John
2023-01-02 00:02:27
2191文字
Public 武新
 

一陽来復

カルデアの武新。
マスターと高杉が脇役で出てきます。
キスシーンと戦闘シーンあり。
戦闘シーンはありですが流血は描写をほぼしてないです。

背の高いヤブツバキが空を埋めるほど群生した林に、男の猿叫が響く。

「キエェェェェエ!」

身の厚い剛直な刀が、ためらいなく振り下ろされ。
重く速い一撃は、邪鬼の小柄な黒い体を縦に割る。
耳障りな甲高い悲鳴をあげて、まっぷたつになったそれは黒い塵になり、地に積もった。

「チェエエエストオオオ!」

一切間断なく、彼の刀は次の獲物を塵にする。
小さな鬼は、いわば雑魚だ。
一体の力はさしたるものでもなく、サーヴァント……田中新兵衛の敵ではなかった。
しかし、椿の木陰から、地面から、後から後から湧いてくる。
さらに椿ばかり生えているあたりの林は、密集しているところは目隠しとして視界を思いの外、遮ってくる。

「ッ!」

上から降って来て肩に噛み付いた一体の頭を、新兵衛は大きな手で鷲掴んで、地面に叩きつけた。
その邪鬼はそれで塵になった。

「田中君!」
「先生! この程度なんともありません」

死角をかばい合うようにして武市瑞山と田中新兵衛は戦っていた。
武市も相当な使い手であり、彼の刀もすでに数えるのも飽きるほど邪鬼を滅している。

「田中さん! 武市先生! そっちにいるんですか!?」
「マスターの声です」
「我々はここだ!」

声からすれば、そう遠くないようだが、姿は見えない。

武市と新兵衛は、攻勢に出て邪鬼を怯ませてから、声のした方に駆ける。
足は二人の方が鬼より速いようだ。
しかし向かう先からも四、五匹来るのが椿の影から見える。
あたりは戦闘の余波で椿の花が一面に落ちている。それを踏んで鬼が来ている。

「田中君、面頰を外して顔を少し下げなさい」
「え……? はい」

新兵衛が言われた通りにすると、視界が武市の顔でさえぎられ、くちびるとくちびるが触れて。
熱い舌が入り込んできて新兵衛の舌と触れ合った。

「ん」
……ふ、渡せるだけ魔力を君に預けた。突破力があるのは私より君の方だ。頼む」
……ぁ、身命を賭しても!」

その後、獅子奮迅の勢いで椿ごと道を切り開いた新兵衛と、その後ろを守りながら進んだ武市は。
レイシフトの座標がズレたために、出鼻からはぐれる羽目になったマスターたちの一団と無事に合流した。
ここは、昭和三十八年の冬至、山口県萩市の、笠山という場所である。
正確には、日本海に握りこぶしのように突き出た笠山の北端、半島からさらに小さく飛び出た虎ヶ崎。
ここに公称二万五千本のヤブツバキ群生地がある。もっとも、椿以外の木を伐採して椿ばかりの林として整備されたのは昭和四十五年以降だが。

今この微小特異点は、常緑樹の緑と、鮮やかな紅の花、椿の木で満ちた山になっていた。

時は少し遡る。
カルデアでは今回またしても微小特異点の兆しが観測されていた。
最初にメンバーとして選ばれていたのは、武市や新兵衛と同じく、SAITAMAを経て今やカルデアのサーヴァントとなっていた高杉晋作だったが、彼は。

「やあ、地元だからってお鉢が回ってきたけどそのまま君たちに渡したくて」

武市と新兵衛をたずねると、レイシフトメンバーの交代を打診した。

「マスターに話は通してある、君たち二人がOKすれば良いってさ」
「何か企んでいるのではないだろうな」
「ないない、純粋にイヤだから。いや、イヤな予感がするから。下手に行くと僕が相手の親玉に祭り上げられそうなというか。湧くのは僕の知り合いや無念だった奴らだろうし」
「と、いうと」
「今回の特異点、僕らがSAITAMAで暴れた連鎖反応だろうっていう話は、観測結果やダヴィンチ女史たちの話にもあったんだ。そうなると、モロに長州勢の怨念が具現化するんだろう。さすがに僕は引っ張られない自信はない。君らの方が安牌ならそっちを選ぶべきだ。田中君なんか、結局、武市に聞いたら僕の藩の奴らがいらんこと言ったんだろ。ちょうどいいからちょっと斬ってきなよ」
「貴様……!」
「見知った顔が出てきそうだから土佐と薩摩の我らに、というのは論理的ではあるな。しかしまた、何故、あんな場所が」

あからさまに警戒を顔に出す新兵衛を視線でなだめ、武市がたずねる。

「もうすぐクリスマスだろ」
「?」

トンチキな一言に、流石に顔中にクエッションマークを浮かべた武市に対して。
高杉は目を細め、真剣な顔で続きを述べる。

「あの笠山ってさ、元々萩城の鬼門で、禁足地だったんだよね。ああ見えて小さくても火山だし、風穴も無数にある。悪いモノが出て来るにはうってつけすぎる立地なんだよ。クリスマス、聖夜っていっても。結局、冬至祭が由来だって話もあるそうじゃないか。日本の冬至は、邪気が、鬼が出る日だ。そういうもんだろ。おおかた西洋もそんな日にとびっきりハレの祭りで邪気を払う、元々はそんなとこじゃないかな」

高杉はそこまで言って、ニヤッと笑った。

「あ、ちなみに坂本君も今回はパスだってさ、あのお竜とかいう子が、火山で湧くのまつろわぬものとなると『相性が良すぎる』から、大事をとるそうだ」

そこまで話した高杉の顔は、この土佐と薩摩の二人が断るとは思っていない顔だった。

「血濡れのデートなんて、君たちお似合いだろ。譲ってあげるよ。帰ってきたら厄落としの柚子湯の一つでも、サービスで用意しておくから。二人で浸かればいい」