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はらす
2026-01-26 12:08:39
2683文字
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忘バ
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20251219桐智 丸顔の女
2025/12/19桐智 敗北女話 2680字
大学生で同大バッテリーの付き合ってる桐智。智将は登場しないけど、要母が登場します。
「桐島、次はライブも一緒に行こうよ」
「練習ない時ならええで」
「えー、じゃあスケジュール教えてよ」
ゼミで目をつけていた男とちょっと良い雰囲気になり、その日の私は少し浮かれていた。昼からの授業が休講になったことをいいことに、ランチの後で駅前の買い物に付き合ってもらったりして。野球部でエースを張っているらしい桐島は私よりも二十センチ近く背が高く、筋肉はあるはずなのに着痩せするのかすらりと見える優男で、切れ長の目とさらさらの綺麗な髪が特徴的だった。格好いい。しかも、なんか、色っぽくない?流し目みたいなまつ毛のせいかな。なんかいつも意味ありげなんだよね。私は自分が丸顔で可愛いタイプなことをなんとなく気にしていて、自分にないパーツを持ったお洒落な男が好きだった。そう、桐島だ。
好みのガワをもつ男とクリスマスが近い駅前を歩く。寒くなるからとマフラーや手袋の小物を見たり、買う気もないスマホケースを探したり。手を繋ぐほどではないが、時折肩が触れるほどの距離で。いいじゃんいいじゃん。デートみたいじゃん。
地元が大阪だという彼は関西弁で芸人みたいにお喋りな反面、喋りすぎても下品にならず、人付き合いも器用にそつなく過ごす姿が格好いいと、春から密かに狙っていたのだけれど、いざ二人で出かけてみれば、車道側にさりげなく立つ仕草も、車から私を庇う素早さも、荷物の重さを気遣うタイミングも全てのタイミングがスマートで完璧だった。やり慣れているのか男にありがちなドヤった顔をすることもない。さらりと自然にやってのける。嘘だろ、これで好きにならない方がおかしいじゃん。はやく次の約束取りつけないと。
そう焦った時だった。
「あらー!イケメンくんじゃない!きょうも顔がいいわねえ」
小柄で明るい雰囲気のおばさんが抱きつく勢いで桐島に近づき、いわゆるおばさんっぽい手振りで彼の腕をぱちぱちと叩きながら親しげに話しかけてきた。近い。近いよあんた。あんた桐島のなんなんだよ。
母親?
じゃないな
……
。そういう雰囲気じゃないし、顔が全然似ていない。垂れ目だし丸顔だし、桐島とは真逆のタイプだ。優しそうで可愛いけれど、血は繋がっていないはず。
友達のお母さんかな?
「お母さんこそ、今日も美人やないですか」
桐島はさも慣れたようにおばさんを「お母さん」と呼び、軽口を返す。やっぱり友達のお母さんなんだ。
ひとしきり、挨拶のようなじゃれあいのようなやりとりが続き、しばらくしたのちょうやくおばさんは、私の存在に気がつき、会釈した。
遅いよ、と思いつつも、期待する。これほどフレンドリーな感じなら「彼女?可愛いじゃない?」などと、ずけずけ踏み込んで聞いてくれそうだ。そしたら冗談ぽく「そうなんです!彼女なんです」と答えてやろう。既成事実じゃないけれど、こういう地道な種まきが大事だと思いたい。
「お友達と用事でもあった?」
が、おばさんは私の期待とは裏腹に「友達」をいくらか強調して言った。おかしいな。
「そうです。ゼミの人なんですけどね」
桐島もにこやかに答えて笑う。
喉の奥が急に乾いた。
ああ、分かっちゃった。
これ、きっと彼女のお母さんだ。
口を挟む隙がない私が黙って立ち尽くしていると、おばさんは「あ、じゃあ、私、スーパー行かなきゃ」と言い出した。なんの脈絡もない唐突な発言だったが、私はもう突っ込む元気もない。聞いた桐島はその発言には慣れているのか慌てることなく「よかったら荷物持ちしますよ」などと申し出る始末で、私は泣きたくなったけれども、どうしようもない。
おばさんは、いいからいいから、秋斗くんまたね、と言って小走りに向こうのほうへ去っていった。桐島は優しい顔で見送り、手を振った。なんていうか、家族や飼い猫に向けるようないい笑顔だ。
くっそ。そんなんもうとどめじゃん。完敗じゃん。私をここに埋めてくれ。
「そういえばさあ」
喋るつもりなんてなかったのに、思わず口からこぼれ出た。唸るような低い声。
「ん?」
そういえば、こいつもいたな?という雰囲気を隠さず、桐島は頷く。
「好きなタイプは、丸顔の垂れ目の子って、さっき言ってたよね」
そう。言ってたのだ。ランチの時に。聞いて浮かれた私に早く教えてやりたい。それは彼女のことなんだって。
喜ぶどころか、悲しめよ、と。
「なに?急に?」
「さっきの人、丸顔の垂れ目だったから、思い出して」聞いた桐島は苦笑して、そうね、と呟いた。
はあ、勘のいい男が好きだと思ってたけど、やっぱり嫌いだわ。
「ねえ、わたしも垂れ目の丸顔なんだけど?」
駄目押しのつもりで桐島に投げかける。なんでだろう。
聞かずにはいられなかった。もう、良い雰囲気になれとは思わないから、せめて茶化して笑いにしてくれ。じゃないと私が失恋したみたいじゃん。
でも。聞いた桐島は一瞬眉間に皺を寄せ、すぐに胡散臭い笑顔を貼りつけた。
「佐藤も可愛ええやん」と静かに微笑んだけど、目の奥は全然光っていなかった。ああ、もう、今日はおしまいだ。
キャンパスに戻る道すがら、桐島に話しかける。
「あのさあ」
「んー?」
肩が触れそうなほど近かった距離は絶妙に離れ、知人として失礼ではないが、自陣には絶対に入り込めない距離を保っていた。むしろ傷つくんだけど、その態度。もうすっかり他人の距離にいる私には、ぜんぜん気を遣っていないのがわかる。まあ、仕方ない。たぶん、私はこいつのブラックリストに記録されたのだ。なにかの、ブラックリストに。
「彼女って、うちの大学?」
「は?」
やべ。その話題、やっぱり触れたら駄目だった?
ブラックリストというよりもデスノートに書かれた私の名前が濃く大きくなったのが脳裏に浮かぶ。やばい。
私こいつにそのうち消されるかも。
焦る私の隣で、桐島は首を傾げ、しばらくしてから俯いた。
ああ
……
彼女ね。ひとりで納得したように笑った桐島は見たことのない可愛い顔をしていた。そんなに好きなのかよ。
「学部はちゃうけどなあ、学年も違うし」と呟く桐島の顔は、さっきの無防備な顔のままだった。
くっそ。
なんだよそれ。
だから今まで見たことないよ。桐島が作りこんでない自然な顔をしてるところなんて。
今までは、全部わたしたちに見せたい作りこんだ桐島だったんだな、と思い知らされる。
だめだ。腹立つ。
この人の全部を知っているだろう彼女に腹立つ。
もう誰なんだよ。
明日絶対探してやるからな。あの丸顔垂れ日のおばさんにそっくりの年下女を。
〆
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