John
2023-08-28 23:02:57
1304文字
Public 武新
 

SAITAMA61号

ぐだぐだ危機一髪時空、SAITAMAの武新です。
筆者は育苗について何もかもミリしらで書いてます。
最後は少しせつない終わりかた。

「田中君、例の白いあれは順調に生育されているか」

黒い洋装 スーツに龍の襟巻 ストールをし、青白 あおじろい顔をした堅気 かたぎではなさそうな男が、 するく冷たい刃のような美しさでそんな事を言えば不穏 ふおんさしかない。

そんな言葉に、これまた恐ろしげな面頬 めんぽお筋骨隆々 きんこつりゅうりゅうとした半裸の男が重々しく答えた。

「ええ、久しぶりに地下プラントをご覧になられますか? 同志 キンノブ達に管理を任せ、販路 はんろの確保と集金に先生が専念されてから大分経ちますが」

勤王党本部へ戻ってきた武市瑞山と田中新兵衛は、連れ立ってその本体とも言える地下へと降りていく。
完全オートメーション化した闇饅頭製造工場 やみまんじゅうせいぞうこうじょうや、饅頭開発室 まんじゅうかいはつしつなど ありの巣のように枝分 えだわかれした地下室は実直なキンノブたちが せわしなく仕事を行い。
高杉重工の維新饅頭に勝利するべく日夜饅頭を出荷していた。

その一角に、天井を植物育成灯で おおわれ、緑が あふれる一室がある。

そう、これは……

彼らが栽培している……バイオシロアズキだ。

バイオ、シロ、アズキ……だ。

武市瑞山は白餡 しろあんにこだわるあまり、ついに上物の練り切りを生産できるようにするべく白小豆の種を発芽させ農業試験場のような事まで行ったのだ。
そうして5年間のうちに、生育スピードも取れ高も魔術的な作付け品種。バイオシロアズキ、SAITAMA61号の開発に成功していた。

「問題なく青々しいな。誇らしいものだ、田中君。この開発品種で我々は高杉の維新饅頭に勝とう」
「ええ、必ずや勤王饅頭に、先生に勝利を」

武市瑞山の舌は、維新饅頭の味を完璧と言えるまでに模倣 もほうするだけでは満足しなかったのだ。

田中新兵衛は思い出す。

最初は育苗用のポリポットへ、土をき、種を二つ植える事から始まった。
瑞々 みずみずしい萌黄色をして、小さく薄い双葉が土の上に伸びてきた時は、先生も相好 そうこうを崩して。
愛しいもの、慈しむべき幼いものへの情で目を輝かせていた。

近隣の農家に逐次 ちくじやり方を聞いて育てていたが、二つとも芽生えた場合は発育の悪いほうを間引かねばならぬと聞いた時は、先生も悲しそうな顔をしたものだ。
先生は強きものを間引き、弱きほうを守り いつくしみたがる、そんなような気質のかたなのだから。

田中新兵衛は思う。

止めても土まみれになる武市と小豆を育て、数限りなく試作品を作っては食べる日々も、悪くはなかった。
少し わだかまる心情はあれど、随分と楽しかったのだ。

どうか永らえて、今生は必ずや勝利を。
そうも田中新兵衛は想う。

一説には、大納言小豆は腹割れしないので、腹を切る武士ではなく大納言と名が付いたという。
今の新兵衛は、武市が自分の死後に本来どういう最後をげたか知っていた。
どうか二度と、そのような最期を迎えないて欲しいと、そう願ってすらいるのだった……