John
2024-09-21 23:57:47
4286文字
Public 武新
 

祭りの幻

武新。
カルデアでの2人。
武新以外はカップリングではないのですが脇役がたっぷり出てきます!
一応カップリングまではこの話だと無いのですが、土佐の龍馬さんとお竜さんと以蔵さんがナチュラルに仲良しで、伊東先生と服部君はバディです。

「わあ、シミュレーターの再現はいつ見てもすごいね」
「購入して喫食 きっしょくできる屋台もあるようだな」

坂本龍馬は感嘆し、武市瑞山はいつもと変わらない風に述べる。
遠くに大鳥居が見える神社の参道へ、色とりどりの屋台とたくさんの人が集っている……ように見える。
カルデアのシミュレーションルームが作り出す、精緻 せいちな幻だ。
とはいえ、人混みの大勢は祭りを楽しむカルデアのサーヴァントだったが。

「どうせならカエルを焼く屋台を一つ作ってくれてもいいのにな。お竜さんは提案したぞ。ちゃんと屋台案募集のアンケートにも投票した」
「何をいうちょるがか、この女は。マスターの日本の一般的な祭りを再現しようっちゅう大前提が崩れるがな」
「ダーオカを丸焼きにして食べてもお竜さんは構わないぞ」
「まってまってまって、二人とも待って、ね。まだ一つも見て回らない内に出禁になっちゃうよ」

お竜と岡田以蔵がいつものように喧嘩しそうになり、龍馬は慌てて二人を止めた。

「で、そのマスターは」

武市は誰とは無しに問うと、彼の義弟が即座に答えた。

「あちらに居るようです」

皆、田中新兵衛が しめしたほうを見る。
龍馬が感心する。

……田中さんの言う通りだ。さすが、目がいいね」
……

だが、その褒め言葉には無言しか返らない。
代わりにお竜が会話を繋いだ。

挨拶 あいさつに行くのか?」

和装のマシュとマスターは、遠目から見ても楽しそうに祭りを満喫している。
水風船や綿菓子などを手に持ち、すでにきゃっきゃとはしゃいでいるようだ。

「いや、ありゃやめちょけやめちょけ。今行くんは、野暮 ヤボじゃろ。ちゅうか、挨拶の すきちが屋台やらの影にいっぱい ひかえちょろう」

以蔵が案外、目端 めはしくことを述べた。

「以蔵さんわかるの? ……あ、ほんとだ。隠れきれてない人たちもいるね。僕もわかった」
「おまん目え良くないじゃろ、ようわかるの。抜かして行ったら死ぬほど面倒やきの」
「あ、高杉さん、空気を読まずに堂々とマスターと話し始めたね……
「ほうっちょけ。さて、酒買うてこよ。祭りは呑むためにあるんじゃ」

以蔵は、これで話は終わりとばかりに、腕を伸ばし。そのあと後頭部で組むと、ふらふら勝手にどこかへ行くようだ。

「イゾーは祭りじゃなくても呑んでるだろ」
「祭りじゃない日も呑むためにある、祭りの日ぃも呑むためにあるんじゃ」
「無茶苦茶だぞ」
「あはは……武市さんたちは、別で回るかい?」

以蔵を見失わないように付いて行こうと動き始めた龍馬とお竜は、立ち止まったままの武市と新兵衛へたずねる。
以蔵がそのやりとりへ割って入った。

「おうおう、別がええじゃろ、武市は呑めんきの。陰気な赤毛と一緒におってもハレの日が台無しじゃし」
……フン」

新兵衛は、本当は以蔵へもっと食ってかかりたかったが、武市の手前我慢をする。

「お神輿は」

龍馬が別れる前に、確認のように言葉へすると、以蔵が後をついで会話を切り上げた。

「そうじゃ神輿は担ぐんじゃろ、新兵衛。後でのう!」

そのまま、二人は以蔵に引っ張られるように人混みへ混ざって行く。
武市は神輿とやらの件を聞いていなかったため、怪訝な顔をした。
義弟の件で把握していないことがある自体、珍しいのだ。

「神輿?」
「ええ、あとで少し……お側を離れても」

新兵衛はばつが悪そうにする。

「君は、その。この場所では私を気にせずに」
「そ、それは」

どうにもぎこちない。
ともかく二人は、連れ立って祭りを楽しむこととなった。

べっこう飴、りんご飴、カラフルなドリンクたち。
かき氷を食べれば舌が染まり、かと思えば唐揚げやイカ焼きの誘惑に屈する。

武市は普段とは違う浴衣を着ている。
新兵衛は面頰 めんぽおを付けずに はかまをはいた和服だった、彼は着流しを着たがらなかった。

やがて、やっと緊張がほぐれてきたあたりで、アナウンスがかかる。
神輿 みこしを担ぐ人は境内の所定の場所へ、というアナウンスだ。

「行ってきなさい」

武市は優しく背を押すが、新兵衛は恐縮しながら参加しに行く。

やがて、参道で待つ武市の前に勇壮な神輿が現れた。
グラフィック班もかなり気合を入れたらしい。
きらびやかな飾りが陽光に眩しく、美しかった。

だが、武市にはそれより、神輿を担ぐ義弟の汗と筋肉の躍動が美しく見えた。
新兵衛は半股引 はんだこに祭り法被 はっぴ、サラシを巻いて、その姿がまた、そのために産まれて来たかのような似合いっぷりだ。
驚いた事に、神輿は新撰組のメンバーも、日本に無関係なサーヴァントも北斎も誰も彼も気にする事なく参加していた。
皆一つの神輿へ手を添える。
中には、鉄兜に全身謎のタイツ様衣服で袴という妙な格好の偉丈夫もいる。
担がれて行った神輿は時々、止まり。
揉め、の掛け声と共にうねるように大きく揺られ。
さらにその次には高く上へ放り上げられては受け止められるという豪快な動きが繰り返される。

「激しいな……
「でしょ。江戸の祭りは激しいんですよ」

うちわで涼をとりながら見ていた独り言に、返答があり、武市は驚く。
警戒していなかったとはいえ、みればずいぶん腕に覚えがありそうな立ち姿の美男子が、すぐ隣にいる。
品の良い、外は鼠色に裏地が紫の着流しで立っている。

「日本サーヴァントみんなお神輿どうやって担いでたか覚えてない、ってなっちゃってですねぇ〜。もっと高速でぐるぐる回りながら移動してたとか、常に放り投げてたとか、もう無茶苦茶なエキセントリックアレンジを言い始めて。流石に激しすぎる、芸術っ気があるのはいいけれどそれはマズいでしょ、って僕が担ぎかたのレジュメと再現データ作成に一役買ったら江戸深川風になっちゃった」

男は、やはり江戸紫に銀で鼠が描かれた扇子を気品ある動きでそよそよと動かしつつ、怒涛のように喋っていた。

「僕も担ぎたかったんですけどね〜。そういう手前、何か異常があった時に再現を止める権限もらっちゃって。だから担ぐほうに参加せず付いて見てなきゃいけなくて」

あ、申し遅れました、と男はどうにも胡散臭く見える笑顔で言う。

「僕は伊東甲子太郎と名乗らせていただいています。武市……瑞山、先生ですよね」
「ああ、名乗るのが遅れ、失礼を」
「いえいえ〜、僕の方こそ済みません喋っちゃって」

甲子太郎と名乗った男は、ますます胡散臭い笑みを深める。
そして、武市から神輿へ目線を移した。

「あれが田中君? 人斬り新兵衛、かぁ」

何故か、名前を把握されている。
武市の内心には警戒が生じ始めた。

「服部君ほどじゃないけど彼、すごいね〜」
「伊東先生、そういう言いかたは良くありません」

いきなり背後から、落ち着いた男の声がした。
発声の位置がかなり高いため、上背があるとわかる。

「うっわ、君。気配遮断は無いはずでしょ?」

武市も輪をかけて驚く。
振り向くと、最初に神輿を見たときに妙な担ぎ手がいると思った、鉄兜の男だった。
近くで見ると、でかい。

「そちらの御仁、伊東先生が失礼いたしました。私は服部武雄と申します。この人はこういうところがあるのです。先生、良くないですよ」
「服部君。さっきまでお神輿担いでたんじゃ!?」
「神輿を担ぎたがる人が多く、少し過密なので。譲って抜けてきました。先生と一緒に付いて歩きますよ」
「そう?」
「はい」
「うふふ、じゃあ行こっか……あ、武市先生、これお近づきの印に」
「鬼の面……
「そ、僕は狐さん」

良く見れば、甲子太郎という胡散臭い優男 やさおとこは、後頭部に狐の面を洒落た角度で着けていた。

「貴方がたは鬼……ま、僕からすれば新撰組だって大概鬼だと思うけどねぇ」

二枚の鬼の面を武市に手渡すと。
彼を一人残して、二人が去って行く。
武市は、妙に……そう、妙にその姿を うらやましく思った。

「鬼か……

ふと義弟を、神輿を担ぐ人混みから探す。
太い担ぎ棒を肩へ担ぎ上げ、周りに負けじと声を張り上げている。
普段は武市に注がれている意識が、今はさっぱり向いていない。
珍しいと言えた。
田中君は、夢中で神輿を担いでいるな。
そう思うと、武市は不思議と、胸が痛いほど寂しい。
このまま、祭りが終わるまで彼我に別れるのだろうか。
武市は思う。
勇壮な田中君の姿はとても誇らしかった。
だが、なんだかとても……

意識を祭りに持って行かれているはずの義弟が、ふと、武市の意識を感じたかのように視線を合わせて。
なんと、神輿から抜けて、武市の方へ来た。

「先生」
「田中君、君が疲れたということも無いだろう」
「あ、いえ」

新兵衛は珍しく、いいよどむ。

「私は、先生の義弟です、ので」

だが、決心したように言葉を紡いだ。

「神輿を担ぐより、先生と祭りを」
「そうか」

武市は、妙に幼く無邪気に心が踊るほど嬉しかった。
だが、素っ気なく平静な声音しか自分の口から出ない。
己でも驚くのだ。
内心慌てて、何か話題を繋ごうと武市は考える。

「面を貰った、揃いだ」
「鬼、ですか。一緒にかぶりますか」
「ああ……

面をつけて、非日常に歩く。
ふと、武市はこれまで口にできなかった心情を声にしたくなってしまった。
長州勢の提案で、義弟を捨て駒とする事に決めた、あの時の事……

「私は、いつでも君と同じ がわに居たかった。共に駆けていけると思っていた」

急に何をいうのかと、武市は自分でも思う。
これもまた、卑怯だとも。

「今更、惨めな言い訳だ。だが、私と真の意味で共に来てくれるのは君だけだと思っていたのに。それを捨て駒に切り捨てろと……結局私は君を」
「先生、武市先生の最後を私は存じております。ご立派に義を果たされた。そしてこうして、同じところにいるのです」

新兵衛は、武市の言葉を遮る様に、きっぱりと述べた。
なんだ、彼は強くて熱くて、私はなにを不安におもっているのか。
武市はそう感じると衝動的にその手を掴んで握った。
新兵衛の手のひらは、武市に、今初めて触れたわけでも無いのにやたら大きく感じた。
熱い、湿っている。
二人は互いに指を絡めて、硬く手を繋ぎ合い、身を寄せ合って歩いて行った。