John
2025-01-06 22:41:19
4681文字
Public 武新
 

星の

武新。
カルデアの二人。
ちょっとメタなネタ風味のものがあります。

「田中さんがどこにいるか、かい? 見てないね」
「陰気なムキムキマンなら昨日は話ししたな」

武市瑞山は、食堂にいた坂本龍馬とお竜へ田中新兵衛を見なかったかと聞いていた。
まだ食堂はクリスマスの装飾をされていないが、下準備は着々と整えられているようだ。
壁際に積み上げられたダンボールには飾り付け用の資材が入っているのだろう。
彼らは少し遅い朝食を食べていた。

「師走に走り回りよるんは、あまり洒落にならんぞ、武市先生。ついに新兵衛から愛想つかされてしもうたんやないか?」

龍馬の向かいに座っていた以蔵が訳知り顔でニヤニヤしながら憎まれ口をたたく。

「以蔵さんはまたそういう事を言う。田中さんに限ってそんな事はないと思うけど」

龍馬が苦笑する。
お竜が至極当然のように述べた。

「呼び出せばいいんじゃないか? 通信機器 ケータイは持ってるんだろ」
「いや、呼び立てたい訳ではなくてな。朝の鍛錬 たんれんからすぐ戻ってくると思ったのだが」

しかし、武市はお竜の指摘にゆっくりと首を左右に振り、手の中の包みを見た。
黒いフェイクレザーの箱に、高級ジュエリーの趣で銀のリボンを上品にかけられたプレゼントがある。

「あー、それ、言うとったやつか」

以蔵が、なぜか笑いを堪えながら眉を しかめる。

「今日は吉日なので渡すに頃良 ころよいと思ったのだが」
「わしは新兵衛に何もいうとらんぞ。まあ里帰りじゃクリスマスじゃあ始まるきに、確かに今日あたりがええんじゃろうけど」

その包み似合わんじゃろ、と以蔵はついに笑い出す。
龍馬が思い出したように武市へ話しかけた。

「そういえば武市さん、里帰り、今年も僕たちと一緒に土佐へ行くのでいいんだよね?」

それに、武市はさらりと返事をする。

「後で連絡する」
「わかったよ」

その後、これ以上この場所では新兵衛の情報を得られないだろうと、武市はさっと きびすを返して去って行った。
向かう先はシミュレーションルームのようだ。
後ろ姿を見送りながら、お竜は龍馬に言う。

「お竜さん達は土佐に帰るが、陰気なムキムキマン、また一人だけ別の所に帰る事になるんだな。お竜さんも高千穂じゃなくリョーマの故郷に帰るから、あいつもタケチにくっついて土佐へ行けばいいのにな」

◆◆◆

シミュレータールームに近い通路で、武市は伊東甲子太郎と服部武雄の二人に出会った。
武市が声をかけるより先に、伊東は武市に言葉を発した。

「やあやあ、おはようございます。武市先生でよろしかったですよね」

緑の瞳を笑顔に隠して、飄々 ひょうひょうと優男が述べる。
普段穏やかで落ち着いた雰囲気の服部が、珍しく興奮気味に武市へ述べた。

「貴方のお弟子さん、という訳ではなかったですか。ともかく、よく連れ立っていらしゃる田中さんと先ほど手合わせの機会を得ましたが。いや、世の中にはまだまだ使い手がいらっしゃる。是非また手合わせの機会を得たいですね」
「朝の修練で偶然居合わせて。お引き留めしちゃったんだよね。ほら、シミュレーター内って偽りだけど真剣勝負が出来てしまうじゃないですか。せっかく居合わせたのでご一緒しませんかって模擬戦形式でやり合ってたら、服部君と田中君が盛り上がっちゃって。結局、シミュレーターのレンタル延長してまで勝ったり負けたりずっとやってて……服部君もそういうの好きだよね、ほんと、試合フェチ?」

ぺらぺらと怒涛のように喋って説明した伊東は、最後のあたりで笑顔を崩し、少しげんなりした顔を作った。
服部は伊東の様子を意に介さず、さらりと述べる。

「強者との手合わせ、高揚しませんか?」
「僕はあんまりそういうのは」

服部の態度に伊東は苦笑する。

「田中君はまだシミュレーションルームにいたのか」

武市は伊東の怒涛の喋りから、必要な情報のみを拾い上げ。
二人の脇を通ってシミュレーションルームへ向かおうとする。

「武市さん、お待ちなさい。おそらく田中さんは既にシミュレーターから引き上げていらっしゃるかと」
「そうそう、だから僕らもこうして帰路についているんです。探させちゃったんですね」

歩みを進めようとした武市は呼び止められ、部屋で待っていた方が早かったと気づくと。
自分の浮き足立ち具合にため息した。

◆◆◆

さて、朝からドタバタと浮き足立っていた武市は、やっと新兵衛との相部屋へ戻って。
すれ違いで先に部屋へ戻っていた彼と向き合って正座をしている。
話があると言ったら居住まいを正されて。
そのまま真剣な顔で膠着 こうちゃくしてしまった。

新兵衛と武市の部屋は畳敷きの小上がりが作ってあるのだが。
そこへ彼らは、お互い正座で改まって向かい合っている。

「里帰りなどもある上、クリスマスパーティなどで忙しくなる。故に、君にこれを渡してしまいたくてな」
「先生、ありがたき幸せ。謹んで拝領させていただきます」

新兵衛は正座から深々と頭を下げ、頭を下げたままで武市からのプレゼントを捧げもつ。

「開けて中身を見るといい」
「は、では失礼して」

新兵衛は武市からの賜り物を紐解く。
本来であれば、持ち帰ってから解くのが日本式というところだが。
このところ二人はこの部屋で共同生活しているし、武市が中を見ろというなら新兵衛にとってそれが第一優先になる。

「アマゾネス.comで探して見繕ったのだが」

シックな黒の箱に銀のリボンを解いて中から出てきたのは。
なんとスーパー◯ァミコン実機用のカセット、星のカー◯ィ3!
箱、取説付きの完品だ!

「!!?」

田中新兵衛は予想外の出来事に固まる。
武市はうっすら照れた顔をしながら喋り始めた。

「君は以蔵とよくこういったゲームで遊んでいるのだろう? そしてこれは、持っていないのだと聞いてな」
「は……ッ、先生……っ、それはッ」

そう、武市は一度も誘われたことはないが、以蔵と新兵衛はよく共にゲームをしているらしい。
それは事実だった、武市はよく知らないが、彼らは俗にレトロゲームと言われる部類をスーパーファ◯コンの実機を使ってやっている。
以蔵と新兵衛は、押しも押されもせぬ名作とその界隈では名高い星の◯ービィスーパーデ◯ックスを特に気に入って、セーブデーターが消えては猿叫を響かせつつ飽きもせず100%にして遊んだりしているのだ。

その以蔵から事前に綿密な聞き取り調査を行い、武市がクリスマスプレゼントとして選んだのが、これだ。

新兵衛がこのゲームを持っていなかったのは、一重に。
スーパーデラック◯の後続作品でありながら◯ーパーデラックスより一般的な評価が劣り、実際、世界観の毛色もかなり違うため少し触って欲しくないと思ったからであった。
そんな、いうなれば新兵衛にとって微妙なゲーム。

「こ、これ、は……
「田中君、この後、この部屋で……

意を決したように武市は言葉を紡ぐ。

「TVゲームをしないか」

当然、義弟に拒否はない。

実機を持ち出し、液晶モニターへ繋ぐ。
三色端子は変換器を噛ませ、最新の薄型機器へ画像と音が投影される。
完品とはいえ、中古カセットによくある話だが、以前の持ち主のデータが消されずに残っていた。
あまり深く考えず、新兵衛は適当なデータを選んで、操作を試す為少々難易度が上のステージへ入る。

「この、黒……藍色? か? の物体が動くのだな。ほう、随分と動作に茶目っ気がある男だ。『ぼく』を名乗るそうだがいい心掛けだな。おお、血肉色の舌で捕食するのか!」

武市は思いの外はしゃいているようだ、おそるおそるボタンを押しては感心している。
新兵衛は。
ああっ! 武市先生に◯ーイを操作させているなぞ、おいは、おいは……
ところでそのでかい餡ころ餅かばくだんむすびのような奴も桃色の玉も性別は不明扱いなのです、先生ッ、争いの種ですので何卒外でそのように仰らぬよう……
などと内心雲耀の速度で思考が巡っているが、一言も音に表せずいる。

「先生! こちらが主役ですのでどうか主役を先生が」

武市に2Pプレイヤーをさせている事が耐えられなくなった新兵衛は、そっとカー◯ィの操作をさせようとコントローラーを差し出す。
そしてグー◯のコントローラーを武市の手から受け取ろうとする。

「い、いや。以蔵が、な。田中君のほうが上手いだろうから桃色の物体は田中君へ遊ばせるよう助言をくれた。私がこの、何だ、握り飯に似た泥団子のような面妖の者を遊ぶのが良いと。ん、死んだのか? 落下してそのまま」
「そこは飛んでください!」
「飛ぶ?」

何のためらいもなく みぞへダイブしたまま何が起こったかすらよく理解していない武市に、新兵衛はつい大声で述べる。
整った顔中に疑問符をちりばめた武市へ声を荒げた事に、新兵衛は即座に自ら腹を切りたくなるほど自己嫌悪しうずくまった。
腹筋の割れたでかい薩摩隼人は、コントローラーを投げ出してダンゴムシのように畳へ背を丸めてから、全ての感情を乗り越えて再びシャッキリと正座に戻った。

「は、失礼しました。武市先生へこのように言葉を発するなど……ッ」
「ところで、これで終わりなのか、田中君」
「あ、いえ。ご安心ください、また出せます」
「面妖だな」
「はい、 あやしきモノです。そして、失礼します先生、こう、しますと飛べます」

武市の持っているコントローラーへ脇から手を出し、新兵衛はジャンプボタンを教えた。

「ほう、面白いな」

武市は覚えたてのジャンプを真顔で繰り返し、空中ホバリングしている。

「では、進めよう」
「は、はい」
「以蔵からこういった遊戯 ゆうぎは『横スクロール』と言って、スタートとゴールがあると聞いた」
「随分、詳しくお尋ねになられたのですね」

筋骨隆々の薩摩隼人から、妾に入り浸る夫へ放たれるような色を帯びた言葉が漏れる。
さすがの武市も新兵衛から以蔵への嫉妬を感じざるおえない。

……以蔵以蔵と話の引き合いに出すのは、この場では控えよう。つい、な」

だが、新兵衛としてはその気持ちを察して貰いたくもないのだ。
面倒な恋心である。

「いえ、何も悪いことなどは、先生」

一瞬、気まずい空気が流れるが、ゲームを楽しんで進める間にそれも忘れ去られていく。
新兵衛は改めて、自分たち用のセーブデータを作成し、二人は一からゲームを始めた。
武市は操作もすぐ上達した。
根本的に大抵の事は人並み以上にこなせるタイプの人間だ。
新兵衛は、さすが先生と感動した。
そして……

思った以上に楽しい、侮っていた。
新兵衛は次第にそう思った。
それは当然、武市と遊んでいるからもあるのだが。
このカー◯ィ3、スーパーデ◯ックスが出来過ぎていただけで、ボリュームの点からいっても決して見劣りするものではなかったのだ。

2時間ほど二人は遊び、空気もほぐれたあたりで、少し休憩しようという話になった。
二人はコントローラーを置いた。
武市はポツリと新兵衛へ述べる。

「後一つ、言っておきたい事があるのだが。その、今年は、田中君と共に、カルデアで年末年始を過ごしたいと思ってな」
「武市先生……
「どうだろうか、君も、今年は里帰りせずに」
「先生……!」

この後二人はめちゃくちゃ大晦日もゲームをしたらしい。