John
2020-11-17 23:01:25
1754文字
Public 音楽家
 

不意打ち

カルデアのアマサリ。
本編のネタバレなし。
まだサリさんがカルデアに初召喚されて間もない頃。
ぐだお(男主人公)が脇役で出てきます。

その戦闘は不意打ちから始まった。
しかし、そのとき随伴している二騎は大変耳が良かった。
マスターよりも早く、機械的な迷いのなさでミゼリコルでが振るわれ、エネミーを串刺す。
もう一騎も耳の良さで素早く、魔術的な支援を行った。
サリエリの宝具でエネミーは薙ぎ倒され。
辺りの敵性反応は一掃され、戦闘は終結した。

「は〜、ヤバい。驚いたな……
「圧縮した殺意に魔力を混ぜ、放射しただけの。悪意の濁流。醜悪さに味方の士気も下がる。貴様も我の宝具に怯懦したであろう。死の刃に晒されたくなければ、我の側に寄るな」
「いや、別に。君の宝具に怯懦はしないさ」
「ならば敵襲に怯えたか」

答えた相手に、嘲りを込めるように吐き捨て。
サリエリは興味を無くしたように、待機状態とも言える状態へもどる。
無駄話をする気はない、というように。
それでもサリエリの方を見ている金髪の男に、マスターは声を潜めて話しかけた。

「認識齟齬の魔術で誤魔化してるとはいえ、大丈夫? 自分を殺したがってる相手と一緒に、戦いに出るなんて」

そう、サリエリからすれば、自分と一緒に戦っているサーヴァントは。
アマデウスではない、別の音楽家のサーヴァントという認識で。

「僕が多少戦闘を伴うかもしれない素材の回収について行って、サリエリの戦いぶりを見聞きしたいって頼んだんだ。それは大丈夫。しかし、不意打ちすぎて驚いたよ」
「アマデウスさんが戦闘に出たいなんて珍しすぎて」
「ちょっと驚きすぎて、今すぐ演奏を求められたら、さすがの僕も音を外しそうだ。手が震えてる」

困ったように、眉根を寄せて、青い目と黒い髪の青年にアマデウスは言う。
彼が音を外すなど、本当ならばかなりの事だが。
マスターは、実戦に不慣れな様子に苦笑する。
一般人より戦い慣れしていないサーヴァント、不意の敵襲に音で反応したものの……という状態に、逆に親近感すら覚える。

「不意に始まった戦闘だったからね……
「そうそう、まだ心臓がばくばくいってるよ。十五分くらい休憩もらってもいいかな? ほら、本来なら個室で一息つくような」

八重歯をのぞかせる屈託ない笑顔、おどけた声音でアマデウスは言った。

「トイレ休憩って言いたいの? アマデウス、下ネタはマリアさんに」

マスターは呆れ顔で、彼の初恋の名を持ち出す。

「あーいや、そんなつもりはないよマスター。マリアに告げ口は勘弁してくれ。ともかく、少し席をはずすよ」

両手のひらを向け、おどけた表情で、彼は少し離れた茂みと木陰へと離れていった。




「あぁ、音楽だ。しかもあんなに醜怪な、人間の恥部を曝け出す悪意と敵意を響かせる音を指揮して奏でるなんて。お優しく慎み深いサリエリ楽長が、あんな音楽を演る。そいつをこうして生で聞けるとは、サーヴァントになってみるもんだね」

木の影、マスターたちがいる方向とは逆側の幹にもたれると。
アマデウスはそう独り言を吐き出した。

「不意打ちだよ。興奮が収まらないじゃないか。そうして君がここまで来たのが。君自身のためじゃなく、僕の所為であればいい。そんな背徳を思ってしまうほどだ」

そう、彼が音を外しそうなほど動揺したのは、不意打ちの戦闘ではなく。
サリエリの宝具に対して。
それは、恐怖ではなく、その魅力に昂ぶるような心持ち。

……こんな顔は、マスターには見せられないな。マリアにだって、見せられはしない。サリエリ、君になら、この凶暴な気持ちを突き立てたい。一方的に損いたい、僕のための……

サーヴァントの彼は、普段、そこまで内心の表情を露わにしない。
頬をそれと分かるほど染め上げて、目を興奮にぎらつかせるなど、彼の常にはないことだった。

「良くないぜ、ヴォルフガング。他人の音に当てられてこんな気持ちになったままは。さあ、戻ろう」

そう、自分に言い聞かせるように言うと、彼は良くカルデア内に貸し出している仮面を装着した。
目隠ししていても鍵盤を正確に奏でる天才性を示す、そのためではなく、今は表情を繕うために。
彼は、親しくなればなるほど、その相手を遠ざけたがる。

ただ、舞台袖の同業者には、客席へ向けていない側面を見せることもあるのだろう。