John
2020-11-01 23:11:43
2192文字
Public 音楽家
 

Ring of

内容は第二部一章までクリア済み推奨ですがいつのカルデアかはわかりません
攻め女装……だろうか?
アマデウスとアマデウスとサリエリの話。

「Trick or Treat ! って、昨日の晩。僕のところに言いに来てくれなかっただろう、サリエリ」

私室の扉をノックされて開ければ。
そこには、首から上の白馬の被り物をした男が立っていた。

「あんなに律儀に殺しに来てくれたのに、昨日もそうしてくれないと」

筋が浮いたように作られた頸部から、神才の声がくぐもって聞こえる。
本当の頭と口はそのあたりにあるのだろう。

昨日はハロウィン、といっても古のヨーロッパの暦は日没が一日の区切りである。
今がサウィン祭の昼という事になるのだが。

「貴様はその仮装でパーティへ出ていた筈だが? 煩くこの部屋まで貴様の音が響き、殺意という貴様の影響を押し殺し、籠もっていた私の……我の意をあざ笑うとは。今すぐ貴様の霊核へ、慈悲の剣を突き立ててくれようか? そうされたくないなら、疾く、失せるがいい」
「ふふ、あははは!」

苦虫を噛み潰したような顔でサリエリは言い放ち。
アマデウスは大笑した。

「なら、我慢することない。早く、早く、早く! 悪意の剣で、迷える僕の体を貫いて!」

そうして、おそらくは笑顔のまま。
両手を広げ、誰かを抱きしめようとするような格好で。
無防備に急所を晒す。
それを見て、サリエリの顔色は青ざめた。

「君にはできないかい? 相変わらず」

サリエリは、うつむき、目をそらす。

「巫山戯るのも大概にしろ」
「むしろ……君を貫いて満足させられるモノを持ってるのに、雌馬の仮装なんて外面詐欺にもほどがある、笑っちゃうよね」

下世話な匂いの香る台詞を臆面もなく放ち。
白のローブに白のマントを、アマデウスは示すように翻す。
普段の黒い外套とは裏腹に、今の仮装は白が主色の服だ。

昨夜、ハロウィンの仮装をして、アマデウスは隊列を組んだ楽団を引き連れ。
マーチング用の指揮杖を構えて音楽を奏でながらカルデアを練り歩いていた。
そうして、酒と食べもの、おひねりをたらふく懐に入れた筈だ。

一時、カルデアはハロウィンの季節に必ず特異点が出現していたが最近は静かなものだ。
このところは、アメリカやヨーロッパ、ケルト系サーヴァントを中心に『普通に』ハロウィンパーティが開かれている。

「一度、止むに止まれぬ事情から魔力供給した事があるだけだろう。思い上がるな」
「へぇ……奥手だな。僕にしては。いや、まあ、そんなものか」

ぽそり、と呟かれた一言に、流石に違和感を確かにし。
アヴェンジャーは問いただす。

……なぜ知っている、そしてなぜ知らない」

アマデウスは笑みを含んだ声音で言う。

「知っているだろう、知っているさ。君は僕になって、僕は君になったんだから。そして知らないよ。ここは僕にとって過去であり未来であり、僕がいた世界ではないから」

その言葉で、決して忘れぬ復讐者は、自分ではない自分の記憶に思い当たる節を求めた。

「暇をした奇跡がこんなイタズラをしたのかもね。よほど暇なんだな、なにしろ僕を君のところへ行かせるなんて」
……
「君のピアノ、佳かったよ。熱くてとても激しく、リクエストにまで応えてくれた。恋の歌は綺麗に煌めいて、何よりのご馳走だった」

サリエリは、それで。
このアマデウスが自分にとって、死者の亡霊と同義だと思い当たった。

「サリエリ。いたずらしてほしいかい? それともお菓子?」

妖艶に、意味ありげに微笑んだだろう声音はそう言った。
実際には、どこか締まらない馬の仮装が解かれていない。
真面目でセクシーな声音は一瞬で、男は次には、けたけたと笑ってから言った。

「どうせお菓子一択だろう? さあ、あげるよ」
「菓子はこの場合、私がおまえにやるのでは」
「細かいこと言うなって」

サリエリの手には、ドライフルーツを練りこんで焼き上げられたフルーツケーキのような菓子が、ねじ込むように渡される。

「じゃあね、さよなら。曲のお代はちゃんと払った。適当に魔力の足しにしてよ。僕だって踏み倒してばっかりじゃないぜ。ここの僕と仲良くね」

そう言って、ひらひらと白手袋の手をふり、白馬は去って行った。
あえてそれを、サリエリは追わなかった。
追ってもきっと、追いすがり引き止めることはできないだろうと、予感があった。
部屋にもどると、サリエリは、何の変哲もないような顔でラッピングを剥がしケーキを取り出す。

「そもそも、おまえの死に際の頼みだ。演奏代がいるなどと思う方が失礼だが。第一、おまえに応えたサリエリはもう死んだ。我は焼け焦げたその遺灰だ」

ぼそり、と、死神は言ってから。
どちらかといえば、カップケーキのような代物を口に運ぶ。
齧ると中から折りたたまれた油紙に包まれた何かが出てきて。
それを更に開けると。

指輪が一つ、転がり出た。

内側に、恋の歌であり星の歌である曲の一節が彫ってある。

「切り分けていなければ当たりも外れもないだろう。バームブラックか。婚約を取り付けたい、などというならもっと素直に渡すがいい」

聖なる杯の欠片……その程度はある魔力を形にしたようだ。
割れて壊れた世界の最後の涙だろうか、それとも。
その、生贄の白馬を煮るためだったかもしれない大釜の欠片を、しばらく悩んだのちに。

サリエリは懐へ大切に仕舞い込んだ。