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John
2023-11-25 18:46:20
2569文字
Public
武新
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もみじおろし
武新、現パロです。
お鍋が美味しい季節ですね。
作中、具体的なシーンはないですが、二人に肉体関係があることの明言があります。
暖房が効いた暖かな部屋に、男が二人。
卓上ガスコンロへ土鍋を据えて囲んでいる。
片方は一人暮らし用のコタツがずいぶん狭く見えるような、大柄な男で、やたらかしこまって正座も崩していない。
コタツ布団を膝にかけただけで、煮え立ち始めた美味そうな鍋を見つめたまま緊張している。
もう一人は、肌が白く端正な顔をしていた。黒い髪を几帳面に整え、役者のように美しい顔立ちの男は、鶏肉や鱈が湯気の内に揺れる様を見ている。
あまりあからさまな表出ではないが、その顔は機嫌の良さを隠しきれていない。
彼らは初めて身体を重ねてから、かれこれ三ヶ月程度という間柄だった。
赤毛の大柄な男、田中新兵衛は、コタツの小ささが際立つような身じろぎをして。
鍋の煮立つ音だけが響く事に耐えかねたのか、言葉を発した。
「煮えてきましたね、武市先生」
新兵衛は、武市が弁護士だと聞いてから、先生、先生と武市を呼ぶ。
その武市瑞山は、鍋の湯気が涼やかに見えるほど、落ち着いた様子で言葉に応える。
「そうだな、田中君、そろそろ取り分けよう」
「あ、しかし、その
……
」
「良いだろう? 今日は私が、君を初めて部屋に招待して振る舞う形だ。折角、気兼ねないようこうして」
武市はそこまで言うと、容赦無く小皿とおたまを確保してしまってから。
鍋をかき混ぜ、良い匂いの出汁をかき分けて、塩梅を確認しつつ言葉を続けた。
「鍋にしたのだ。君は手料理をまた振る舞うと言っていたが。今の君の様子からしても、やはりそれでは、共に食事をするという形にはならない」
「ぐ
……
ぅ」
新兵衛は、なにやら呻きながら、行き場のない手を空中でもどかしげに浮かせたまま固まっている。
武市は、淀みなく小皿に鍋を取り分け始めた。
「私は君と一緒に食事をしたいのだ、田中君」
最初は、男同士の相手を探す場で出会った。
そういった出会いと関係性は、ただ肉体の欲を満たす関わりに終始し、一度会えば二度はない事も多いものだが。
身体の相性も良く、彼らは何度も互いに連絡して二人の逢瀬を重ねていた。
しかし、常に自宅以外の場所で会ってコトを済ませて、別れる関係性だった。
互いに仕事すらしばらく明かさずにいた。歳と、二人とも独身であることと、どんなプレイが好みか。
そして互いの身体や振る舞いが気に入ったことだけが、お互いに理解できていた。
そんなある日、普段はいそいそとコトが済めば別れる間柄だったものが。
ふとしたはずみで、服を着てホテルを出た後も共に居て、食事をするという流れになった。
そこで、新兵衛はやたらと詳しく料理の味に感想を述べたのだ。
それでやっと、新兵衛の仕事が料理人だという事実が話題にのぼった。
話が進むうちに、新兵衛は緊張した面持ちで、今度家に来て自分の作った料理を食べないかと誘った。
武市は初めて新兵衛のアパートに行き、手料理をふるまわれたのだが
……
。
新兵衛は終始、武市に給仕するばかりで。
コップが空けば飲み物が注がれ、皿が空けば下げられるという、上げ膳据え膳ではあったが。
キッチンに立つ新兵衛へ話しかける状態で、席を共にするという形とは程遠かったのだ。
武市はそこで、もっと親密に話ができる状態を自分が期待していたこと。
新兵衛ともっと親密になりたいと思っている自分を、しっかり認識してしまった。
そんな武市は、また手料理を振る舞うと申し出た新兵衛に。
今度は自分の住むマンションの部屋に来て、共に食事をしないかと提案したのだ。
「は、はい
……
」
「先に箸をつけて食べていて構わない、もっと楽にしてほしい」
武市は、新兵衛の前に鍋を取り分けてから、微笑みを作って述べる。
そして、おもむろにコタツから立ち上がり、冷蔵庫を開けに行った。
武市が戻ると、新兵衛は促された通り、ゆずを使ったポン酢を付けて一口目を食べている。
「私は鍋に紅葉おろしが好きでね。これは出来合いではなく、作った。このくらいなら君も口にして、職業病が出たりはしないだろう」
武市は別の小皿に、色鮮やかな紅色の山を築いて新兵衛へ差し出した。
「そ、そのような。鍋、美味しいです」
「君は構わず酒を飲みなさい。飲む人なんだろう、田中君。ちゃんと言った通り自分のお酒を用意して来たね」
鍋が煮えるまで冷やしていたビールも、武市は冷蔵庫から持って来たのだ。
新兵衛は顔を真っ赤にして、まだまだ遠慮がちに、鶏肉を口に運んでいる。
武市は新兵衛の買って来た酒を取ると、空けてコップに注いでしまってやった。
「あっ、先生
……
!」
「さて、私も食べるとしよう」
次第に食事は進み、結局、新兵衛は酒に口をつけ。後は互いに自分で鍋をとっては、箸を進める。
はふはふ、あつあつとうまいものを頬張るうち、武市は新兵衛の硬さが少しずつ溶けていく事を感じていた。
無言で微笑を、目線を交わしあう。
きっちりと正座していた足も崩れて、互いに和やかな空気になってくる。
それはコタツと鍋の魔力かもしれない。
「武市先生、先生はもしや出身が四国のかたですか」
新兵衛は、おもむろに言葉を紡ぐ。
「ああ、そうだよ。料理で判るかい、田中君」
「ええ、葉にんにくが鍋に入ってます。これは美味しい」
「あらかた具が減ったらうどんをいれようじゃないか、いいだろう?」
新兵衛の顔に、歯を見せた大きな笑みが浮かんだ。
少しいたずら心が湧いて来た武市は、コタツの中で足を新兵衛の方へと伸ばした。
しばらく探って、やっと大きな足の指へたどり着く。
靴下の上から足指を触れ合わせられた新兵衛は、目を丸くして驚いた顔をしたが。
そのうち応えるように足を添わせて来た。
「君はげに可愛い男や、新兵衛」
武市は、自分の生活にずっとこんな時間があればいいと願っている事に気づいた。
「腹一杯食べて呑んで寝てしもうてもえいが、この後を楽しみにしちゅうなら、程々にね」
笑顔と視線を向けられ、言葉で誘惑された新兵衛は鍋で上気していた顔をさらに赤く染めた。
色づいた紅葉のように。
「先生は
……
まっこてよかにせじゃ
……
」
新兵衛は、足の親指と人差し指の間に入り込んだ武市の指を、くっと手でも繋ぐように強く挟み込んだ。
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