いつも鞄が大きいやつだと思ったら、日によって中身を入れ替えなくてもいいように、全ての授業の荷物を中に突っ込んでいるらしい。テキストとか重くないんだろうか。
思い返せば、必須テキストをよく周りから借りているやつだった。そもそもテキストは買わない派かもしれない。
鹿山の鞄の中からは、先週配られたプリントがテキストに挟まれてそのまま出てきた。テキストからはみ出した端っこの部分が折れてクタクタになってる。
「これかぁ」
初めて見たという顔で鹿山がそれを見つめている。
こいつ、同じ年度に卒業できるんだろうかとちょっと心配になる。
「それ。WEB提出だから直接やりに行ってもいいんだけど」
明日の授業が終わる時までに、専用ページから回答を入力して送信すればいい。だが学内専用システムにログインするのを面倒くさがって課題の確認を怠る俺や鹿山のような学生のために、内容をプリントしたものも配られる。
おかげでこうして駄弁りながら、課題をやっつけることができるということだ。
「PCまで移動するのめんどいよ〜」
「それな」
図書館かPCルームか、あとは課題提出のために語学室にもPCはある。だがそれらの部屋も当然飲食と会話は禁止されている。それなら時代遅れの紙と向き合う。テーブルの上に広げられるってのは、意外と便利だ。
大人になってから使うことはないだろう知らない言語と向き合う。
おそらく現地では簡単な言葉で書かれた扱いであろうエッセイ。その内容を読み取って質問に答えよというわけだ。
映画についての何かの文章のような気がする。
「これ、映画って意味だよな。映画なんとか……」
「監督?」
早いと思ったら、スマホのカメラを向けてGoogleに翻訳させている。
「ずる」
「え〜だって、せっかくだし」
教室でこんなことをやっていたら怒られるに決まっているから、今でよかったかもしれない。
「映画監督といえばさ」
「ん」
「なんか、いたよな」
「なにが」
「鹿山って。あれ、芸名、みたいなやつ違ったっけ」
「そなの? いや、見たことないかも」
「いや、いたぜ絶対」
「そういうのいいって」
調べたらすぐに出てくるのに、鹿山は急に真面目に課題に取り込むきになったらしい。
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