その音は

✦交流作品
 拝借:グウェナエルさん


 外の麗らかな陽気に反して、城内の書庫へと足を運ぶ。
 私がここ、プルーヴェリテに来た目的は何も政略結婚のためだけではない。
 自国で行っていた神術研究の更なる発展や、自国には無い文化や知識を吸収し、それを持ち帰ること。勿論、定期的に手紙や神術器による交流は行うつもりだがそれだけでは足りないこともある。特に、禁書庫にある書物は持ち出すことができない為、長期滞在可能な自分が必要な書物を手繰り、理解することも仕事だと思っている。趣味が混ざっていないと言えば嘘になるが、それもまた一興だ。私に白羽の矢が立った時点で、私が諾とするならばこうなることは火を見るよりも明らかなのだから。
 扉の前に立ち、鍵に神術を送れば開錠の音がして、ゆっくりとその扉を開く。
 己が想像していたよりも書庫内は広く、そして荘厳だった。
 中枢を担っている位置だからこその蔵書量とでも言えば良いだろうか。どの棚から探せばいいのか、それすらも迷ってしまう。きょろと視線を彷徨わせれば、先客の姿があった。その服装や立ち居振る舞いからして、使用人でないことは明白で。きっと、彼も私と同じ立場なのだろうと思う。それならば、話をする方が自分にとって利がある。交流を持つことは、大事な事だ。こちらが臆していればその先は開けない。望むのならば動くべきなのだと父はよく言ってた。だから、私もそれに倣うだけだ。
 そう思い、ゆっくりと近付いて声を掛ける。
「申し訳ない。こちらに初めて足を踏み入れたのだけれど、勝手が分からず。よろしければ知っている事を教えて頂けないだろうか」
 そう言えば、少し高い位置にある彼の視線がこちらに向く。その姿に微笑んで、言葉を続けた。
「突然話しかけるという無礼をまず詫びます。エリュアール国カールフェルト公爵家三男、クリスティアンと言う。よろしければ、貴公の名をお教え願えないだろうか」
 胸に手を当て、敬意を払い音を紡ぐ。はつりと、冬の早朝の湖畔のような静謐な瞳が動いた。
「構いません。シルヴェリオン王国ヴァルドレイク侯爵家、グウェナエルと申します」
 私のことはお好きにお呼びください。そう続ける彼の落ち着いた声を心地よく思っていると、聞き馴染みのある音の配列が彼の口から発せられ、反射的に瞳孔が僅かに開くのを感じた。
「シルヴェリオン王国……竜族の国ですね」
「ご存知でしたか」
「はい。母のルーツが貴国にあり、ヴァルドレイク家は最北端の護国の要だと幼い頃から聞いて育ち、一方的に身近に思っておりました」
 なるほど、とでも言うように彼は一つ頷く。その後、何かを考えるように口元に手を置いてから改めてしっかりとこちらに視線を向けた。
「先程、この書庫内についての確認をされたと思いますが。私でよろしければ、お教えします」
「ありがとうございます、心強い」
 ゆるりと、手を差し出して敬意を表す。文化が異なるかもしれないと思えど、握手に大きく差はない事を知っているから。己の手より僅かに大きな手が重なる。
 思わぬところで得た縁に、口元が綻ぶのが分かる。