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ortensia
2026-01-26 15:50:24
6643文字
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傭リ
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救難信号を受けて派遣されて来た傭、無線機から聞こえる霧の声に誘われるも、しかし、どこかおかしい。
ざっくり(というかヤマなしイミなしオチなし)。Total Chaosってゲーム。なんとなくサイレントヒルっぽいけど、(正気度メーターがあるので)クトゥルフを感じる。
おれはその夜、派遣された街へ向かっていた。夜の作戦行動任務で、一人で一台の車を与えられた単独任務だった。
任務の詳細は現地で。それを頼りに車を走らせていると、やがて霧に飲まれて行く。向かうのが霧の都だというのは、名前の言葉通りらしい。
慎重に車を進ませると、街の玄関口のようなところにやって来た。車を降りてアーチをくぐる。廃れた寂しい街だが、一番近くの店が開いていたので、そこへ入る。
ここは、雑貨屋、あるいは土産物の店か。誰もいない。一人しかいないと、人はその現状をなんとかしようと、なんでもする。扉を片っ端から開け、開かない扉は装備の銃剣で抉じ開ける。弾は温存したい。見回して、使えそうな物資は頂いて行く。一室の机にメモ。
「住めば都と思ったのに、もうそうではなくなった。孤独が自分から都を奪う、美しい霧を。」
そのまま進んで、店の裏手まで誰とも会わないままに出た。そこに積まれた薪、そのそばにあった斧を拾って、装備に加える。
目的地に着いたはどうするか、どこかに基地があるだろうか。
無線に通信が入った。
「あゝ、繋がりました?あなたが呼び出しに応じて来てくれたかた?良かった。ずっと待っていたんですよ?」
ノイズにまみれ、霧掛かった声。
「あなたが霧と共にあってくれることを、ずっと待っていました。」
「おまえが任務対象者か?どこにいる?」
「あなたはまだ街の入り口?商店街の並びに、理髪店があるから、そこに来てください」
「理髪店?なんでまた?そこにいるのか?おい?」
おい。通信は切れた。
店から離れ、通りを進みながら辺りを見回す。理髪店の看板を探しながら練り歩く。
見付けたトリコロールの店に入る。やはり、ひとけはない。どこだ、どこにいる。前の店のように、扉を壊し、部屋を見て回る。どこにも誰もいない。
しかし何かの影が動く。生気は感じられない。それは偉業であり、病のようでもあった。
鉢合わせても面倒だ。気付かれないように行動する。
店として営業していたであろう部屋では、髪切り鋏が床に散乱している。それが意図的のように刺さった床があった。カーペットを抑えるように刺さっている。それを抜いてカーペットを捲る。
床に扉があった。頑丈で抉じ開けられない。ダイヤル式の鍵があり、数字を合わせなくてはならない。待て、何かの数字のようなものを、他の部屋で見た。
店の部屋を出て、トリコロールの看板を確認する。回る動力は切れているから、自分で回り込む。あった。
「〇八〇七。」
床扉に戻って、ダイヤルを合わせる。開いた。
扉の先には、階段があった。地下への階段を下って、暗闇へと進む。この先にいるのか。
「あゝ、理髪店からの道を見付けてくれたんですね。」
無線だ。
「待っていました、ずっと。ずっと、長い間。あなたはここへ来ることを望んでいたし、わたしも望んでいた。」
「どういうことだ?まだここじゃないのか?」
「深い深い暗闇の霧の中に来てください。ここは病が蔓延していますが、あなたの協力があればきっとそれが最善の選択に繋がります。」
地下でも無線は問題なく通じた。寧ろなぜ先程急に途切れたのか疑問だ。
「彼らを殺す必要なんかないんです。そのまま放って苦しませておいてください。悪化させる方がまだましだから。」
無線はまた切れた。仕方ないから地下を行き続けるしかない。
明かりが差し込まない。そう思っていたが、階段が終わると通路を蝋燭が照らしていた。ここに誰かいたのか。霧の無線機のあいつなのか。
蝋燭の通路の端に、メモを見付けた。
「この治療は、薬は本当に効いているのか。自分ではそうは思わない。こんなところでこんなことをしているより、いっそ戻って以前の生活を送った方が、まだ人間の生活を実感できるのに。それが許されないというのか。これは罪で罰なのか。」
通路の四角から何かが飛び出して来る。異形の黒いそれを剣で刺し、斧で叩きながら進んでゆく。また、落ちている瓦礫を投げ付ける。
怪物の声と、自分の息の荒さが拮抗する。地下の、しかも蝋燭の明かりの場所で、息を荒げるのは得策ではない。影がこちらに気付くと向かって来る。影の怪物との戦闘を繰り返しながら、休み休みそれで負った自分の怪我を治療して進む。
見えて来た通路の終わりには登り階段があって、それを登った。
螺旋のそれは外に出た。それでも地上では終わらず、もっと高い場所へ続いているようだったから、登り続けた。
霧は濃く、遠くまで続いている。
階段の終わりは建物の屋上で、そこから建物内に入る。扉は斧で壊した。銃剣より威力が出る。
「あゝ、来てくれて嬉しいです。お疲れでしょう?どうぞお寛ぎになって?」
霧の無線が言う。建物は美術館、あるいは画廊だった。
薄暗いが、今までの廃屋よりはまだ美しさが保たれていた。
「おまえがいるのはここなのか?」
「あなたはここよりもっと深い暗闇に行かなければなりません。あなたの求める答えを見付けるために。」
霧が勝手なことを言う。
「この街はあなたとわたしの思い出でいっぱいですけれど、これからのわたしたちのためにも、妨害は退けて、先に進んでください。」
おれたち。自分は前にもここに来たことがあるらしい。
無線はいつの間にかまた切れていた。
ここは寛げと言った言葉の通りなのか、補給物資などが置いてあった。この場に似つかわしくないことに、銃弾も転がされていた。
しかし扉は頑丈で開かない。
辺りを見回して、壁に掛かった絵を見遣る。少年、赤子、老人、紳士。肖像画がずらり。
紳士の絵を外し、手に取ってみる。
「C。」
裏返すと一つのアルファベット。
他の三枚の絵も、裏を見てみる。それを確認しながら、四枚の絵全てを並び替えて壁に掛ける。
「JACK。」
するとがっちゃりと重たい音が響いた。扉の鍵が開いたようだ。
扉を出ると、廊下の電灯が点滅しているのが見える。しかしそこではそれが唯一の明かりだった。頼りないそれに照らされた場合を進んで行く。
暗がりからは、また怪物が襲い掛かって来る。それを倒したり、往なしたりしながら、先を進む。
建物を出た。霧が体を包む。
周囲は木々に囲まれていた。
「向かって頂く場所には鍵が必要です。近くの基地で探してください。」
霧が言う通り、基地へ向かう。
基地は森の中にあるようで、木々を抜けて進む。
風の音が不気味に鳴り続けるのに、霧が運ばれて晴れる様子は一向になかった。だがそれで良いと思った。
霧の奥、基地のテントが幾つか見えた。
一番近くのテントに入る。やはり誰もいないが、一つのテープとテープレコーダーがあった。
セットして再生すると、なぜか自分の故郷の歌が流れた。この街の地域からは離れた国の歌が、なぜ。
わけは分からないが、遠退いていた正気が返って来るような気がした。
「いっそ忘れては?そうした方が良いこともあります。」
風が鳴く中で、霧が言った。テープは直ぐに再生を止めた。
鍵を探す作業を続ける。風の音以外は静かだ。
「わたしたちの都は、今はもう廃墟となってしまいましたね。」
それと霧の声。
「けれどわたしたちの都のことを、息苦しく感じる方々もいらっしゃったようです。」
それは病の蔓延のせいか。それとも、そんな場所を心地良いと言うせいか。
鍵を見付けた。
そばにはメモがある。
「ここは観光地であって療養地ではないと言われた。こんなところが観光地だというのか。」
無線が繋がる。
「では向かいましょう。もうここに、探す価値のあるものはありません。寧ろ、そうしない方が良いものばかりでしょう。」
霧の案内に従う。
しかし、また森を彷徨う中で、何か見えた。
それは断続的に途切れるもので、本当にそこにあるのかどうか分からない。けれども確実に近寄って来るので、途切れる視界と目眩の中、それに向かって銃を発射した。何かが破裂した。目の裏で赤が明滅する。風の音より自分の声の方が荒い。
ゆっくりと瞬きを繰り返しながら森から戻り、また街の景色に戻って来た。依然としてひとけはなく、剥き出しのコンクリートと煉瓦が出迎える。灰色の景色が、まだ目に優しいと感じたのは、皮肉以外の何ものでもない。
「その鍵はここで使いましょう。」
「この建物が目的地なのか?」
「その先です。」
声は途切れた。兎に角まだ先らしい。
建物を鍵で開け、直ぐに見える階段を上がる。階段を進むと渡り廊下が見える。
「その先の建物です。」
渡り廊下に向かおうとした。
しかし向こうから怪物が向かって来る。それを拾った瓦礫を投げて倒す。そのまま進もうとしたら、橋が崩れた。
「ここから行けないのであれば、公民館の中を通る道を行きましょう。」
せっかく鍵を手に入れたが、これじゃあ、残念だが、そうして遠回りするしかないらしい。霧の中、公民館に向かう。
公民館に入ったは良いが、中はシャッターが降りていて、ここを開けなければ通れないらしい。
階段があるが、登りは崩れて進めない。階下へ進む。頼りなく明滅する明かりは、点いても薄暗い。何かがフラッシュバックする目眩の中、廊下を進む。
開けられる扉は開け、抉じ開けられるものは全部壊した。
ある一室でテープを見付ける。テープには鍵が貼り付けられており、それを剥がしてから、レコーダーにセットする。
「病院の設備は平等じゃない、ここでの治療はもう出来ない。だから別のもっと良い場所へ移れと医者は言う。この都を出て?ここより良い場所なんて、あるものか!」
ノイズ混じりのテープは止まった。
「わたしたちにとって息苦しいのは、孤独だけだったんですけれどね。」
顔を上げて見ると、その部屋の壁には、どうしてだか故郷の山々の絵が描けられていた。
「あなたの故郷は、ただあなたに見付けて貰って喜んでいるだけ。そんなゲームに付き合って差し上げる理由がありますか?」
なんとなく見ていられなくて、絵を裏返した。カトマンズの綴りは、見なかったことにして、鍵を持って部屋を出た。
「この鍵があれば、閉ざされた公民館も出て、地上に出られますよ。」
励ますように霧は言った。
公民館のシャッターは開けられたが、その先にある廊下や部屋は、まるで独房のようだった。部屋の扉は柵の扉だし、廊下の節々に一々鉄格子の扉がある。公民館なんてとても言えない、気味の悪いところだった。
そこを抜けると、また蝋燭の灯りが並ぶ通路に入った。その先は教会のようだ。赤茶色の煉瓦の壁に、蝋燭の火がゆらゆらと影を作っている。どこからか赤子の声が聞こえるが、気のせいだろう。それをあやす女の声も聞こえるが、気のせいに決まっている。
赤子の声に混じって怪物が飛び出して来る。止まない母子の声の中、自分の息遣いも混じる。
広い大部屋には大きな十字架があり、それが崩れて椅子を薙ぎ倒していた。
そこを出ると上への階段があるので、細いそこを通って行く。
階段の終わりには扉があり、外へと出たが、その壁にも通路が続いていた。教会の外側には直ぐ崖があり、この鉄網のような通路は、そこと繋がっているようだ。
「この崖もまた、真実を知るために渡らなければなりません。」
無線機がそう言う中、崖の下からは、赤子の鳴き声と、女の笑い声が響いている気がした。
崖を越えたところには、小屋があった。
そこには物資の他に、らくがきのような絵があった。それは道具のレシピのようで、小屋の中にあった工具で、材料を使って武器を製作出来た。
小屋を出て道なりに進むと、植物園にあるような、花のトンネルがあった。そこをくぐって進むと、荒れ果てた庭園に出た。
広い庭園だが、荒れ放題で元は美しかったとしても、見る影もない。
「そう!その先です!このロマンチックな場所を通って、いよいよあなたと会うことが出来ます!」
無線機の霧は、この荒れ果てた庭をそう評した。花もなく、棘ばかりが刺して来る庭だ。どこかから金属の転がる音がする、不気味な。
凝った庭は迷路のようだ。覗き込んだ道の先にも、いる。動悸がする。自分の心臓の音。それから息が。曲がり角から、いや、生垣から突っ込んで来る怪物を斧でぶん殴る。
そうして突破した庭の先には病院があった。この庭園は、その病院の庭らしい。
病院の扉を開ける。それが閉まる音が不気味で、思わず振り返る。そこにはメモが。
「置いて行ったくせに!置いて行ってやる!」
どちらが本当なのか。
病院内に明かりはなく、小屋で拾ったライターを点ける。ライターは時々火が消えるので、何度か点け直しながら進む。
怪物は常に現れる。人の姿をしたものから、四つ足のもの、ゆらめいたもの、開いて節張ったもの。人型から翼のようなものが飛び出すもの、首筋から縄のようなものが伸びたもの。
そしてここでは怪物の唸り声。子供のようにも女のようにも男のようにも老人のようにも聞こえる。
呼吸の声が聞こえる、それが止まるまで待つ。永遠に待つことが出来る。永遠に逃げ続けることは出来ない。必ず見付け出す。見付けた。
大きな足音が近付いた途端、走り出した。
素早く通路のかどを曲がり、部屋をくぐって扉に隠れながら、次の部屋へ入る。
そうして怪物から、幻聴から逃げ仰せ、入った両開きの扉を閉めて、その場にうずくまる。
「ここに留まればそうする程、病は進行します。だからね、一緒に生きるすべがあるんですよ。もうお分かりなのでは?」
瞬きが早まる。その度に何かが現れては消える。直ぐそばにいたと思ったら、離れたところに移動している。こちらを見ていたり、余所見をしていたりする。
何があって何がないのか分からない。今だって急に目の前に洞窟が現れて、物資が落ちている。それを物色して拾ったら、洞窟は消えて、まだ病院の中だ。
何の前に、何処なのかも危うい。怪物は本当にいるのか。怪物がいるここは何処なのか。
突然浮遊感を覚えた。無意識の内に俯いていた顔を上げると、いつの間にか昇降機に乗っていた。
それが止まって、扉が開いたので降りる。後の扉が閉じて、昇降機が何処かへ行く気配がする。
目の前の暗闇は、開けた場所のようだが、所々で柱が支えているようだった。
「ここは腐敗している。あなたはここを離れたくなくなる。」
それが突然光ったかと思えば、その光源は怪物で、何か雷撃のようなものを放っていた。
「余り近付き過ぎないで。」
無線が言うように、距離を取って柱に隠れながら、天井からぶら下がるように張り付いている怪物を、狙撃する。
咆哮を上げながら光り輝くそれに、辟易して逃げ回りながら、なんとか撃ち落とす。
「あなたは自分が溺れないように必死に泳いだのに、こんな深い場所にあなたを引き摺り込んだのは、あなた自身です。」
けたたましい叫び声が聞こえて、暗くなった怪物の体が、真っ直ぐに落ちる。
「周りはあなたに家に帰ってほしいと言いますね。それはあなたのためではなく自分のためです、あなたの良心に漬け込んでいるだけで気安く語りかけ、向こうはまるでバカンスのようにあなたの暗闇に訪問するのです。」
そうなる前に、何もない景色に戻った。怪物が床に叩き付けられる前に、諸共何もなくなった。
赤いサイレンが鳴る。
何故自分はここにいて、何と戦っているのか。
気付いたらテープを握り締めていた。テープレコーダーで再生する。
「孤独に苛まれないよう、想像してみてください。自分だけの、居場所、楽園の都を。」
それが、霧の都。
閉ざされた筈の後ろの扉に手を掛ける。扉は簡単に開いた。
開けた先には、霧一つない明るい山の景色が広がっていた。
治療は前の場所では続けられないと言われた。だからここにいる。そうだ。そうだった。今はここにいるんだった。
霧の都はもう遠い。無線機はもうない。あの霧と繋がったものはなく、手にはテープとレコードだけ。
永住したいと、本気でそう思っていた。
今はただあの思い出の霧を再生するだけだ。
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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。
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