水樹
2026-01-26 20:41:36
3864文字
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くさりもちにはご用心!

スグアオ/sgao
スグリがキビりますが例の動きはしません
余談が長いしタイトル回収が雑

 最近、アオイに避けられている。理由はわかんねっけど、とにかく避けられている。決して俺の気のせいとかではない。なんなら逃げられたりもしている。
 会えるかなって部室で待ってても、アオイが授業さ受けてるはずの教室に行ってみても、わざわざ探したりしても、アオイと一緒に過ごすことが叶わない。……正直、さみしい。そっちの理由は、いやってほどわかってる。
 ……だって俺、アオイのことが、好きだから。アオイと、もっとずっと一緒にいたいと思ってるから。あわよくば彼女の隣に、「恋人」として立っていたいから。けれどそれは、俺のわがままにほかならない。でも、だけど、なんて考える自分がいるのも、また事実で。

「どうしたらいいんだべ……

 恋ってのは、わや厄介もんだ。



「ええっと、確かこのあたりで見たって言ってたけど……

 カイリューの背中に乗せてもらって、キャニオンエリア上空からアオイを探す。
 アオイはとにかく目立つ。悪い意味じゃない。珍しいポケモンっこを連れてるし、留学生だし、パルデアのチャンピオンでもあり、今はブルベリーグのチャンピオンでもあるから。だから「アオイを探してるんだ」と何人かに聞けば、だいたいの居場所はわかる。……ちょっと前までの俺だったら、誰かにこうして話しかけて、居場所を聞くなんて難しかっただろうな。

……見つけた。おーい! アオイーっ!」

 空から叫べばアオイの肩がぴくっとはねて、次いで三つ編みが揺れた。まんまるになった目と、ぽかんと開いた口がめんこい。

「スグリ……
「にへへ、やっと会えた。今から時間さある? アオイとバトルしたいしピクニックしたい。ブルレクも」
「えっと……あの……
……今がむりなら、明日でも、明後日でもいいよ」
「ちがっ、その……

 アオイ、困ってる。そんなつもりはなかったのに。アオイを困らせるようなこと、したくないのに。

「アオ……
「モモーーーーッッッッ!!」
「がお゛ゔっっ!!」
「わっ!?」
「えっ、むぐ!?」

 な、なにが起こったんだ? それになんだべこれ。なにかがものすごい勢いで飛んできて、俺の口にすぽんって入った。ほんのり甘くて、もちもちしてて………………ん? もち? ……! これ、食べちゃダメなやつ!
 そう思っても反射ってのはこわいもので。気づいたときにはもう、もちはごくんと、俺ののどを通りすぎてしまっていた。

「す、スグリ……? 大丈夫、じゃ、ないよね。今すぐなんとか……ひゃっ!?」
「キビ……。行かねで……アオイ……

 どこかに行こうとする手をつかむ。離れないで。行かないで。やっと、久しぶりにアオイの近くさいられるのに。もっと一緒にいたいのに。

「キビって……やっぱりさっきのくさりもちだったんだ! ……えっとあの、スグリ? 手を離して? 今すぐモモワロウを大人しくさせにいかないと」
「やだ。今離したら、またアオイどっかさ行っちまう。さみしい」
「っ!? すっ、すぐに戻るから!」
「やだ」
「う、うう……
……にへへ」

 じぃ、と見つめていると、逃げようとしていた手は大人しくなった。にへへ。うれし。……あ、アオイ耳も顔も真っ赤。めんこい。

「アオイはわーやめんこいなぁ」
「へっ!? き、急になに!?」
「んー? 急なんかじゃねえよ? いっつも思ってんだー。アオイかわいいなー、めんこいなー、すきだなーって」
「えっ……え?」
「アカデミーの制服も、うちの制服もわや似合ってる。いつもの三つ編みもいいけど、祭りんときの髪型もわーやめんこかった」
「あ、あの」
「笑った顔はおひさまみたいだし、バトルんときはきりっとしててかっこいいうえにかわいい。怒っててもプリンみたいに丸っこくってめんこいだけだし、今だってりんごあめそっくりに真っ赤でわーやかわいい」
「えぁ、う、うう……
「アオイ。顔そらさねえでよ。よく見たいのに」
「むっ、む、むりですぅ……
…………むぅ」

 ……おもしろくね。なので空いているほうの手を、アオイの顔へとのばした。グローブ越しでもわかるくらいすべすべのほおをなぞって、そんでもって、唯一むき出しの親指は。

……アオイのここ、わやおいしそう。ねえ。食べても、い?」
「っ!? なっ……な!? いっ、いいわけない!!」
「おねがい」

 唇と肌の境目を、やんわりとなでる。

「〜〜っ、すぐ、り」
「アオイ。……あおい」
「っ」

 きみのことがほしいんだよって気持ちさこめて、潤んでいるチョコレートをじっとみつめる。
 アオイはおでこからほっぺから、耳と首まで真っ赤っ赤に染まっていて。
 そっと、ゆっくりと俺の唇を、アオイのそれに近づける。互いの吐息が、混ざりあうほどに。


 次の瞬間。
 浮かされていたような、あるいはぼやけていたような思考が、かたちを取り戻す。
 そして俺は、眼前の光景に、目を瞠った。

…………えっ」
……?」
……わ」
「わ……?」
「わぎゃーーーーーーっっっっ!?!?!?!?」
「わあっ!?」

 俺たちの間には、ピクニックテーブル二つ分くらいの距離ができた。……ただ単に俺が後ずさっただけなんだけども。いやそんなことはどうでもいい。
 それよりも。
 それよりも!
 な、なな、なんでアオイの顔が目の前にあったんだ!? それもきっ、ききき、キスさしそうなぐらいの近さで!!

……スグリ? もとに、戻った、の?」
「わやっ!? ……えっと俺、どう、してた?」
「なにしてたか、覚えてないの?」
「う、うん。ごめん。もち食ってからの記憶が……あいまいで……
……そう、なんだ」
「もっ、もしかしてアオイになにか……!」
「えっ!? う、ううん! なにも! なにもされてないよ!」
……ほんとに?」

 だったらあの距離の近さはなんだったんだべ。うう……。ほんとに俺、なにも、してない……

「ほっ、ほんとだよ! ちょっと手をつかまれて、あ、つかまれたっていっても全然痛くなかったから大丈夫! それでえっと、さみしい、行かないでって言われた、かな。あ、あと、ええっと……かわいいとかめんこいとか……すっ、すき、とか言われただけで……! あとはそう! き、キスも未遂だったし! なんならちょっと残念だったなって思ったくらいで!」
「えっ」
「え?」
「アオイいま、なんて?」
…………あっ!?」

 直後、顔を真っ赤にして「忘れて!!」と叫んで走り出したアオイを必死で追いかけつかまえて、俺が何を言って何をしようとしたのか聞き出して。いろいろバレた勢いに任せて告白し、結果めでたく想いが通じ合った。



 それはそれとして。

「なんでいきなりくさりもちさ飛んできたんだべな……?」
「そうだね……。キタカミのときより速かったよね?」
「確かに。最初なにがなんだかわかんねかったし」
「がお……
「えっ、どうしたのオーガポン」
「ぽにっ、ぽにおん……
……?」
「ええっと……?」

 オーガポンがなにかを伝えようとしている。それはわかる。わかるのだが、肝心の内容がわからない。アオイと二人で困惑していると、オーガポンはしょんぼりとしながら、懐からなにか取り出す。

「あれっ、それ……もち?」
「んだな。でもくさりもちじゃなくてまっさらもちだ。アオイのかばんから出したんかな」
「ぽに……。がおっ!」

 オーガポンはそれをぽんと放り、重力に従って落ちてきたのをすかさずツタこんぼうで打った。被害が出にくいようにか、空に向かって。

「え、お、オーガポン……?」
「がお……
「一体なにを……あ!」
「アオイ?」
「そっか、そうだったんだね。説明してくれてありがとう」
「えっと、どういうこと?」
「スグリが食べちゃったもち。あれ、オーガポンが打ったみたい」
「わやじゃ!?」

 おっ、オーガポンが? もちを? 打った?? それが、たまたま俺の口に?? わ、わやじゃ……。驚きのコントロールっぷりだべ……

「ぽに……
「だから、ごめんなさいって。そう言いたいんじゃないかな?」
「えっ? えと、んっと、お、おに……オーガポン。謝る必要ね。ただ単に偶然さ重なっちまっただけだべ。だからその……気にしねえで?」
「ぽに、ぽにおー……

 怒ってなんていないことを伝えても、オーガポンの表情は晴れない。きみは一つも悪くないのになあ……

「そもそもはモモワロウがくさりもちさオーガポンに向かって……えっと、投げた? 放った? からだし」
「うん、そうだよね。モモワロウにはよーく言って聞かせるから! だから……ね? 元気だして?」
……がおっ! ぽにおーん!」
「よかった。元気になった」

 ……うん。元気になったのはいいが、風切る音がするくらいツタこんぼうさ振るってるのはなんでなんだべ。しかもにっこにこの笑顔つきで。……その勢いのままモモワロウに制裁するわけではない、と、信じたい。

 とにもかくにも。

「くさりもち、わや危険なもんなんだって再確認しちまったなあ……
「うん。うっかり食べないように気をつけないとね」
……んだな」

 今回はたまたま良い方へ転んだけれど、危険なものには違いない。

「くさりもちにはご用心、だべな」
……ふふっ。そうだね」