2026-01-25 19:01:36
1101文字
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🌑

首絞めネタ注意/名前有り


 目を閉じて眠っているばんりさんの首に指を沿わせる。喉仏を触ってから側面の頸動脈を圧迫するように僅か、力を込めようとして、やめた。このまま首を絞めて殺してしまうことは多分そこまで難しくはない。それでもやはり躊躇われるのは何故だろう。できない、のではなく、躊躇いが生じる。わたしにとっての意味を、自分の手で止めることに。
 そのまま首に手をかけたまま、息が顔にかかるくらいの距離まで唇を寄せたところでゆっくりと瞼が開いた。驚くでもなく、何かを持つようにして視線が絡む。
「続けないの?」
 うん、と頷こうとしたと思う。けれどその前に唇を重ねられ、力の入っていなかった腕を取られたかと思うといとも容易く上下は反転していた。ベッドに残る万理さんの体温を背中に感じながら、まともに息をすることもできずに口を吸われる。万理さんの動作にはいつも無駄がない。この人が許さなければ、わたしが何かする隙はここにはない。
「ああ、それとも、俺にされたかった? いつきちゃんがしてほしいなら、それでもいいけど」
 いつもわたしを引いてくれる大きな手がわたしの首を撫で、指は正確に血管を押さえた。完全に呼吸ができなくなるわけではなかったが、息苦しさに恥じらいも失って口を開く。それを見た万理さんが再びわたしに口付ける。万理さんの舌が口の中を這っている感覚だけがわたしの認識できる全てになる。
 酸素が足りず、頭がぼんやりとするのに、異常な興奮で下着が濡れていくのがわかって気持ちが悪い。このままわたしを殺すことが、この人にはきっとできる。わたしと違って。それが嬉しく、どこまでも羨ましい。
 首で生が止まって詰まっていくような耳鳴りにも似た感覚がする。身体だけがわたしから切り離されたように停止して、指先に痺れに近い震えが走った。少し固い手の感触と、万理さんに似つかわしくない熱さだけがリアルで、その他の思考は回転し形を伴わずに溶けていく。
 ばんりさん。掴んでいられるものはそれしかなかった。世界が恐ろしく静かだ。反して、光が瞬く。耳鳴りのような高音がさざ波のように聴覚を奪う。あ、と何かを思ったその瞬間にそれは失われる。ばんりさん。これは水圧だ。顔が膨れるような心地がする。足の先が冷えていく。波に足をさらわれる。浮き輪はどこかへと投げ出される。しがみつくものを求めて口が動く。ばんりさん――
 突如、脳に酸素が送り込まれた。全部が真っ白に染め上げられる直前に首から手がはなされたのだと理解する前に、我も忘れて涙まじりに呼吸をしていた。背中をさすられていることに気付いたのは、それから数分は後のことだった。