はらす
2026-01-27 21:36:10
2123文字
Public 忘バ
 

20251101桐智 ピンクのネイル

2025/11/01 桐智 2120字
大学で付き合っている桐智の桐秋が大阪に帰った時の話。大阪の友達視点。

盆でも正月でもなんでもない土曜日だったが、秋斗が大阪に返ってくるから飲もうぜ、と連絡するとわらわらと十人以上が集まった。
あいつは高校から東京に行ってしまったが、大阪に戻るたびに連絡をくれる。集合はマクドやスタバが定番だったが、二十歳を過ぎた昨年からは駅前の飲み屋がたまり場だ。コーチのお父さんがやってる店なら、チームのOBやって言えばちょっとオマケしてくれるから。
仲間の中には中学で野球をやめたやつもいれば、今も続けているやつもいる。同期でプロになったのはいないけど、ひとつ下の夏彦は、既にローテ入りのヒーローだ。あいつは子供ん時から俺らとちょっと次元が違てたもんな。
じゃあ、プロに入らず大学で野球をやってる秋斗が凡人かっていうと、絶対に、絶対にそんなことはないし、その証拠に、大学野球では皆が一目置く有名ピッチャーだった。俺のチームは二回戦で負けるような関西の弱小だけど、お前のことを知らない奴はいないし、なんなら憧れてるくらいやで、秋斗。夏彦は今も昔も力で圧倒しつづけてるけど、一挙手一投足に戦術を感じるお前の野球が俺は好きなんや。まあ、俺の気持ちなんてどうでもええんやけど。
野郎ばかりが久しぶりに会って飲んだら、真面目な話なんぞすぐに吹き飛び、アホ丸出しの大騒ぎになるに決まってる。二十歳超えたばかりの男どもなんぞ心はまだガキのまんまだ。大食い、筋トレ、買い物、ギャンブル、奇行自慢にモテ自慢。そう、みんなモテたくてしかたない。誰がイケてるか、誰が駄目そうか、喧々諤々わいわいと言い合っちゃいるけど、ようは抜け駆けされたくないからと牽制してるだけ。彼女持ちが発覚すれば、その場の全員から強引に飲まされ、大詰めされた。それでも、本人は嬉しそうなんやけどな。くっそ、もげろ、爆発しろ。
「秋斗、なんか静かちゃう?」
最初に気がついたのは誰やったろうか。
「おまえ、ふだんは真っ先に弄りにくるのに大人しいやんけ。早くいつものキレた口上聞かせろや」
「うそ、もしかして彼女おるんちゃう」
問い詰められても、秋斗は黙ってにやにや笑うだけ。我慢できずに切り出したのは俺だった。いやだって、知りたいやんか。東京で彼女できたんやったら知りたいやろ? 野球の調子がええのも、その子のおかげかもしらん。
「実はなあ」
秋斗はもったいぶって口を開いた。にやけた口元がさらに緩んで、波打っているようにさえ見える。なんや、お前も結局惚気たいんやんけ。
「おるんやんか!」
答えず静かに笑い続ける秋斗は、ぐっとグラスを傾けた。焦らすなよ。みんなもう、前のめりやねん。中学時代からやたらとモテ散らかしてたくせに、全部お断りして誰とも付き合わへんかったお前が、初めて作った相手やろ?今まで一度も彼女の話なんかしてこなかったくせに、今になってそんな蕩けた顔で話しだすなんて、気にならない方がおかしいやんか。
「可愛い?」
奥から誰かが堪えきれず声を上げた。あれは山本かな?分かるわ。俺もそこは最初に聞きたいもん。
「髪な、ふわふわやねん。部活やってんのに肌も白いし」
秋斗は照れもせず、淡々と語り出した。ふざけず誤魔化さず靜かに。その落ち着きようが、かえって本気さを感じさせ、聞いてるこっちが照れてしまった。まじか。そんなに好きなんか。
「うわ、ヤバ!秋斗っていつもホラ吹いてばっかりやのに、実は惚気るタイプやん!」
手前の奴らが大騒ぎして囃し立てたが、秋斗は慌てず、余裕の笑みを浮かべた。
「しかも涙ぼくろあんねん」
「くそー!俺もエロくて可愛い彼女ほしい!」
秋斗のクソ煽りをうけ、全員大盛り上がりだ。
いいなあ、俺も彼女ほしい、ずるいやろ、の声が渦巻くその中で、誰かが秋斗に切り込んだ。
「彼女って、ネイル見せてくんのウザくない?」
その瞬間、秋斗は弾けるように笑い出した。
野球でも笑いでも俺らの先頭を走っていた男だから、てっきり上手い返ししてくるんかと思いきや、涙まで浮かべて笑ってる。なんでやねん。
「ネイルするする!蛍光ピンクとか!」
笑いながら叫ぶその声が店中に響く。だからなんでそんなに笑うんや。気になって仕方ないやん。
「その爪、可愛いねって言うてあげんの?」
俺がそう聞くと、急に秋斗は真顔に戻った。なに?NGワードでもあった?「アウトー!」っつってケツバットされるやつやった?
けど秋斗はすぐに穏やかな顔に戻り、静かに笑った。
「いや、あいつはネイルするのも取るのも面倒くさいって言うから、俺が一緒にやってる」
そらもう全員で「惚気んなボケ!」ってどやして終わった。




帰り道、ふと、思いついた。
あいつがバッテリー組んでるキャッチャーって、なんか、顔に黒子なかったっけか。
関係なんかあるわけないのに、気になって仕方がない。どこかに顔写真落ちてないかな、とスマホを取り出してはみたものの、検索ボタンを押す指が上手く動かなくて諦めた。なんでだか、どうしてだか調べたくない。だというのに、俺は気になって仕方なく、目を閉じても、頭の中で秋斗の顔が何度も浮かんでは消えた。
あの、黒子の話をする秋斗の嬉しそうな笑顔が。