John
2023-10-13 19:02:52
2559文字
Public CP無し
 

義兄弟

あくまでタケチ+シンベエの義兄弟SSです。
カルデアでの二人、戦闘シーンがあります。

せっかくなのでカップリングではなく趣向を少し変えたものも。

「キェエエエエエエ!!」

田中 たなか新兵衛 しんべえの一撃で縦に割られたゴーレムは、駆動 くどうするためけられていた魔術も吹き飛んだようで、がらがらと土石 どせきに戻って小山 こやまをなす。
成人男性の背丈を優に超え、大柄な新兵衛よりなお巨大なゴーレムを構成する巨石までも、バターのように断ち切られていた。

「チェストォオオオオオオォ!」

まばたきもせず、彼は雷光の判断で次の獲物へ切り掛かる。
標的と定められたホムンクルスの、分厚く丈夫な肉へ刀が振り下ろされる。筋力が成せる息もつかせぬ五月雨 さみだれ斬撃 ざんげき
新兵衛の無骨 ぶこつな刀が ひらめくたび、弾性ある肉体をものともせず、 やいばが切り込んでゆく。

だが、相手もやられてばかりではない。
強靭 きょうじんな生命力は、 ねばり、間合いが開いた すきを拾って。
白い腕が残像のみしか とらえられない突きのように するどく伸びた。

新兵衛の身を つらぬかんと槍のように せまる。
しかし。

「ふん」

一言の気合いで、新兵衛はその腕を切り落とした。

「下手に伸ばすから もろくなる」

言いながら再び間合いを詰めて振り下ろされた渾身 こんしんの一撃が、ホムンクルスの身を完全に二つへ斬った。

一方、武市 たけち瑞山 ずいざんはスペルブックを複数体相手にして苦戦していた。
粗方 あらかた倒したとはいえ、 かわそうと動いても動いた先へ発動する雷撃や火球を避けきれず。
空を浮く、素早い動きを捉えることにも苦慮 くりょしていた。

「これでまた一体」

なんとか捉え、地へ落ちた紙束が、再び浮いて来ない事を目視する武市。
息があるのか見極めのコツも、どうもまだ つかめない、と武市は内心で思案 しあん めぐらせる。

その時、最後に残ったスペルブックが光を帯び、魔術発動の予備動作を始めた事に気づくのが遅れた。

「!!」

スペルブックの魔術は、武市の目の前へ雲耀 うんようの速さで割り込んだ薩摩 さつま隼人 はやとの一撃でなんと消し飛び、かき消えた。
そのまま新兵衛は目にも留まらぬ速さで、魔術を放ったスペルブックを叩き伏せる。
最後の一体が動かなくなってから、武市はやっと義弟の名を呼べた。

「田中君!」
「先生、大事ないですか」
「ああ、手間をかけた」

武市の霊衣 れいいにはげた あと、攻撃を受けた ほころびがある。

「先生、お怪我 けがを」
「なに、シミュレーターだ」

カルデアに召喚された二人は、戦闘訓練を自主的にこなす事が多く。
この日もこうして慣れないエネミーを選んで、シミュレーターにこもっていたのだ。

「私はどうしても、刀同士の戦いに特化した技術に馴染 なじんでいる。こういう場面では君に遅れをとるな」

はじを覚えたような武市の様子に、間髪 かんはつれず、新兵衛はまっすぐな言い様でべる。

「私は、先生がいらっしゃるというだけで、どのような死地にも おもむける心地です。どうぞ、ご命じ下さい。再びこうして刀とれて、斬る事でお役に立つ、筆舌 ひつぜつにつくしがたき幸福です」
「田中君……

武市はそれから目線をそらし、しばらく考え込んでいたが。

「君は、私を立てすぎるきらいがある」

自らとなんら おとるところのない、 ほこらしい義弟に、言うべき事があるとを決した。

「君は強い、素晴らしい男だ。そしてとても私に良くしてくれ、尽くしてくれる。生前、知らず私はそれに胡座 あぐらをかいてしまっていた」

鬼のような面頰 めんぽおの新兵衛は、目を丸くして。
義兄のしおらしい様子を見る。

「土佐の上士 じょうしが権力を かさに着て横暴三昧 おうぼうざんまい、その狼藉 ろうぜき、許せぬと、私たちは立ち上がった。だがどうだ? 先生、先生と したわれ へつらわれれば、いつのまにか相手へ傲慢 ごうまんに振る舞うようになるのだな。私は君を……人はなんと……いや、私はなんと みにくい人間であることか」
「武市先生……

言われて、新兵衛にもわからなくはなかった。
人間というのは立場の型にはまって、そのような形になってしまう所がある。
良くいえば順応性 じゅんのうせいであるが。
そうだと役割を与えられれば実際に罪や権利がなくとも、囚人 しゅうじんは囚人らしく、看守 かんしゅは看守らしくなってしまうのが人というものだった。

「ずっと言いたいと思っていた。私は兄分で君が弟分だが、君と私は義兄弟。あの ちかいの日から、家族兄弟のようなもの。いや、義理の さかずきは血よりも強い きずな……
「武市先生、ではお言葉を受けて、失礼いたします!」

バン、と、武市の背を新兵衛の大きな手が力一杯 ちからいっぱい たたいた。
その後、大気を ふるわせる大声が、周囲に ひびき渡った。

「兄さあ、きばいやんせ! 過去ん事は仕方なかど、大事なんな今じゃ。自慢ん義兄 あにと世ん中ん為に戦えておいは嬉しか。背筋をしゃんと伸ばして、おいとまたけしんかぎぃこっ、世界ん為にすっぞ」
「田中君……

にかっ、と、新兵衛は面頰をとって笑った。

「はははは、わからんですよね、先生!」

武市は武士たるもの、涙など流すべきではないと教育を受けており。
素直に感激して泣く義弟と違い、顔色も滅多 めったに表さない武家の男であったが。
この時、涙腺 るいせん ゆるむのを感じた。

「いや、元気が出たとも、田中君」

それでも、うっすらいた涙をこぼすまいと、武市は こらえた。
新兵衛はそんな義兄を見て取り、さらにからりとした笑みを深めた。
鬼歯 おにばが鋭い口元でも、大きな目元でも、 かげりなく笑う。

「せっかく今、私たちはいるのですから、前を向いて精一杯 せいいっぱいをしましょう。知恵 ちえてるのがいいんですよ、ある意味で」