John
2022-11-12 11:01:09
1735文字
Public 武新
 

洋装

武新。
カルデアの二人。
全年齢。
田中君にスーツを着せたい武市先生。

「凄いですね、このスーツは動きやすい。洋装は そでぐりがきつく、太腿 ふともも上腕 じょうわん、胸の布がはち切れそうになるばかりで刀を振るえないだろうと思っておりましたが」
「魔術的にまれた霊衣 れいいだ、ただ布を つくろったものとは訳が違うだろう」

いつもの髪型にダブルボタンのスーツを着て腕を回している田中新兵衛は、大きく見開いた四白眼を物珍しさに輝かせている。
武市は自らが QPと要望を出した服を義弟が着て喜んでいる様を、目を細めて ながめながら話す。

「何よりフルオーダーで君の身体に合わせた一点物はやはり違って当然だろう、ミス・クレーンの腕は確かという事でもある。凄い女性がカルデアにはいるな」
……そう、ですね……

フロント・ラインは、ダブルボタンの定番で武市と同じスクエアカットが直線で生真面目な印象と悪の幹部のイメージを同時にもたらし。
武市と そろいの配色で漆黒や墨色など黒で構成されたスラックスとジャケット、シャツを新兵衛は着ている。
ネクタイが紅緋 べにひ、ベストが妖艶 ようえんなワインレッド、がっしりとしたラバーの厚い黒の革靴に深緋 こきあけ靴紐 くつひもをしている以外は総身、黒……に見える。

が、実はこのダブルボタンのジャケット、裏地 うらじ正絹 しょうけんといった ふうで、白地に色とりどり染め抜かれた菊を金糸が縁取り絢爛 けんらん乱菊模様 らんぎくもようになっていた。

「あの、この裏地は。やはり、少し私には派手では、先生」

ボタンを外しジャケットを少しめくって内側を のぞいた新兵衛は、振袖 ふりそでから切り抜いて持ってきたような きらびやかさにやんわり恥の感情を述べる。
言い終わると口元を おおう黒いプリーツマスクの下で、くちびるをきゅっと一文字に強く引き結んだ。

しかし武市は。

「田中君いいんだ、着ている間は見えないというのが いきだ。君がそれを まとっている事を私ぐらいしか知り得なくても、許容 きょようできないか?」

と、上機嫌を にじませた穏やかな微笑の声で言った。
表情は冷静に動きが少なくとも武市の心には満足と感動があるようだ。
紅緋のネクタイは、よく見れば光沢の違う糸で鳳凰 ほうおうが刺繍されている。
光の加減を切り替えて長く凝視 ぎょうししなければわからないほどの図絵だが新兵衛の胸の中央には瑞鳥 ずいちょう宿 やどっている。

作成中、採寸 さいすんされる間、あまり親しくない女子に業務上とはいえやたらベタベタされる事に不機嫌だった新兵衛は武市に なだめられ、ついには全ての彼の倫理観や感情を武市の言付けという論理で圧殺 あっさつし。
トルソーのように大人しく採寸され素肌 すはだにメジャーや布を当てられていたが。

『鳳凰は龍のつがいですから、ネクタイに鳳凰を入れましょう』と鳳凰とは違う瑞鳥の女性が言い、『そうか、頼む』と武市が すずやかに了承した際には、真っ赤になったまま最早一言も発せられなかったのだった。
その場には三騎しかいなかったがミス・クレーンの発案は鶴の一声であり、武市の要望がそれに続く。新兵衛の立場は最終的にトルソーだった。

しかし製作者はともかくとして、脱いだら見える裏地を義兄は知るが何でもない他者は知り得ない、とは。

「それは……
「駄目か?」

それは。

何とも新兵衛の着心地よい事ではあった、だが新兵衛にとってそれは裏地よりもなお秘しておきたい。

「いえ、このように御高配 ごこうはい たまわり、それだけで身に余る幸せです」
……そうか。田中君そろそろブリーフィングまで時間が迫ってきた、足を早めよう」
「はい、武市先生」

今回の微小特異点、何故かレイシフト特性がスーツ姿のサーヴァントにしか無かった。
市街地での聞き込み調査も予想され場所は日本だ、武市瑞山や岡田以蔵などに出撃の依頼が来たのだが。

武市は副官に、新兵衛も連れて行きたいと述べた。

カルデアの廊下を、二騎は出撃に向けて足早にかけていく……