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ぐるさん
2026-01-25 21:24:53
3229文字
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1.24 ふみりかワンドロ【くじ引き】
ふみりかワンドロライ(@ fmrk_1draw)さんの2026.1.24 お題をお借りしました。
「理解」
「ッ、すみません。行きましょうか、ふみやさん」
「
……
うん」
こうして、何にも気がついてないフリをして声をかけるのも、随分慣れたものだと思う。
理解が先程まで見つめていた方向を見やると、賑やかなポップと景品が置かれた棚が視界に入る。
正式な名称は提供会社によって変わるかもしれないが、所謂「くじ引き」により手に入れる景品を決めるソレは、特に珍しい物では無い。
コンビニ、バラエティショップ、大きな本屋
——
種類を問わず探せば、今やどこにだって置いてある。
それを理解は、見かける度に足を止めて見てしまうし、その事を恐らく自覚した上で隠そうとしている。
理由は何となく分かる。多分、夏祭りで慧と一緒に出店を回った事だ。
前に、あの時の話題になった時に慧が話していた。理解がウジウジしてたから奢ってやったんだ、って。
その事に関して嫉妬とかは無い。何ならあの時は、そういう個々人の関わりみたいなのを狙って一人で抜けて皆を待っていた所もあるし。
それに理解と出店を回った時の事を話す慧の表情は、まさしく面倒見の良い兄貴分と言った感じで、むしろ理解と一緒に回ってくれて良かったと思ったくらいだ。
ただ、だからこそ、勝手に自分と比べてしまう。
あの時ゲームセンターの前で、理解を引き止められなかった自分と。
自分の人間性が素晴らしすぎるから悪事に手を染めてバランスをとる、そのために夜遅くのゲームセンターに入る
——
今思い返しても意味が分からない。
でも、そんな突拍子のない言動の裏にある大事な所、理解の心の柔らかい部分を俺は繋ぎ止められず、理解は俺の手を振り払って走り去ってしまった。
一応、特に大きなトラブルとかに巻き込まれず朝には帰って来たし、あの後なんやかんやでブレイクしたり良い感じにまとまったけど、それでもやっぱり考えてしまう。
何て言えば、あの時の理解にちゃんと伝わったのだろうか。どんな行動をとれば、理解は俺の手を握り返してくれたのだろうか。
どれだけ時間をかけて考えても、未だに答えは出ない。
だから俺は、くじ引きを気にかける理解に気づかないフリをして名前だけを呼ぶ。早く行こう、って急かすフリをして。理解が今、何を考えてソレを眺めているのかを考えない振りをして。
それがせめて、理解の心を傷つけない方法だと信じて。
◇◇
また今日も、理解はくじの棚を見ている。いつ声をかけようか見計らっていると、理解の表情がいつもと違う事に気がついた。
なんというか、キラキラ?している?くじ引きその物ではなく、景品の方をまじまじと見ているような?
一緒に景品の棚を覗き込むと、絵本のキャラクターのグッズがずらりと並んでいる。クッション、トートバッグ、マスコット
……
発売されて間もないのか、上位賞も全て揃っている。
何の気なしに棚を見回すと、不意に理解と目が合った。
「あ
……
」
バツの悪そうな、恥ずかしそうな表情で理解が俯いた。
「
……
理解」
「お、お待たせしてしまってすみません!さ、早く行きま
——
」
「それ、好きなの?」
頭の中にあった疑問がぽろりと零れた瞬間、理解が耳まで真っ赤になったのを見た。
やらかした。本気でそう思った。怒る?泣く?帰る?いくつもの最悪なビジョンが一瞬で駆け巡ったが、理解の言葉は意外なものだった。
「その、子供の頃、好きな絵本のキャラクターだったので
……
」
未だ俯きながらポツポツと話す理解は、ただただ恥ずかしそうな様子で、とりあえず最悪な状況は避けられた事に安堵する。
「もう良い大人なのに、すみません
……
」
ああ成程、そういう事か。理解はただでさえ「くじ引き」という概念に心の柔い部分を突かれているのに、幼い頃に好きだった物が組み合わさってかなり揺さぶられている。
しかしながら理解にとってそれらは子供のための物であって、大人が楽しむ物では無い、という前提があり、それによる罪悪感が湧き上がってしまった、と言った所か。
ここで、一切を見なかったフリして足早に去るのが、いつものセオリーだ。
でも今日は、それはいけないと直感が告げた。
「別にいいんじゃない?」
「
……
ふみやさん?」
「何歳になっても好きな物は好きなままでさ」
「でも
……
」
理屈は分かるが上手く呑み込めない、理解はそんな表情を浮かべている。つくづく難儀な奴だ。そういう所が好きな俺も大概だけど。
「
……
そんなに気になるなら、。一回引いてみる?」
「えっ!?」
「こういうくじって、ある程度稼ぎがある大人もターゲットにしてる所あるし、何なら俺も一緒に引くからさ」
なんて事ない風を装って言ってみたけど、正直めちゃくちゃ緊張している。
何せ今までずっと見守るだけだった理解の内側に、ようやく踏み込んだから。
そんな俺の気を知らない理解は、景品と棚を何度も何度も見て、ひとしきり考え込んだ後、ようやく口を開いた。
「お祭りでもないのに良いんですか
……
?」
それは、想像していなかった回答だった。でも、理解は至って真剣で、それでいて迷子の子供のような不安も滲み出ている。
「
……
理解」
「はい」
「くじ引きは、お祭りの時以外でやっちゃいけないなんてルールは無いよ」
「!!」
俺にとっては当たり前の事だけど、理解にとっては衝撃の事実だったようで、紅い瞳を大きく見開いて驚いている。
「だから大丈夫。やってみようよ、理解」
「
……
は、はい!!」
今から面接でも始まるみたいな礼儀正しい返事に微笑みを返してレジへと向かう。
店員にくじを二回と告げると、理解が「ここが自分が」と財布を出すのでそのまま任せてくじを受け取る。
「
……
ッ!!」
理解は真剣な面持ちでくじを捲ると、すぐさま顔を上げてこちらを見た。
「見てふみやさん!!」
理解が俺の眼前に突き出したのは、G賞と書かれたくじだった。
「G賞ですって!G賞!いやぁ、こういうのって当たる物なんですね!!」
それはハズレ無しのくじだから引けば全員何か当たるよ、とここで言うのは野暮だろう。
「ふみやさんはどうでした?」
理解に聞かれて手元のくじを捲ると、E賞の文字が出てくる。
「ふみやさんも!?」
すごいすごいと喜ぶ理解を店員は微笑ましく眺めながら、当たった賞の中から好きな景品を選ぶよう棚の前へと俺達を誘導した。
賞の中でも特に細かい指定が無いタイプか、と思いながらE賞の札がついた棚の一番手前にあったハンカチを手に取ると、理解もG賞のマスコットを手にしていた。
そのまま流れで店を後にしたが、理解はジッと手元のマスコットを眺めている。
「
……
理解?」
「ッ!?」
どうやら無意識だったようで、理解は慌ててポケットにマスコットをしまう。
「な、ななな何でしょう!?」
「それ、気に入った?」
マスコットが入れられたポケットを指さすと、理解はおずおずと取り出す。
「はい
……
」
はにかみながらマスコットを見つめる理解は何だか穏やかで、くじを引く前の不安な雰囲気は消えていた。
「なら良かった」
「ええ!」
改めてマスコットをしまってウキウキと歩き出す理解を見ながら、こちらもこっそりと胸を撫で下ろす。
正直、今日の行動が正しかったのかは分からない。
でもこうやって、一つずつ理解の奥底に繋がる部分に触れて、話して、解決が出来なくてもこうやって寄り添って、包み込む事が出来れば、とは思う。
「ふみやさん、どうかしました?」
「
……
何でもないよ」
冬の風は冷たく、春はまだ遠い。でも、雪解けが来ない日は無いと信じて今日もお前の隣に並ぶよ、理解。
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