John
2024-04-21 01:58:09
3809文字
Public 武新
 

土佐マンスレイヤーFC

武新、今年4/1ネタアプリの『Fate/Dream Striker』世界での二人。
『昭和キ神計画 ぐだぐだ龍馬危機一髪! ~消えたノッブヘッドの謎~』と『Fate/Dream Striker』のネタバレを含みます。
脇役がわんさか出てきます。
イゾーさんも居ます。
マスターはマスター呼びです。

「わしは覚えちょれゆうたじゃろうが!」

日焼けした肌によく似合うハーフパンツのサッカーユニホーム、カルデアのマスターにとっては見慣れた くせっ毛と外套 がいとう ひるがえし、彼は再び目の前に現れた。
ダーククリプターを次々と倒し破竹の勢いで瘴気の穴を目指す一行 いっこうの前に、岡田以蔵ともう一人、日当たりの良い芝生の上ではあまりにも暑そうな全身黒いスーツの男が立ちはだかる。

「我々は『土佐マンスレイヤーFC』、君たち、以蔵のボールを返して頂きたい」

黒いスーツの武市瑞山はあくまで理知的に、つい、良いですよと言いたくなる真っ当なことのように述べた。
眉目秀麗を絵に描いたような男は龍の染め抜かれたストールをたなびかせ、彼がいる場所だけ気温が低いような涼やかさだ。

「ごめん、返せない」

カルデアのマスターは即答する、サッカーはボールを奪い合うのだからまあ奪って悪いことはない。
この世界で唯一のサッカーボールを瘴気の穴に蹴り込み、 ふたをすれば、ラフプレーの横行したこの世界に平和が訪れる……とマスターたちはオベロンから教えられている。

「このボールは……

会話を続けようとしたマスターの言葉を さえぎり、けたたましい猿叫が晴れ渡るフィールドへ響く。

「先輩、危ない!」

マシュがマスターへ体当たりして、はね飛ばされたマスターの代わりにグローブをした両手で白熱する何かをがっしりと受け止めた。
球形のそれは凄まじい回転が止まった途端に燃え尽き、灰となって芝生の上へ落ちる。

「私の初球を止めるとは、娘、何者だ」

どうやら気配遮断からの不意打ち……とんでもないラフプレーだ……を仕掛けてきたらしい筋骨隆々の大男は、重々しく眉ひとつ動かさず告げた。
太すぎる足の筋肉、ハムストリングスでサッカーパンツをはちきれんばかりに膨らませ、ハーフパンツがまるでスパッツのようだ。
足だけではない。
肩も小山のように盛り上がり、鍛錬でイジメ抜かれ大きく育てられた筋繊維は服の上からでも見て取れるほど深く溝を刻み、キレている。

「でかい! 肩に桜島大根でも育ててるのかい!?」

ダ・ヴィンチ女史が思わずという風に叫ぶ。

「武市監督! ここは私にお任せを」
「田中君」

大男、田中新兵衛はどうやらキーパーらしい。武市の前へ通さないというように移動すると。
グローブを鳴らし、両手を厚すぎる胸筋の前で打ち合わす。
闘気をさらに吹き上げて臨戦態勢だ。

「サッカーの監督ってなんでスーツなんだろう」

マスターが場違いに呑気な疑問を口にする。

「諸説あるみたいですよ、先輩」

マシュが無難な回答を即座に返す。

「そんなこと話してる場合じゃないだろう、来るぞ!」

カドックが冷や汗をかきながらもっともなツッコミを入れた。
キックオフを宣言するように、鳶色 とびいろ蓬髪 ほうはつをいつものように後ろでまとめている人斬りが吠える。

「さあ、死合 ゲームを始めようではないか!」
「これまでと同じように、ボールを蹴り当てればこちらへ引き入れられるはずだ!」

カドックが重ねてもっともなアドバイスをする。
マスターが渾身の一撃を真正面から新兵衛へ蹴り込むが、それは易々と止められ炎をまとった剛球となってマッスルな腕から投げ返される。
マシュが両手で再び止めたボールは、くすぶり、白煙を立ちのぼらせていた。

「先輩、もう一度シュートです!」

煙の収まったボールを、マシュはマスターの足元へ投げ渡す。
マスター、マシュ、新兵衛の間を、スポーツ漫画や映画でしか見たことがないような衝撃波と炎をまとったボールが行き交っていた。
そこに以蔵も加わり小型犬が何匹も乱舞する。
心胆を寒からしめるような猿叫もまた響き渡る。
武市監督は腕を組んで二人の様子を背後から見ている、動く様子はない。

「このままでボールが保つのかね?」
「これじゃサッカーというよりドッヂボールだ!」

カルデアのゴルドルフ新所長とダ・ヴインチがむしろ今まで触れられなかった事が不思議なほど当たり前の発言をした。

「マスター! こちらに回せ、僕も攻撃に参加する」

戦況を見ていたカドックが戦場 グラウンドへ小走りで加わる。
しばらくそれでもカルデアと土佐マンスレイヤーFCとの戦いは拮抗していたが……

「カドック、パス!」
「ナイスパス、絶妙だ」

カドックは以蔵と新兵衛がごく近い立ち位置にいる瞬間を狙っていた。
冷気をまとった一撃が、ボールに手を出しやすいような角度で新兵衛へ向け放たれる。

新兵衛はごく当たり前のようにそれをがっしりと受け止めた。
冷気が周囲に弾け、新兵衛の身体と以蔵の身体が凍りついて芝生のフィールドにい付けられる!

「べっ、べこのかあ新兵衛! なして止めたがや!」
「この程度、気合いで何とでもなる!」

新兵衛はなんと、霊基を燃やして魔術を無理やり引き剥がし身体をおおう氷を破砕した。
陽光に美しく輝く炎と氷、美しさとは裏腹にまさしく身を削る行いだ。
太い豪腕はマスターを狙い、渾身の一投を投げ返す。
しかし鉄壁のマシュを抜く事ができない、ボールはマシュの手から再びカドックへ……

「先に不意打ちしたやつが卑怯だなんて言うなよ、狙いはこっちだ!」

カドックのボールが武市へ向けて蹴り放たれる。
新兵衛の片手がかろうじてそのボールに届いた。
彼は再び凍らされるかもしれないなど考えもせず、武市が自分で防げるかもしれないと思うまもなく義兄の身体を守ったのだ。
だが無理な体勢と冷気の足止めが残る身体はボールを止めきれず、新兵衛の手へ当たったボールが離れ、地面へ落ちていく。

「取り落としました! ボールが地面に付きましたよ!」
「討ち取った!」

マシュとマスターが喜ぶところへダ・ヴィンチのツッコミが入る。

「だからそれはドッヂボールのルール!」

だが、新兵衛はがっくりとうなだれて地面へ膝を付き、武市と以蔵も無念の表情をしている。

「いいのか、これで……

カドックが呆れたように呟く。
新兵衛は怒りに染まった表情で、血涙まで流して叫んだ。

「おいは、武市監督の組以外、所属すっ気はなか!」

シリアスなシーンにマスターの小声がツッコミを発した。

「組って言うと一気に反社会的勢力感が」
「先輩、組と書いてチームです、あくまでサッカーチームです」
「他人に使役さるっ前に腹あ さばッ! 操立 みさおたてツ!」

そうこうしているうちに、薩摩隼人は決意の表情で正座し、今にも切腹しようとしている。
一体どこから脇差を取り出したのか。

「やめるんだ田中君!」

それまで冷静に見ているだけだった武市が、ストールを翻し、新兵衛へ駆け寄った。

「二度と君を、君をそんな。……腹は召すな、もう十分だ」

武市の手が、新兵衛から脇差を奪う。

「武市監督……ッ」

二人、視線が合わさり見つめあってから。
どちらからともなく、強く腕を回して抱き合った。

「そもそも、他チームの優秀な選手を試合前に暗殺していた事がもう公になってしまった。流石にレッドカードを受けたこのチームは、多くの退場者を出し既に試合できる人数が揃っていない。以蔵がボールを奪われずとも我らの負けは決まってしまったのだ」
「それは、ぐっ。信長の首さえまだ手の内にあれば……! 同志は尽きなかったものを」
「無限に補欠を頼めた時代は終わったんだ、田中君」

感動的に抱擁 ほうようする義兄弟二人の会話を聞いて、カルデア全員に呆れた空気が流れていた。

「やけんど、ゲーム楽しかったねや、新兵衛」
「おいは、おいは……武市監督に優勝杯を」
「新兵衛……田中君、君だけでもカルデアに移籍してサッカーを……

そこまで聞いていたマスターが、すっと冷静になって。
そこは本当に譲れないと声をあげる。

「いいえ、嫌なものは無理強いできません、田中さんは武市さんじゃないと嫌なんですよね」

といって、首を横に振りながら更に言葉を紡ぐ。

「ただ以蔵さんのボールは返せません、この世界をこのままにはできないから」
「わしのタマ、獲られたままなんか」
「命取られたわけじゃないんですから、以蔵さん」

マスターは以蔵の言い様に苦笑いしながら返す。

「この世界を変える為に、か。君たちも現状に焦りを覚え、この世界を変えんと高き志を抱く者であったか」

武市は、新兵衛との抱擁を緩め。
しみじみと共感したような言葉を述べる。

「夢は永遠に見続けるものではないと……我らは死者、真にこの世を変えられるのは生きた人間だ」
「ラフプレーの氾濫する瘴気溢れた『聖杯ワールドカップ』をそのままにする訳にはいかないですから」
「? 今、何か噛み合わなかった気がするが、まあ、いいだろう」

武市はすこし不審を覚えた顔をしたが、もはや自分の関与すべき事ではないと思い直したようで、高らかに宣言する。

「負けは負けだ、行くがいい、若人よ!」

カルデアは土佐マンスレイヤーFCとの死闘を制し、彼らの期待をも背負って勝ち進んだ。
その先に、どんな結末が待ち受けているか、今は知らずに……