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John
2024-08-31 23:31:11
2153文字
Public
武新
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竹取る隼人
武新。
現パロ。
恋人同士の武新が2人で温泉に浸かる。
この話はフィクションで、温泉は架空のものです。
夜の海岸は思いの外、危険です。
円
まる
い月の明かりに照らされて、穏やかな
潮騒
しおさい
の満ちる海は
濡
ぬ
れた海岸線を広々と
晒
さら
している。
今日は満月の大潮。
よく晴れているが、鹿児島湾の夜空には桜島の
噴煙
ふんえん
がたなびく。
シャツの腕をまくった背の高い黒髪の男と、赤髪の筋肉質な大男が、冷えた溶岩を思わせる黒い色の砂浜にいる。
大男の筋肉は現代人とは思えない太古の息吹に似た力強さで、濡れた砂の重さも物ともせずスコップを振るう。
色の白いもう1人の男もかなり鍛えているようで、手伝って穴を掘っていた。
月明かりに汗を光らせ、
零
こぼ
しながら、赤毛の男が低く太い声でスーツの男に話しかけた。
「湯が出る
箇所
かしょ
が、かなり限られてまして。私も爺さまに何度か教えてもらったっきり。大正時代に埼玉へ一族で引っ越したという話で、鹿児島の縁者を尋ねることも今ではめっきりなく。昔の記憶です」
スーツの男も、手を止めず言葉を返す。
「思った以上に海岸近くを掘るな」
「ええ、大潮の時しか掘れない場所でなければならない。大々的に有名な場所もありますが、いつしかここは忘れられて行き。おそらくもう、私ぐらいしか」
「養子でも、と私たちがならない限り、君の代で終わりか」
申し訳ない事のようにスーツの男は言い、そこで手を止めた。
2人は恋人同士で、2人とも男性である。
「武市先生、この場所へ細々と湯が
湧
わ
く事が知られなくなったところで、危険な場所でもありますし。気に病むことではないです」
赤毛の男も手を止め、額の汗を腕で
拭
ぬぐ
う。
そうして、明るく爽やかに歯を見せて笑った。
その口調が、故郷の
訛
なま
りを
帯
お
びる。
「掘り出されて
浸
つ
かられようが浸かられめが、湯にとってはどっちでん関係がなか
……
先生とこうして浸かりに来れて、それで
終
しま
いで丁度いいですよ」
やがて、茶褐色の水が、大きく掘られた穴の底に溜まり始める。
海水が
滲出
しんしゅつ
しているだけかもしれないと思いながら、2人は恐る恐る手を差し入れ。
確かに湯だと確認すると。
無邪気に顔を輝かせて見つめあってから。
下に着てきた海水パンツのみになっていそいそと湯に浸かった。
大人の男2人で掘ったとはいえ、ガタイもいい彼らには
狭
せま
く。
浸かれば肩が触れた。
ふう、と息を吐き、鍛え上げられた体を労わるように手で湯を肌へかけてから、赤毛の男
……
田中
たなか
新兵衛
しんべえ
は言う。
「私の祖先は漁師だったという話で、偶然、見つけたのでしょう。その頃は漁場に近く、疲れを癒すのにおそらく重宝した」
しばらく波の音を聴きながら、2人は湯を堪能する。
新兵衛は夜空を見ていたが、武市は月明かりを浴びる恋人の肉体を盗むように横目で見ていた。
やがて、湯に負けない熱がこもった声音で、ため息の後に感嘆の言葉が呟かれる。
「田中くん、君は本当に、薩摩隼人というのが似合う良い肉体だな。眩しい」
湯に濡れて月明かりに輝くような、鍛えられた肉体が武市の目には眩しい。
「先生こそ、いつも、お綺麗で。夜に輝くような」
薩摩隼人は幾度、閨を重ねても慣れない心地で、恋人の視線に恥じらった。
その恥じらいを
躱
かわ
すように咳払いをして、月と桜島を見上げ、新兵衛は言葉を紡ぐ。
「武市先生
……
教授のご専門とはちょっと違う話ですが、輝くと言うので思い出しました」
武市の職業は大学教授だ。
「なんだね」
「あのかの有名な古典『竹取物語』ですが。鹿児島の隼人が竹細工の職能の為に京へ移住させられ。それによって紡がれた話が元にあるのでは、という説があるそうです」
「ほう」
「中央から隼人と呼ばれた民が、服従し、一部が移住させられた。物語の成立時期、成立したとされる場所と、それがかぶるとか」
武市は新兵衛の視線の先を辿る。
白く煙る噴煙は夜空の星を隠し、月まで届くかのようだ。
「では、最後に帝へ送られた薬が
焚
た
かれ、天に煙が上るというのは。富士山が当時噴煙を上げていた、などよりむしろ、今見ている桜島が原風景としてあるかもしれないというのか」
「まあ、どこまで真相でしょうかね、先生」
新兵衛はそう言って、はにかんだ笑顔を明るい月夜に見せる。
「隼人族、と言われる民が住んだと言われる地域には、確かに指紋など他地域とは異なる特徴がある。という研究もあるらしいですよ」
濁った湯で濡れた手を月明かりに照らし見て、薩摩隼人は続けた。
「武市先生、もし、もしも、ですよ。その特徴が人でないものが混じっているから、だとしたら」
「え」
ばしゃり、と思わず武市は水音を立てるほど、狭い湯船の中で新兵衛へ向き直った。
「どうしますか? 私もいつか月へ帰らねばならなくなるのやも」
沈黙が支配して、やがて、武市は冗談だと理解して。
苦笑しながら、抗議をするように名を呼んだ。
「田中君
……
」
やがて2人はどちらからともなく、釣られたように笑い。
夜の海風に2人きりの笑いが交わされ。
少し笑いが落ち着いてから。
新兵衛は、はっきりと、武市へ述べた。
「冗談です、先生。私が帰る場所は、先生の隣です」
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