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asahito
2026-01-27 22:28:12
3716文字
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Corpse Reviver⑩
前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/7583585
一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/14625442
一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。
最近ホテルが軒並み高すぎる。
その問いは、賭けにも近いものだった。賭け事なんて一切やろうと思わない性分なのに。
店主は普段きっちりと上までボタンを留めてシャツを着ているが、店が閉まると襟元を緩める為に一番上を開けていた。
本当はきっちりとした恰好は好まず。常に斜に構えたような態度が本来の店主の姿なのかもしれない。
俯瞰的と言えば聞こえはいいが。一歩距離を置いて諦観で物事を見据える態度は。少し擦れた性格とも言えるだろう。
酒を提供する店を経営しているのであれば。そういった人間の方が経営はうまくいくし、適職だとは思うけれど。
「これですか?褒めていただき嬉しいですけど大したモンじゃないですよ」
前フリーマーケットで偶然見かけて買ったものであると、笑いながらそのネックレスを持ち上げて教えてくれた。
暗がりで少し見えにくいが。石の光沢や削り具合を見るに、それはあの人の作品の特徴と一致する。
普段化石や鉱物を研究のために、嫌というほど眺めている能力がこんなところで活かされるとは思わなかった。
「こんな場所でフリーマーケットなんてあるんですね」
あまりこの街に似つかわしくないと思うが。広めの公園でもあれば、昼間に開催することは可能なのだろうか。
「この辺でたまにやるんです。今度はいつだって言ってたかな
……
」
そこに行けばあの人に会えるだろうか。出店中に研究の事を聞くのは良くないと思うけど、あの人と接することができる場所が少しでも多い方がいい。
この店主にあの人の事を聞いたとしてもどうせ守秘義務だと言って、教えてくれないだろうから。
フリーマーケットの事を教えたのはあの人の商売に繋がると考えての事だ。利益になることを教えるというなら、店主とあの人の関係は悪いものではない。
「まあそのフリマに行かなくても、ネットで注文すれば買えますけど」
「
……
私には似合いませんので結構です」
あの人の経営しているネットショップはもう得ている知識だ。だから、今更何か得られることはないだろう。
「色々注文つければその人に合うデザインにしてくれるみたいですが
……
気が向いたらサイト教えますよ」
距離の取り方の上手な店主は無理に勧めることはなく、私の自主性にあくまで任せるというスタンスで答えた。
この店主とあの人は関りがある。それは確かな事。だから、バーに通い続ければ、フリーマーケットに行けば。いずれひょんなことから会えるのかもしれない。
普段と違うことをしてみることで解決の糸口を掴む。このアプローチは、研究とよく似ている。
色々と疲れたがバーに行く意味はあったのだろう。私に最低限の情報を与えてくれた店主にも感謝したい。
「ユイマンの誕生日にプレゼントするときの参考にします。その色もいいですね」
そう自然に言葉が出た後に。何をするにも結局私は彼女の事が一番なのであると、自覚しすぎて少し顔が熱くなる。
普段彼女の事を誰かに話す事はないし、可能な限りは隠しているから。どんなに私たちが迷惑を掛けず仲睦まじく過ごしていても。何かしら言ってくる連中はいる。
この店主にはユイマンがばらしてしまったが故今更取り繕っても無駄だが。店主は涼しい表情で煙草を吸って煙を吐くばかりである。
「やっぱり、パートナーが大事なんですねえ」
「
……
当たり前でしょう。彼女は私の伴侶なんですから」
私たちの関係を揶揄するような店主ではないと思ってはいるが。なんだか馬鹿にされたような気がして語気を強める。
「それくらい啖呵が切れるなら、もう大丈夫でしょう」
少し笑って店主は袋から缶を取り出すと、そのラベルはコンビニで売っているありふれた安酒であった。しかも長いタイプの缶。
閉店間際とはいえ業務中に自分の煙草と酒を買いに行くとは。この人絶対、同じクラスにいたら敬遠してるタイプだ。
炭酸系の小気味よい音がして、すぐに店主はそれを一口含んだ。清々しい表情で。
閉店すればただの人間だ、とは言っても。私は一応客としてやってきたのに、酒を飲むなんてどういう神経だ。
「仕事が終わったなら何をしようが自由ですが。店主さんの晩酌に付き合う気は
……
」
もうすぐ終電の時間が迫りそうだし。終電に間に合わないなら、私もどこか安全なところで宿を取らないと危険だ。
荷物を持ってベンチから立ち上がろうとすると、店主はもう一つ缶を袋から取り出して私の前に差し出す。
「嫌なら構わないけど。随分辛気臭い面構えなのが気になってね」
飲み会の席に参加したことは会っても。こうやってあまり知らない人に酒を差し出されるなんて、フィールドワークで行ったお祭りの時以来である。
酔わせて私に何かするような相手には見えないし、缶の蓋は閉まり切っている。でも口を付ける所に薬を塗られている可能性はあるかもしれない。
この店主は本心が良く見えないけれど。こうやって酒を差し出すというのは、私を励まそうとしているのか。単に馬鹿にしているのか。
善人だけがいるわけではないとは思っても。一応缶は受け取っておく。無理に飲まなくてもいいだろう。
店主は私が缶を受け取ったのを見るとまた自分の酒を飲んだ。顔色は一切変わらないのは、酒を扱う店の店主たる自覚か。
「とりあえず、さ。あんたも彼女の手綱握っておかないと」
独り言のように呟いた言葉は。明らかに店主と客ではなく、一個人の言葉であった。本来の店主というのはこんな風なのか。
それを私の前で晒すのはどういった理由からか。
「
……
それは重々承知しております。けれど、ユイマンは手綱があって大人しくなる子ではありません」
天真爛漫さが彼女の魅力なのに。手綱を付けて行動を制してしまっては彼女の自由を奪うことになる。やっと彼女は、自由を取り戻したのだ。
「いきなりなんですか。恋愛の指南なら他の客にどうぞ」
恋愛を経たうえでの結婚があるのなら。もう私達はそこを乗り越えたはずだ。
「すいませんね。ただ、あんたらが新鮮で」
どう見てもこの店主の方が恋愛経験豊富そうな見た目はしてると言えど。特定の伴侶がいるのかどうかは、分からない。
あの人と悪い関係ではないようだが。だからと言ってすぐに関係に結びつけるのは失礼だろう。
それとも、そんなに私たちの関係は珍獣でも見るようなものなのか。あの時は祝ってくれたのは建前で。
「
……
会えないだけでそんなに寂しい気持ちになるんなら、それはそれで羨ましい」
「カウンセラーも間に合ってるわよ」
私たちの関係を色物で見るなら二度とこの店には来ないし。ユイマンにも店主は優しいフリしてこんなことを思っていたのだと伝えなきゃ。
苛立ちに敬語を忘れていると思ったが、別に向こうがその態度ならこっちだってその態度でいいだろう。下手にでる必要はない。
「介入は基本しない
……
私はただのバーの店主でカウンセラーでも何でもないよ」
「じゃあなんで私にそんなこと言うの?」
尋ねても店主はそれに答えない。
缶の酒を飲みながら煙草を吸う横顔は、いつも何かを纏い近づけない為の壁が無いせいか。素の表情に見えた。
年齢もそれほど変わらないであろう店主。その割に達観したような事を吐き出すのは。それ相応の経験からか。
「店主さんが羨む必要なんてないでしょう
……
その顔で何もない筈ない」
生まれつき美しく生まれる辛さは分かっていても。その顔で掻い潜っているものはあるだろうに。
「
……
色恋なんざ厄介事の塊だ。見てる分にゃ面白いけど無関係に自分が巻き込まれるのは御免だね」
何気なく聞いては見たがやはりこの人にも思い当たる節はあるのか。
妹の様に美人は美人で苦労すると言うが、どうしても醜い私には理解できない世界の話だ。
「何か嫌な事でもあったの」
「嫌な事
……
ひとつひとつ挙げていったらキリがないよ」
そう言って店主は一気に缶を煽ると。ロングの缶はあっという間に空になった。
「酒飲むの早!」
思わず本音が出てしまい。最近敬語を使わずに喋ったのはユイマンと豊姫以外だとあまりいないなと、気づく。
「そんな飲んで大丈夫なの」
「一応適量は知ってるんで
……
何せ酒が生業だから」
その言葉尻にお前が言うな、みたいな棘を感じたのは気のせいでは無かろう。好きで泣いたわけではない。
「やっぱりどこまで行っても繋がってりゃ、苦労はあるわけだ」
店主が自虐的に笑ったのは。何を思っての事だったのか。開けられてない缶の蓋を撫でながら私は店主の背負っている何かを、垣間見た気がした。
首に光るネックレスの石は光沢があって美しいけれど。その光沢が少しだけ私を遠ざける様な気がしたのは、何故なのだろう。
「またうちに飲みに来なよ。今度はふたりで」
店主が私に対して気さくな人だというのは分かったけど。印象の変化が大きすぎて沈んでいた気持ちも叩き起こされた気分だ。
気付け薬でも飲まされたような感覚。あの時ユイマンと飲んだお酒を、空気で味わうみたいに。
続く
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