉登?どしたの?」
「
…………
なんでもない」
ふっと軽く息を吐いた後に言われた言葉に、なんでもなくないだろと口を開こうとした時、綺麗だな、と柔らかい声が耳を撫でた
きゅっと開こうとした口を閉じて、上を向く。ビルから漏れる蛍光灯の明かりとは違う瞬くように星が光る狭い空
「
……
綺麗だよね」
「あぁ」
今、どんな顔してるのかな
切れ長できつい、と言われることが多い目を細めてるのかな
この空よりも黒い目にキラキラ光が映りこんでるかもしれない
(
……
会いたいなぁ)
しばらく無言で空を見上げていたが、手袋を外していた手がだんだんかじかんできたので、肩と頬でスマホを挟んでポケットから取り出した手袋を付けているとなぁ、と鯉登が少し笑いながら声をかけてきた
「杉元」
「んー?」
「月が綺麗だな」
ん?と手袋をはめた手でスマホを持ち直してキョロキョロと視線を巡らせる
「そうなの?こっちからは見えないなぁ
……
ビルとかで隠れてんのかも」
どっか見えるとこないかな、と持たれていたガードレールから身体を離して歩き出そうとしたが、耳元からぶはっと思い切り吹き出した声が聞こえてくる
そのままくつくつ、と笑いをかみころそうとしている鯉登に首を傾げていれば、はぁと息をついた鯉登がなんでもない、とまだ笑いが残る声で言う
「いや、なんでもなくないでしょ」
「ん、ふふ」
また笑い始めた鯉登になんなんだもう、とちょっと呆れながら足を踏み出す
ほんの一時間前よりも軽くなった気がする身体に、我ながら現金だなぁと苦笑が漏れた。名残惜しいけどそろそろ切らないと、とスマホを持ち直そうとした時、なぁとなんだか楽しそうな声で呼びかけられる
「杉元」
「ん?」
「好きだぞ」
じゃ、とそのまま通話が切られ無機質な音が耳元で鳴って無音になる
ギクシャクと耳からスマホを外して、元のトーク画面が表示されているのを呆然と見つめる
「
………………
は?」
ひっきりなしに震えて、時々合間に送られてくるメッセージを既読を付けないように流し見ながらベランダの手すりにもたれかかって上を見上げる
(
……
うん、確かに綺麗だ)
はぁ、と吐いた息で白く染まる夜空をじとりと睨みつける
(綺麗だ、が)
お互い忙しかったからしょうがないのは分かっている。自分から連絡を取ろうとした訳でもないから杉元の不精を責めるつもりもない
だけど
一週間ぶりの連絡で電話したい、とか言われて
外見てみてよ、とか言われて
もしかして、とベランダに出てからまず下に誰かいないか探してしまった私が馬鹿みたいじゃないか
ふん、と鼻を鳴らしてずっと震えているスマホの電源を落とす
こんな時間に仕事の連絡は来ないだろうし、朝までこのままでも問題ないだろう
よいしょ、と冷えてきた身体を起こして暖かい室内に戻る。明日も仕事だがほんの少しなら飲んでもいいだろう、とあいつが家に来た時に二人で飲んでいるお気に入りのボトルに手を伸ばした
次の日、三桁近い通知にドン引きしながら確認していると、最後の方にあった『月が綺麗ってそういうこと?!』というメッセージに思わず笑ってしまう
くふくふと笑いを堪えながら、最後のメッセージに返信してやるために画面に指を滑らせた
『今夜会いに行ってもいいですか』
『待ってる』
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