John
2024-02-18 00:11:51
1231文字
Public 武新
 

甘い日

カルデアに召喚され済みの武新。
バレンタインデー。

「田中君、これは」
「今日は、ばれんたいんでぇ、なるものだと聞き及びましたので。敬愛する先生へ」
「君が作ったのか」

武市 たけち瑞山 ずいざんは、筋骨 きんこつ隆々 りゅうりゅうの肌を惜しげなく さら薩摩 さつま隼人 はやとの、太い指に つかまれた箱を見る。
黒の艶消し包装紙が上品にかけられ、銀のリボンで飾られた箱だ。
無骨な手に不似合いな上品さは、黒い洋装 スーツを着た武市の手へ渡った途端、そこが最初からの居場所であったように馴染んだ。

「至らぬもので、お口に合うかは判りませんが」
「ここで開けても構わないか」
「え、ええ」

面頰 めんぽおを付けた人斬りの表情は、見える箇所 かしょだけでもわかるほど かしこまって緊張している。
彼は、生前人斬りの同僚だった以蔵 いぞうからきつけられて、今日のため日夜努力を重ねてチョコレート菓子を作成した。

龍馬 りょうまが、ここカルデアで再会した幼馴染の武市のため。
カルデア一大イベントと化しているバレンタインに中々気合の入ったチョコレートを用意している、と、以蔵は酒の席で話した。
先輩風を吹かせながら「おまん、このままでええんか?」などと絡む以蔵としては、龍馬のことだから友愛の範疇 はんちゅうでの事だろうと当然思っていたが。
それはそれとして龍馬に対しても結構な嫉妬心をこじらせている新兵衛を刺激して、もどかしい二人の間に進展があればという、以蔵なりの素直ではない応援だった。
果たして新兵衛は、あまり得意ではない製菓も細かい細工物も、真摯に時間を作って特訓した。
武市の手の内で、その成果物が着物を脱がされるように開けられていく。

「ほう」

表情の変化に とぼしい武市の口から感嘆の声がれる。
箱を開けると、丸い色紙に見立てた黒いチョコの板へ、ホワイトチョコの花びらとミルクチョコの枝で見事な白梅が描かれている。

「先生の絵に比べますと つたなさで贈ることも はばかられましたが」
「いや、 おもむきある図だ。絵は描くことも観ることも好ましく思っている」
「先生の脇差、 つばの細工であったり。また、よく画題にされて描かれている梅を想って作成いたしました」
「そうか、だが食べてしまうのは躊躇 ためらうほどだな」

義弟からの真摯な情を、形にして手渡され、武市は心底満足そうな笑みを浮かべる。

「あ、余った材料で気軽に口に出来るものも作成いたしました。先生、こちらを」

新兵衛は、甘い物好きな武市が食べることを期待していたかと焦り、自分で食べようかと思っていたトリュフチョコを急いで差し出す。

「共に食そう、田中君。その、私からも贈り物がある」

恥じらいながら、白い指を汚して菓子をつまむ武市の意外と俗な仕草に。
新兵衛は、そのお姿だけで十二分すぎる返礼になります、などと思いながら赤くなるのだった。