「我々が京で攘夷を主張する二年も前に、海を渡りアメリカまで旅した勝海舟らはこのようなものを食していたとは。完全に敗北を味合わされた気分だ……っ」
「先生ッ……!」
「泣くな田中君……!」
ここはカルデアの食堂。
武市瑞山は田中新兵衛を連れて、キッチンスタッフに『アイスクリン』を所望した。
自分の生きた時代への向き合い方は、サーヴァントそれぞれ違うらしい。
武市は、義弟とともにカルデアへ召喚されてから、カルデアのライブラリ……特に自分たちの生きていた時代……を良く渉猟 していた。
今だからこそ俯瞰 できる全ての動きを知りたいのだ、と。
あの混沌とした渦中では、結局、翻弄 されるばかりだった時代の流れ。
自らの力で切り開き、あるべき方向へ打ち進んだと信じ、その苛烈 さをよすがとして駆け抜けたが。
サーヴァントとしてカルデアで義弟とこうして再び巡り会い、彼は己の過去を、死後の自分として見つめ直す必要性を感じた。
『あいすくりん』と言われて、キッチンスタッフのほとんどは『アイスクリーム』なら冷凍庫にある、と出そうとしたが。
エミヤだけは「『アイスクリン』が良いんだな、なら作ろうじゃないか」と言って、二人に夕食のデザートまで待つように言った。
かくして、二人は。互いに約束していたシミュレーションルームでの鍛錬に休日の昼を思うざま費やし。
食堂へと戻ってきた。
そうして、今。
冷たく薄黄色でシャリシャリとした食感ののち、さらりと口どけがよく。濃い甘さとミルクの風味がふしぎと重たく感じない、香りも良くするすると食がすすむ美味なものと。
同じく冷たくバニラの香りがする、濃厚でこってりした食感の、滑らかな白っぽい美味なものとを同時に食べさせてもらっていた。
「現代の日本においては『アイスクリーム』と『アイスクリン』は別のものを指す。日本人は都合と自分たちの食味で、アイスクリームを独自に変化させてしまった。今ではそちらの方を『アイスクリン』と呼ぶ。太平洋戦争による食文化の断絶や再輸入された『アイスクリーム』に押される形で絶滅の危機に一時瀕したそうだが、土佐などでは生き残って、今では物珍しさから特産品として愛されているという話だ」
二人並んでアイスを食し、敗北宣言や滂沱 の涙を互いに示しあっていた義兄弟の後ろから咳払いがあり。
二人がはっと振り向くと、少し照れ臭そうにエミヤが説明をした。
「一人一人違うことは当たり前で、だからこそ軋轢 は無くならない。誰か大勢の幸せの為には、別の誰かが死ななければならない……。なにより、人理というこの世界の大きな構造自体が汚れ仕事を許容している」
エプロンをした弓兵は、ぐっと真面目な顔で、目に暗い影を落とした。
「生前散々、苦しんだろうに。もう一度こんな場所に召喚されようなんて君たちに、歓迎のサービスさ。私は『アイスクリン』も嫌いじゃない」
カッコつけた様子で、エプロンの裾をひらめかせ、弓兵は踵を返し手をふって去っていった。
「少しご自分に酔っていらっしゃったような」
「田中君、ご厚意をいただいたのだから、あまり失礼は」
「あ、はい」
謎のシンパシーから一方的な同情を受けて、何故か励まされたらしい様子に、二人は少し唖然としてから。溶けかけた冷たい菓子をまたひとさじ食べた。
武市は、甘さに冴える思考で、しみじみと言った。
「……だが、まあ……例えいかに開国しようと、変化しようと。『何か』が残った、それは無くならない。ということだろうか。日本、日本人、というような何かは今も息づいて、それは消そうと思ってもむしろ消えない。そういう励ましかもしれないな」
アイスクリームもアイスクリンも、そちらのほうは舌に乗せればするりと溶けて形を無くしていた。
「アイスクリンがある世界が現代なら、是非、取り戻したいな。田中君」
「先生、どこまでも、お伴します」
二人はしかと見つめあった、その目に新たな希望の光を灯して。
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