John
2025-04-13 00:02:18
2162文字
Public 武新
 

変化

武新。
生前→SAITAMAの2人。

日毎 ひごと身にみて寒くなる。
朝晩 あさばんから冷え込んでいく。
木枯 こがらしが吹き始める。
新兵衛にとってこうまで寒い冬は、生きてきた中で初めての経験だった。

時は幕末、つい先ごろ石部宿 いしべじゅく二十余人 にじゅうよにんの志士が集い、 かん ぞく誅滅 ちゅうめつした。
田中 たなか新兵衛 しんべえもその内の一人に加わり、武市の敵を斬るべく刃を振るった。
その騒ぎで流れた血もまだ湯気を発するような時期だ。

その後、流石にやりすぎだ、と うえつかたから内々 うちうちにお おとがめがあったらしく、このところ新兵衛が武市の刀として振るわれる事はめっきりなくなっていた。
新兵衛は少し悩み始めている、石部宿の一件の前、新兵衛は国元への帰国を考えていた。
しかし、それを思い直して、武市の元に とどまり続けている。
留まらずすほうが武市の ために良かったのではないかと、新兵衛は悩む。
天誅をしないのなら、お役に立てない。
おのれは、らなくなればどうとでも始末してもらって、悔いはない。
そうも思っている。

ただし、そうなれば自分よりも岡田 おかだ以蔵 いぞうのほうが先にされるべき処分だと、また思考に登ってきた想いに新兵衛は腹を立てる。
以蔵は一刻も早くどうにかしてしまうべきだと思うが、と新兵衛は歯噛 はがみする。
彼はこのところ ひまに明かして以前より酒量が増え、女に おぼれ、昼夜を問わず素面 しらふの時がない。
新兵衛は、以蔵がどこか精神に異常をきたしたのではないかと疑っている。
虚栄心 きょえいしんがあり、軽薄 けいはく
つつみを壊す あり一穴 いっけつになりかねないと新兵衛には見えた。

そう憤慨 ふんがいを抱えながら、新兵衛は今日も武市の元を訪れる。
早朝、武市が寝起きしている部屋は随分 ずいぶんと寒かった。
軒先 のきさきに置きっ放しの水瓶 みずがめ こおりそうに冷えていたが。
昨夜の木枯らしで吹き散らされた落ち葉が浮かぶその水を、新兵衛は豪快に足の平へかけ洗ってから、 ふところの手ぬぐいで ぬぐって上り込む。
その間、眉一つ動かさない。
だが、部屋で文机に突っす武市を見た瞬間、新兵衛の表情が一変する。

「武市先生!」

どたどたと、 せまい部屋を一跨 またぎにするように武市の元へ行き、新兵衛はその肩へ手をかける、着衣のえとした感触に身がすくむ。
彼へ心酔する男にとっては僥倖 ぎょうこうか、新兵衛が危惧 きぐしたような事は、武市の身に起こっていなかった。
ただ疲れから、筆と すずりに向き合い文章を つづる間に、再び眠ってしまっただけのようだった。

「もうこのような ときか、恥ずかしい姿を見せたな」

苦笑いを浮かべながら、武市は本気で恥じらっているようだ。
そして、支えを断って立ち上がろうと、新兵衛の手に触れた。
その瞬間、武市の顔が珍しく驚く、ただその驚きのままという風に、言葉がふっと紡がれた。

「君に添い寝を頼んだなら、温かそうだ」

言っていただければ、私は添い寝ぐらい、いくらでも応じます先生。
そう思う新兵衛だが、ただ黙っていた。
ただこっそりと、重ねられた手へ、新兵衛は更に手を重ねた。
武市の冷えた肌を温めるようにしながら新兵衛は、地獄だろうと、どこでも武市の側を離れず付き従おうと決めた。



維新都市SAITAMAの冬、窓の外は木枯らしが吹き荒んでいたが室内は暖かい。
四六時中求めれば得られる オレンジの光源が余計に温もりを感じさせる。
配管を通して魔力が暖房器具に供給され、囲炉裏 いろりよりも速やかに、芯から温まる熱が部屋中に満ちている。
その勤王党本部、ソファの上できっちりとしたスーツ姿のまま武市は横になっていた。
睡眠のいらないサーヴァントとはいえ精神は疲労するようで。
とはいえ、いつも ゆるみを見せない武市がこのようなところで横になっているのは、よほどの疲れを感じさせる。

アサシンのサーヴァントである新兵衛は、音もなくその体にブランケットをかけたが、武市の目はパチリと開き、新兵衛の手を つかんだ。

「お休みのところ、申し訳ない。お邪魔をしました」

去ろうとしても、武市は新兵衛の手首を離さなかった。
そして。
寂しさをあからさまに目に浮かべた。
今は部屋に二人きりとはいえ、新兵衛の目にも珍しい武市の様子だった。
新兵衛が武市の様子に驚いたまま硬直していると、機械音だけが響く静かな部屋に、武市の声が響く。

「君だけは変わらないな」
「先生」

京と同じく底冷えがするはずの内陸地の部屋は、自分たちが生きていた頃からは想像もつかない未来を得て、隅々まで暖かい。
もはや自分の肌は熱源としての用は為さないだろうに。
武市の一挙手一投足から にじむ新兵衛を たよる様子に、許されていると思って此度 こたびも武市の そばにいるのだ。

離れない手に妙な希望と興奮を覚えて、新兵衛は自らの心を なだめた。