2026-01-25 18:27:55
1131文字
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🐚

ばんりさんゆめ

「すごい、砂浜がきらきらしてる。なんで?」
「ガラスの破片とかかな? あとは貝殻とか、砂自体だと思うよ」
「へー……あ、割れてない貝殻あった。ほら」
「ほんとだ。綺麗に残ってる」
 指が汚れるのも構わずに砂の中から白い貝殻を掘り出す様子を見ながら、ウエットティッシュかなにか持ってたかな、と考えを巡らせる。
 俺も幼い頃はこうして遊んでいたのだろうか。それよりも玄関が砂っぽくなるのが面倒だった記憶のほうが強くて、無邪気にこの場を満喫している彼女の姿はなんだか新鮮だった。
 千と浜辺を歩いて帰っては、翌日二人分の靴を磨く羽目になっていたことを思い出す。
 砂はつくし、潮気でべたつくし、海辺での暮らしというのはきっと想像より良いものではない。それでも悪いものでもなかったとも思えるのは、学校やライブの帰り道、ギターを背負って二人で海を見て歩いた記憶があるからだろうか。
 彼女は欠けた貝をいくつも拾い上げては、やっぱりこれがレアだったんだね、と形の残った貝殻を手のひらで遊ばせている。俺もその隣にしゃがみ込んで、過去の残滓を探すみたいにきらめく砂をじっと見つめた。元の形もわからない光の粒が、足元に広がっている。長く暮らしていたはずなのに、初めて見るような気がして驚かされる。
「なんかさ、宝箱みたいだね」
 言われてみると確かに反射で輝く砂浜は、砕かれた宝石が一面に撒かれているようにも見える。
「綺麗な貝殻も発掘されるし?」
「そうそう!」
 海も山もないようなビルばかりが立つ場所で育った彼女には何もかもが特別らしく、俺にとっては当たり前に存在していたものの一つ一つに表情を変えている。俺は振り返って、昔はもっと寂しい場所のように感じていた気がする、とぼんやりと思う。
 過去の自分が抱いていたのは、広々とした開放感ではなかった。いつか全てが波に呑まれてしまいそうな、無力感に近い、空虚さのような何か。
 白い曇り空を、海に映る月の光を、綺麗だと感じられるようになったのは高校に上がる少し前からだ。音楽のことしか頭にない、神経質なトラブルメーカー。不器用で、それでいて何もかもに真っ直ぐな。
 きっかけは偶然で、けれどいつしか当たり前に隣にいた存在が、同時に俺がいてもいい場所になっていたこと。
「こんなに綺麗なところで育ったんだ、万理さんは……
 感動さえ滲ませるしみじみとした呟きに、勝手に笑いが溢れた。なんとなく触れたくなって指で頬を撫でると、困ったような、嬉しさを噛み殺すような微妙な表情で見上げられる。
 はしゃいだからだけではないだろう熱に、冷えきっていた指先がじんわりと温められていく。

「ね。俺も、久しぶりに来たらそう思えた」