asahito
2026-01-26 21:15:12
4222文字
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Corpse Reviver⑨

前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585 一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/14625442 一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。

駒草君も案外自分自身の色恋話聞いてくれる人っていないんですよね。他人の色恋は聞きまくってても。

「店の酒が思ったより減ってしまって。すぐそこのコンビニで買える酒だから」
 指さしたのは少し歩けば辿り着ける、大きなビルに入ったコンビニだった。どこにでも溢れているコンビニ。
 最近ビルが完成したことで同時にテナントとして入ったらしいが。そこで働く連中以外にも、色々な用途で私も助かっている。
 煙草を切らした時にすぐに行けるあたり、潰れないで欲しいと祈るくらいに。
……バーで使うお酒ってコンビニで買えるんですか?」
「ものによっちゃあ、そういうのの方が味がいい場合もありまして」
 インテリの女のせいか冷静に私に指摘してくる。確かに、バーの値段の相場を見てみればコンビニの酒を出すのかと不審に思うだろうが。
 酔い覚ましの水なんかが切れた時は割高でも買いに行くし。ある程度の水準の酒も売ってはいる。
 酒を扱う私が言えば説得力は増すのか、阿梨夜は少し首を傾げつつも私の言い分には納得したようだ。
「お客さんはもういないんですが。明日は配達の人が来てずっと店にいないといけないし、地元のスーパーで買ったのを持ってくのも重たくて面倒でね」
……個人経営というのも大変ですね。ここに立っていれば良いのであれば少しは待てますよ」
 留守を頼むことは龍さんのように常連で、ある程度の信頼ができる相手にしか普通はしないが。この訳ありの堅物の表情はあまりにも切羽詰まっており。
 このままラストオーダーだと追い返せば厄介な事になりかねないと本能が反応したので、落ち着かせるために試す言葉を掛ける。
 落ち着いて留守番ができるならそのまま話は聞いてやるし。そんな悠長なことをしてられるかと取り乱すようだったらさっさと煙草の煙でも吹っ掛けて帰るように言う。
 店に入れないのは完全にこの女を信用してないのもあり。ラストオーダーの後なのに女を連れ込んだと、噂を立てられても困る。
 私の気質を知っている奴が見れば自然とそう思うだろう。既婚者をそんな目に遭わせるなんて考えたくないし。万が一阿梨夜に手を出せば、ユイマンが猟銃片手に私の店に突撃してくるかもしれないし。
「ありがとうございます。店の鍵は施錠しますが、もし怖ければこのビルの奥の方にスペースがあるのでそちらでお待ちください」
「はい……店主さんもお気をつけて」 
 ビルの横には狭い通路があり。奥の方に行けば、座って休める場所もある。このビルは夜、私の店以外は経営していないのでほぼ無人だ。
 店の入り口沿いもあまり人は通らないにしろ、酔客が阿梨夜に絡んだりする可能性は零ではない。
 私は頷いてコンビニの方へ足早に歩いて行った。もうラストオーダーは終わってるとは言え夜の街に客を待たせるのは悪いだろう。
「すぐ戻りますんで」
 明らかに奇妙な提案であっても受け入れるあたりは真面目な女であり。初対面のやらかしを未だに気にしてる可能性はあるが。
 私自身、この女には関心はある。
 どう見ても良い所の育ちの割に。それをわざと否定するような雰囲気や、諦観の煙を纏っている。そして自分自身を過剰なほど否定をする代わりに。
 ユイマンというパートナーに対しては否定を一切せず、優しすぎるくらいの煙を吐く。それは、愚直ともいえるほどに。
 別に、同性のパートナーと結婚に近い申請をし。一緒に暮らすのは珍しい事でもないが。
 阿梨夜が現れてから魅須丸がまた顔を出し始め。そして色んな事が目まぐるしく変わり始めたという偶然。
 変化を嫌うような煙を纏う女が現れた時に、変化が起き始めるというのは出来過ぎた話だ。だからこそ、あの女に興味が湧く。決して性的な関心ではなく。
 大きなビルのテナントのコンビニは、勤めている人がいなくなれば閑散としているが。残業の社員や夜食を求める客で人がいないわけではなかった。
 私は酒の棚から必要な酒と、いくつかの安酒をカゴに入れ。その後レジで煙草の番号を店員に伝えた。
 やっぱり割高だし物価上がってるよなあ、最近。
 袋に入れて貰いその分の金も払うと、店員に挨拶をされ私はすぐにコンビニを後にする。うちの店の方を見ると騒ぎは聞こえてはこないようだが、阿梨夜の姿はない。
 言ったとおりに休憩スペースにいるのだろうかと回っていくと。スマートフォンを見ながら阿梨夜はベンチに腰かけていた。
「すいませんお待たせして」
「いえ……お買い物はお済ですか」
 休憩スペースは煙草の灰皿入れとベンチがある質素な場所ではあるが。外で喫煙が許されている珍しい場所である。
 店を出て一服したくなった時にここで煙草を吸うと。明るすぎる夜空と喧騒が相まって、本当にこの街は眠ることがないと感じるのだ。
 店の中で煙草は酒の味が落ちるし。ましてや、酒を提供する方がそんなことをしては言語道断だろう。だからこういうスペースは本当にありがたい。
「お陰様で」
 コンビニの袋を見せると、阿梨夜はもう帰りますと言って立ち上がろうとする。それを止める為に、使う言葉としては卑怯だが。
 今夜会ったことと、私の店にわざわざ来ている時点で。阿梨夜だってわかっているのだろう。
 私は電子煙草を取り出すと一服していいかと阿梨夜に尋ねる。阿梨夜は構いません、と静かに答えた。お言葉に甘えて煙草に火を灯すと、メンソール系の味が肺に広がっていく。
 今日は気苦労が多すぎた分、味わう煙草の味は格別であった。誰のせいであるかと言えば、お前のせいなんだが。
 夜空に向かい煙を吐くと、それは霧散して消えゆく。
 換気ダクトのやかましい音に通りの喧騒は掻き消され。罵詈雑言よりかはマシな機械音の方がする。
「ラストオーダーでなければ、店の中で酒も出せたんですが」
「あの、私……帰らないと」
……ユイマンさんでしたら、うちに来ましたよ」
 その言葉に面白いくらいに阿梨夜は反応をする。バネ仕掛けの人形か。本当に、彼女が大事なパートナーなのだろう。笑いだしそうになるのを堪える。
「ユイマンが……
「もうお帰りになりましたし、安全な所に行くよう伝えましたが」
 ホテルの予約画面まで見せるように言った上で、家に帰るという事にはならないだろう。
 阿梨夜には会いたくないと言った手前。会わないで終わる夜を選ぶのが当然だ。
「大丈夫。彼女は今夜ちゃんとホテルに泊まってるので」 
「そうですか。そりゃよかった」
 かなり強いお酒を飲まれていて心配でした。そう言うと、阿梨夜の顔は曇り己を責める様な表情を浮かべる。
 虐めているわけではないがこれでは私が何か嫌な奴みたいだな。知っている情報を伝えているだけなのに。
……やっぱり店主さんの所に行ってたんですね。なんか、申し訳ないです」
 前回来た時は結婚記念日を祝うようなめでたい酒を作っておいて。次はそのめでたい酒を飲んで、不機嫌のままというのは確かに。
 ユイマンにとってあの酒が美味い酒だったかも定かではない。誰と飲むか、いつ飲むかで酒なんていくらでも味が変わる。
「別に酒を飲みに来る分には構いません。ちゃんと払うモンは払ってくれましたよ」
 あんたのような醜態を彼女は見せなかったと暗に伝えると。阿梨夜はスマートフォンをぎゅっと握り締めて空を仰いでいた。
 本当はすぐにでも会いに行きたいのだろうが。そんなに相手の顔を見ないと不安になるのだろうか。何か月顔を合わせなくても平気な奴がいる反面。
 一日でも会えなければ、不安で押しつぶされそうな顔をする奴もいる。
 人それぞれ、と言えばそれまでだが。この差というのは一体何なのだろうな。
「酒に依存するのは危ないけど。飲まずにやってられない時だってある……博打や煙草もそういうモンですから」
……お酒に逃げる方が癒されるのかぁ」
 私、そんなに頼りにならないのかな。自虐的に笑う沈み切った阿梨夜の表情を眺めると、ユイマンが呆れて怒るのも無理はない気がしたし。
 喧嘩の原因というのもなんとなく察せるが原因は聞かないでおこう。
「まあ、結婚してようがなんだろうが。一人になりたい時だってあるんじゃないですかね」
 煙草を吸い直し、煙を味わう。コイツも煙草みたいに精神を回復させるモンがありゃ少しは気が楽だろうが。多分、煙草は絶対に吸わない女だろう。
「店主さん、お店は……
 阿梨夜がスマートフォンの時計を見ながら尋ねる。閉店時間近くにいつの間にかなっていたらしい。
 店の鍵はかかっているが、電気を消さないといけないな。私はいったん持っていた袋をベンチの上に置くと、阿梨夜に帰らなくていいのかと尋ねる。
 だが阿梨夜は首を振り。一人での夜更かしは慣れていますからと、力なく笑った。
 一緒に暮らしているパートナーがいてもそういう夜が多いのか。それともかつてそういう暮らしをしていたのか。どちらかは分からない。
「あの、もし差し支えなければユイマンが何を言ってたか聞かせて貰えませんか」
「情報漏洩にうるさいご時世なんでちょっと困るんですが」
 いくらこいつらがパートナー同士とはいえ。
 うっかり漏らした言葉で関係が解消され、事件なんかになったら大問題だ。これでもかなり譲歩してやってるというのに。
……店主さんはしっかりされてますね。本当に」
 隙だらけの店主が店の経営なんざできるかと。ポケットに入れてある鍵を取り出し店の中に入りなおす。灯をいったん消し、店の営業はこれで終わりだ。
 しかし隙が無いと言われるのは。慣れてはいるが、あの阿梨夜の眼鏡の奥の鋭い眼差しは。ただの馬鹿真面目女というわけではないだろう。
 休憩スペースに戻ると阿梨夜は相変わらずベンチに座っており。石の様に佇んだままだ。メッセージを送るような素振りもなく、本当に今夜はユイマンに触れずに終わろうとしているのだろう。
 本当、何したんだよお前らは。さっさと仲直りしろ。
「もう閉店ですがどうされますか。これ以上ユイマンさんの話はできませんがタクシーくらいなら呼びますよ」
 それくらいのサービスならしてやるから。気持ちが沈み切る前に、家に帰れ。
 知り合いのタクシー会社の電話番号を渡そうとすると。阿梨夜は私の顔をじっと見つめて来た。
「その店主さんのネックレス、綺麗ですけどどこで買われたんですか?」






続く